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484話 ご先祖様は成就する

 場面が切り替わった先では、シリア様を王妃として受け入れていいかどうかの激しい議論が繰り広げられていました。


 身分の無い人間というのも幾度となく議論されていますが、その議論の中でも特に焦点となっていたのは、シリア様が魔王を討った際に使用した闇魔法についてでした。

 この時代での闇魔法という物は、魔族にしか伝わっていなかったことから謎の多い分野であり、勇者一行による証言だけを以ても、“死を超越した”“呪われた滅びの槍を使った”“魔王に不死の呪いを掛けた”という内容が並んでしまい、シリア様の立場が非常に悪くなってしまっています。


 しかし、その劣勢を覆したのは思わぬ人物でした。


「その魔女の腕なら俺が保証してやる」


「リグレス様!!」


 そう。かつてハールマナ魔法学園に在学しており、シリア様に難癖を付けていたあの上級生なのです。

 彼はハールマナ魔法学園を卒業後、自身の父が務めていた魔法庁の重役として就職していたらしく、ラヴィリス以外でも名の知られる重要な人物となっていたようでした。


「では、人柄については私が保証しようじゃないか」


 そう言って彼の横に立ち並んだのは、シリア様の恩師とも言えるレイヴン先生でした。

 彼らによって、シリア様が在学中に見せた他者の魔法を解析して模倣する特技と、在学中及び卒業後にラヴィリスとグランディア王国へ多大なる貢献をしていた点の説明が行われ、難色を示していた貴族会の方々にも理解していただけています。


 彼らの説得によって態度が軟化し始めたところへ、現国王であるユースさんから改めて王妃として迎え入れたいとの話があり、シリア様は無事に王妃となることができたのでした。

 そんなシリア様が、かつての先輩にお礼を述べに向かうと。


「勘違いするなよ。お前を王妃に据えれば、何かと便利になるからだ。魔法庁の発展のために、王権を無理やり使わせてやるから覚悟しておくんだな」


 と言い放ち、シリア様を困った顔にさせてしまいます。

 ユースさんと言い彼と言い、どうして素直に言えないのでしょうかと私達まで苦笑していると、再び場面が切り替わり始めました。


 そこでは、グランディア王城から街並みを見下ろすシリア様とユースさんがいて、彼女達の視線の先には楽しそうに買い物を楽しむ女性や、男女分け隔てなく働いている姿が見受けられます。

 優しい顔でそれを眺めていたシリア様は、ふと空を見上げながら呟きました。


「お父さん、お母さん、ノウス……見てくれていますか? 私は、この国を変えることができましたよ。男性でも女性でも、自由に生きていられる国を……」


 ユースさんは感傷に浸っているシリア様に声を掛けることは無く、ただそっと寄り添っていました。

 二人で叶えた、理想の国の絵。その幸せと実感を噛みしめているお二人に、私も胸が温かくなります。

 しかし、そんな時間に終わりを告げるように唐突にドアがノックされ、シリア様達は現実に引き戻されてしまいました。


「陛下。お客様がお見えです」


「通してくれ」


 ユースさんの言葉に従ってドアが開かれると、そこにはかつての仲間であったロイガーさんとフラリエさんがいました。

 フラリエさんの腕の中には小さな赤ちゃんが抱えられていて、彼女の胸にきゅっと抱き着きながら安心しきった表情で眠っています。


「よぉ! 久しぶりだな、二人とも」


「ちょっとロイガー、二人はもう王家の方なのよ? ご機嫌麗しゅうございますって言わなきゃでしょ」


「ははは。よしてくれ、俺達の仲でそんな堅苦しいのは合わないだろう」


「本当に久しぶりですね。元気でしたか?」


「元気も元気よ! この前なんか――」


 ユースさんが勧めたソファに腰掛けると、やがて誰からともなく近況報告が行われ始めました。

 魔王討伐後に、報奨金として使いきれないほどのお金を戴いたロイガーさんとフラリエさんは、その半分を孤児院に寄付して旅に出ていたそうでしたが、男女の二人旅ともなれば距離が近くなるのも必然であり、こうして二人の間に子どもを授かったため、その報告にと帰国したようでした。


 そしてここにいないクミンさんについては、役目を終えたため聖導院へと帰っていたようでしたが、帰った後も何かしらの役割を与えられたらしく、今もどこかを旅しながら誰かの困難を乗り越える手伝いをしているのだとか。


 彼らの話から時系列を拾い上げていくと、今は魔王との激闘から既に四年ほど経過しているようで、シリア様は現在二十六歳ほどになっているようです。

 確かシリア様の享年……と言いますか、神へ昇華した歳と言えばいいのか分かりませんが、とにかく人間としての役目を終えていたのは四十ちょうどだったはずなので、あと十四年ほどで魔導連合を設立したりと色々あるはずです。


 そう思っていると、体の奥からあの鈍い痛みが小さく走りました。


「シルヴィ?」


「……まだ大丈夫です」


「それは大丈夫とは言いませんのよ? ほら、あの飴を口になさい」


 レオノーラに急かされながら、大神様からいただいた飴をひとつ取り出します。

 それは飴の中が七色に渦巻いている不思議なもので、見ているだけで時を忘れてしまいそうな美しさを持っていました。


「見つめていても効果はありませんのよ?」


「そうですね」


 口に含んで舌先で転がすと、何とも言えない味が口の中に広がります。

 これは何でしょうか……。ミントのような爽やかさと一緒に、かなり癖のある塩味とレナさんからいただいた黒糖のような甘みがあるのですが、その……。


「どうしましたのシルヴィ? 凄い顔になっておりますわよ?」


「いえ……」


 神様からいただいた物、ましてや食べ物に対してこうした表現をするのは非常に良くないことだと分かってはいるのですが、どうしてもこの表現以外でこの感覚を現すことができません。


「少し、お手洗いを思い返す味だと思っていまして」


「はい?」


 爽やかな後に襲ってくる、えぐみのある味。何となく自分の口を伝って鼻に届く、お手洗いを掃除している時に漂うあの(にお)い。

 良薬は口に苦しとはよく言いますが、ここまで口の中が凄まじいことになる味になるほど、この飴の効能が強すぎるものなのでしょうか。

 つい吐き出してしまいたくなる気持ちを必死に抑えながら舐め続けていると、確かに先ほど感じた痛みがかなり和らいでいるのが分かりました。


 いっそ、噛んで流し込んでしまいましょうか……。ですが、食べることで効果が得られるのではなく、舐めている間だけ効果があるというものであった場合、ひとつ分かなり無駄になってしまうことになります。

 そんな葛藤に苛まれながらも、私の視界の奥ではあのモノクロの景色が広がり始めていました。

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