番外編 魔女様のハロウィン・リベンジ編 ~獣人達と一緒~
迷った末、一番付き合いが長い獣人の皆さんとならと言うことで、私はエミリ達に連れられて彼らの村へお菓子をいただきに向かうことにしました。
「こんにちはー!」
「失礼致します!」
「おっ! 来たな魔女様のとこのちびっ子!」
「「トリック・オア・トリート!!」」
「はっはっは! ほら、お菓子をあげるから見逃してくれ」
「わぁい! ありがとうー!」
「美味しそうですー!」
以前エミリを庇い続けていてくださった獣人の方が二人にお菓子を渡し、それを喜ぶ二人の姿を木の陰から見守ります。
しかし、彼は見つかりたくない私の気持ちを露知らず、エミリ達に問いかけてしまうのでした。
「そう言えば、今日は魔女様はどうしてるんだ? いつも通り診療所にいるのか?」
「お姉ちゃんも来てるよ! あそこ!」
「お母様ー!」
二人に指で示され、緊張が走る私に連動して、ひょろりと長いサキュバスの尻尾がピーンと伸びてしまいます。
このまま隠れていたいところではありますが、来ているのに顔も見せないというのは流石に失礼なのでは……と葛藤し続けた結果、私は諦めて姿を見せることにしました。
出来るだけ体を両腕で隠し、沸騰してしまいそうなほどの熱を放つを背けながら出て来た私に、彼はぎょっとした顔を浮かべています。
「こ、こんにちは……」
「え!? 魔女様ですか!? これはまた、凄い仮装っすね」
「で、できればその、あまり見ないでいただけると……」
自分から見せておいてその言い草はどうなのでしょう、と思わなくもありませんが、どうしても羞恥が上回りすぎてしまいます。
すると突然、エミリがグイっと私の手を引きながら言いました。
「お姉ちゃんね、すっごいサキュバスなんだよ! イタズラされたら大変だよ!」
「そうです! お菓子を差し出さなければ、きっとお薬の材料にされてしまいます!」
そ、そんなことはするつもりはありませんが!?
そう思った瞬間、これはエミリ達からの助け舟なのだと理解することができました。
そうですね。確かにこの場から逃げるには、早々にあの言葉を告げて撤収するべきでしょう。
「え、ええと……。トリック・オア・トリート、です」
家を出る時にフローリア様に持たされたカボチャ型のバスケットを差し出しながら、彼へ選択を迫ってみます。
彼は少しポカンと呆けてしまっていましたが、次第に状況を理解してくださったらしく、笑いながらお菓子を取り出しました。
「魔女様のイタズラは本当に怖そうなんで、お菓子で許してください」
袋詰めされたクッキーをバスケットに入れていただいた瞬間、私もエミリ達と同じ子どもとして見ていただけているのだと知り、何とも言えない高揚感がありました。
そんな私の両手を再びエミリ達が抱きしめ、もう片方の手で彼に手を振り始めます。
「イタズラできなかったから他の場所いくね! お菓子ありがとうー!」
「悪い魔女は他の人を探しに行きます! ご馳走様です!」
「えっ、ま、待ってください!」
そのまま駈け出す二人に手を引かれながら、どんどん離れていく彼に声を上げます。
「お菓子、ありがとうございました!」
「ははは! 今日くらいは魔女様も楽しんでくるんすよー!」
彼の言葉で緊張や羞恥がほぐれ始め、私はようやく笑うことができました。
その後も私達は、村の皆さんの家を周りながらトリック・オア・トリートの選択を迫り続けることにしたのですが。
「魔女様からのイタズラ、この筋肉で喜んで受けましょう!!」
「さぁ! どこにイタズラしますか!? 俺のオススメは何といっても、この鍛え上げた大胸筋です!!」
「俺は広背筋!」
「この上腕もいいっすよ!」
「「むぅん!!」」
と、逆に筋肉を見せつけられる事態になってしまいました。
エミリ達がその逞しい腕にぶら下がり始め、体をぐるぐると回して二人を楽しませている彼らでしたが、次第に私を取り囲むように包囲してきます。
「な、何ですか?」
「いやぁ、俺達思ったんスよ。魔女様のために鍛えてるといっても過言ではないこの筋肉、魔女様に確かめてもらってないなと」
「そこで、さっきの魔女様の言葉をそのままお返ししようと思いました」
「ま、まさか……」
にじり寄る筋肉の圧に、嫌な予感しかしません。
そのまさかだと言うかのように、彼らはムキッと筋肉を隆起させながら声を揃えます。
「「魔女様、トリック・オア・マッスル!!」」
「し、シリア様ああああああああ!!」
私の叫びもシリア様は聞いてくださらず、私はしばらく彼らの筋トレのおもちゃにされてしまうのでした。




