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483話 ご先祖様はプロポーズを受ける

 場面が切り替わると、今度は凱旋を果たした勇者一行と、内政が腐ってしまっていた王家との戦いが繰り広げられていました。


 勇者一行を襲っていた数多の奇襲、シリア様の魔道具による側近の女性の発した言葉の録音音声、その他【始原の魔女】がひっそりと集めてくれていた状況証拠などが提示され、王家側の方々が懐疑の目を向けられています。

 やがて、その全てを認めた当時の国王陛下が席を立ち、自身が被っていた王冠をユースさんの頭に乗せると。


「清き心を持つ勇者よ。あとは託したぞ」


 そう言い残し、お付きの方数人を連れて姿を消してしまうのでした。

 その後、国王陛下の姿を国民総出で探すことになるのですが、一カ月経っても見つけることができなかったことから、疑似的に戴冠していたユースさんを新国王に据えることで、グランディア王国を維持する運びとなりました。


 新国王の誕生。それはつまり、国王の跡取り問題を取り決めなければならなくなるということで、日夜彼の下へ貴族諸侯が押し寄せては「当家の娘を妃に」とアピールし続けていましたが、ユースさんはその誰に対しても首を縦に振ることはありませんでした。


 そんなある日。魔王に和平の条件や今後の付き合い方などを書かせた書類を持ち帰ったシリア様が、いつまでも魔女が出入りしては王家が怪しまれるということから、こっそりとユースさんの部屋をベランダから訪れると、ユースさんから個人的な話が持ち出されます。

 その内容は――。


「シリア。俺と結婚してほしい」


 言葉を飾らない、率直な愛のプロポーズでした。

 王家に干渉し、国を良くしたいと考えていたシリア様は喜んで受けるかと思っていたのですが、意外にもシリア様はその告白に首を横に振ります。


「やはり、俺が頼りないからか?」


「いえ、そういう訳ではありません。いざという時、あなたが誰よりも頼りになり、先陣を切ろうとする勇気は私も高く評価していますし、私個人としてもあなたに好意が無い訳ではありません」


 シリア様はそこで言葉を切り、弱ったような苦笑いを浮かべながら続けます。


「ですが、王家に嫁ぐとなると話が変わってくるのです。私は苗字すら持たない庶民の生まれで、今では身分すら無い魔女。そんな素性の知れない怪しい女が、王妃になんてなれません」


 持って来た書類を彼に握らせ、シリア様は顔を隠すように魔女帽を深く被ると、くるりと踵を返してベランダへと向かいます。


「……こんな私を好きになってくれて、ありがとうございます。その言葉だけで、私は十分です」


 後半、声が震えてしまっていることを隠しきれなかったシリア様は、その場から逃げるようにベランダの手すりに手を掛け、ひょいと飛び降りようとします。

 しかし、その背中を逃がさないと言わんばかりに、ユースさんの細いながらもたくましい腕が彼女を抱きしめました。


「ちょっと、ユース! こんなところ、誰かに見られでもしたら――」


「見られてもいい!!」


 声量を上げ、強く抱きしめるユースさんに、シリア様の動きが止まります。

 彼はそのまま、シリア様に抱き続けていた気持ちを吐露し始めました。


「初めてお前に会った時、俺はお前の強さに惹かれていたんだ。誰にも物怖じしない精神力、高度な魔法を容易く操る実力。そして常に高みを目指そうとあり続けたその気高さ。どれも俺には無いもので、お前が羨ましかった」


「初めてお前に認められ、仲間になってくれたあの日。俺はせめて、お前に恥をかかせないくらい堂々としたリーダーであろうと思った。それぐらいしか、お前にできることが無いと思っていたから」


「でも、お前と日々を共にするようになってから、シリアという大魔女は、女に生まれたってだけで世界に差別される対象になってしまっていたから、それに抗うために自分を殺していたんだと気づいた。お前が心の底から求めていたのは、何てことのないありふれた人並みの生活だったんだって」


 その言葉に思い当たる節のあったらしいシリア様は、やや弱ったように声を落としながらユースさんへ言いました。


「……まさか、盗み聞きしていたとは思いませんでした」


「それについては謝る。あとでいくらでも魔法を撃ってくれても構わない」


 ユースさんは腕に込めた力をほんの少し強め、言葉を続けます。


「ずっと分からなかったんだ。どうしてお前が、そこまで強さに固執して力を求め続けていたのか。でも、その強さの裏側にあった理由を知ってから、俺はお前と同じ理想を描くようになっていた。お前と共に、誰も差別されることのない、自由な国を作りたいと思うようになっていたんだ」


 彼はそこで言葉を切ると、すっとシリア様から離れます。

 突然腕を離されて自由になったシリア様が振り向くと、ユースさんがシリア様に片膝を突く形でひざまずいていました。


「俺だけの力でこの地位を手に入れた訳でもないし、都合のいい話であることも十分分かっている。それでも、この地位を手に入れたからには――まずはシリア、お前から幸せにしたいんだ」


 ユースさんはそっと、シリア様へ手を差し伸べます。


「お前を魔女だと糾弾する奴から、絶対にお前を守って見せる。だからシリア。どうか……俺と、結婚してほしい。俺に、お前の理想を描く手伝いをさせてくれ」


 シリア様はその手を取ろうと、震える手を伸ばそうとしましたが、触れる寸前で引っ込めてしまいました。

 その手を自身の胸に抱きよせながら、シリア様は感情が隠しきれていない声で改めて問いかけます。


「私が傍にいるせいで、王家は魔女に操られていると言われるかもしれませんよ?」


「構わない。むしろ、その魔女すらも従える強い王であると示して見せるよ」


「学も浅く、気品もない私なんかより、ずっと理的で王であるあなたに相応しい女性がいるかもしれませんよ?」


「俺だって、言ってしまえば庶民の出だ。感覚が違う貴族を貰うより、お前の方がずっと相応しいと思わないか?」


「私より、ずっとずっと綺麗で可愛い人が」


「シリア」


 彼はそれ以上言わせないと、立ち上がってシリア様に抱きしめました。


「俺は今まで見て来た女性の中で、お前ほど素敵な人はいなかったし、これからも現れないと確信している。だってお前は俺の理想で、いくつもの死線を超えて来た仲間なんだから」


「ユース……」


 瞳が潤んだシリア様に、ユースさんは茶化すように笑みを浮かべると。


「それに、お前ほど立派な胸を持った女性もいな――ごほっ!!」


 雰囲気を台無しにする最低な冗談を言い放ち、シリア様の渾身のパンチを鳩尾に受けました。

 体を曲げて苦しそうに呻く彼に、シリア様は腕を組みながらぷいっと後ろを向いてしまいます。

 どうして彼は、変に気を使ってシリア様を度々怒らせてしまうのでしょうか。そうレオノーラと笑いあっていると、シリア様が彼に背中を向けたまま小さく呟きました。


「……責任」


「げっほ、げほ……え?」


「責任、取ってもらわなければならないんでした」


「責任って」


 何のことだ、と彼は問おうとしたのでしょう。

 しかしそれは、小さく振り向いたシリア様の顔を見て、言葉になることはありませんでした。


「魔女の裸体を見た者は、生涯をかけて、その魔女に忠誠を誓わなければならないのです。嫌だとは言わせませんよ?」


 茶目っ気のあるその小悪魔のような表情に、ユースさんは何も言葉を返さず、ただ笑い返すのでした。

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