9話 魔女様は気合を入れる
校長の話ってなんであんなにダルいんですかねって思いながら書いてたら新キャラが颯爽とハショってくれました。
こんな副校長が欲しい学生生活でした……。
前技練祭の優勝者である魔女が初登場です!
彼女とシルヴィは戦うことはあるのでしょうか……。
「あー、全員揃ったな。ではまず、技練祭の前に私から挨拶や諸注意などを――」
「だー、お前のそういうクソ真面目なとこはこういう場所では合わねぇんだって! 俺に貸せ!」
「お、おい!」
アーデルハイトさんが持っていた拡声器が、駆け上ってきた金髪の男性に奪い取られてしまいました。
胸元を大きく開いたワイシャツとスーツパンツでラフに着崩しているその男性は、アーデルハイトさんを払うように高台から追いやると、爽やかな笑みを浮かべて話始めます。
「おはようお前ら! 今日は最高の運動日和だ、思いっきり体を動かして楽しんでいこうぜ!!」
「「おぉー!!」」
「お前らが日頃、どんな研究をしてたかも見てもらえるチャンスだ。名を広めたい奴は気合入れてけー?」
「「うおおおおおお!!」」
「うーっし! そんじゃ、第百二十一回技練祭……開幕だ!!」
彼の宣言と共に、盛大に花火が打ちあがりました。それと同時に、割れんばかりの拍手と大歓声が沸き上がり、会場のボルテージが一気に最大まで上昇しています。
そして彼は大きく手を振ると、やや落ち込み気味のアーデルハイトさんに拡声器を戻しながら去っていきました。彼は一体何だったのでしょうか?
「せっかく挨拶を考えてきたというのに台無しじゃないか……。まぁいいか。ではこれから、模擬戦のブロック分け抽選を開始する。全員、ウィズナビを出せ」
ポケットからウィズナビを取り出して起動すると、画面に招待状が入っていた手紙のようなものが現れました。猫の手でぽんぽん、と触れられているところを見る限り、触って開封しろと言うことなのでしょうか。
とりあえず触ってみると手紙の封が開けられ、中から何かの絵が描かれた紙が表示されました。湖の上に立つ、体も水でできているような女性の姿です。
レナさんの画面を見ると、私と同じものが表示されていました。ブロック分け、ということは恐らくレナさんとは同じブロックなのでしょう。
「同じブロックの者とは最大二人までペアを組むことが出来る。無論、ペアなど組まずにソロでの出場も可能だ。もしペアでの出場を望むのであれば、ウィズナビからペア登録をする者の名前を入れて報告するように」
それはありがたい情報です。攻撃ができない私としては、普段から一緒にいることも多く、動きを合わせやすいレナさんと一緒に出場したいところです。
レナさんにその旨を提案しようと顔を見ると、レナさんも同様の考えであったようで、私の顔をじっと見ながらいつの間にか手を握られていました。
「一緒に出るわよシルヴィ!! 攻めのあたしと守りのシルヴィが組めば最強だわ!!」
「はい! こちらこそよろしくお願いします、レナさん!」
私から承諾が取れたレナさんは、手早くウィズナビを操作して二人分の名前を入力して送信しました。
どうやら私達以外にもペアを組もうとする方が多いようで、あちこちで誘いあう声が聞こえます。中でも凄い人だかりができるほど人気だったのは、どこかメイナードを彷彿とさせるような髪色の、全身ダークカラーで統一された魔女の方でした。
「エルフォニア様ぁ~! 私とペアを組んでくださいませんか!?」
「エルフォニア、俺と組まないか!? お前となら優勝は硬い!」
「エルフォニア様! エルフォニア様!」
エルフォニア、と呼ばれながら囲まれている魔女の方は、夜闇を思わせる深い紺色の瞳で周囲の人だかりを一瞥すると、小さく首を振りました。
「いいえ、私は一人で出るわ。誰かと組んだ経験もないし、ぶっつけ本番で息を合わせられる自信も無いから。それとも、あなた達は見ず知らずの人とペアを組めと言われて、実力を完全に引き出せるのかしら?」
その問いかけに、騒いでいた囲いの人達は押し黙ってしまいます。
誰も言葉を返せないでいることに深く溜め息を吐き、艶やかな黒髪を後ろへ払うと冷たい声で言い捨てました。
「結局のところ、自分では勝ち進めないから私と組むことで勝ちたいってところでしょう? そんな見え透いた下心を持つ人とは組みたいとも思えないの。さようなら」
エルフォニアさんが移動を始めようとすると、囲っていた方々が道を開けるように割れていきました。それを振り向きもしないまま立ち去る後ろ姿は、誰も寄せ付けようとしない冷たい雰囲気を感じさせます。
けれども、どうしてでしょう。その冷たさは、どこか寂しそうな印象を感じてしまうのは気のせいでしょうか……。
後ろ姿をぼんやりと見送っていると、いつの間にか近くに来ていたらしいローザさんの声で引き戻されました。
「エルフォニアねー。すっごく腕のある魔女で次期大魔導士候補だなんて噂されてるけど、優秀過ぎるのとあんな感じにいつも冷たいから、いつも孤立してるんだよね」
「ローザさんも知っている方なのですか?」
「知ってるも何も、去年の技練祭来た人なら全員知ってるんじゃないかな? 模擬戦で対戦した人全員に完勝して、そのまま優勝も攫っていった【暗影の魔女】ってね」
「そんなに強いのあの人?」
「強いなんてもんじゃなかったかなー。毎年実力の高い人同士がぶつかって凄まじい競り合いが見られるんだけど、ほぼ勝負が一瞬で終わっちゃうくらい圧倒的だったよ。今のところ、単純な魔女としての実力は群を抜いてるんじゃない?」
ローザさんのお話で先ほどの人だかりの意味がようやく分かりました。
恐らくは皆さん、直接やり合いたくないからという心から味方につけておきたかったのでしょう。なんだか人を道具か何かのように見ているような気がして、少しだけ嫌な気持ちです。
そんなことを考えていると、突然背後から両の頬を摘ままれました。
「んやっ!?」
「は~い、難しいこと考えるのはそこまでだよシルヴィちゃん! せっかくの可愛い顔が台無しだよ~?」
「お、おーじゃしゃん! はやしへくやしゃい!」
しばらく揉まれたり遊ばれた後に解放されると、それを見ながら笑っていたレナさんが口を開きました。
「ローザの言う通りだわシルヴィ。思うところがあるのはわかるけど、あたし達的に問題なのはエルフォニアをどう倒すかってところでしょ?」
「確かにそうですね……。私達も勝ち進めばどこかで当たることになりますし、対策を考えるべきですよね」
「そうよ! あたし達は総長さんに馬鹿にされないためにも、絶対勝たないといけないんだから!」
レナさんはそう言うと、私に向けて握りこぶしを突き出してきました。これは一体……?
「ほら、シルヴィもグーを当てて! あたしの世界――じゃなかった、国での“お互い頑張ろう”の仕草よ」
「なるほど。こう、ですか?」
コツン、とお互いの握りこぶしを当てると、レナさんがニッと笑います。私も笑い返すと、隣にいたローザさんも仲間に入れてと言わんばかりに同じように拳を突き出してきました。
三人で改めて拳を当て直し、レナさんが気合を入れるためにも音頭を取ります。
「さぁ! 技練祭頑張るわよー!!」
「「おー!!」」
気持ちを切り替えていきましょう。
シリア様に情けないところを見せないためにも、これからの模擬戦に集中しないとですね!




