8話 魔女様は技練祭に出る
遂に技練祭開幕です!
ここからなんちゃってバトルや激闘なども繰り広げられるので
ぜひ更新をお楽しみに!
翌朝。出発をする前に診療所を訪れてくださったディアナさんに、街へ卸す分と森の皆さんの分を預けていると、ちょうど迎えに来てくださったローブの男性がいつものように現れました。
「うわわわわ!? なにこれ!? 空に穴が! めちゃめちゃ怪しい人出てきましたけど!?」
「おはようございます、【慈愛の魔女】様。ご家族の方々もお揃いのようで」
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「え、何。魔女様達的にはこれ当たり前なんですか? ワタシそこそこ長生きしてましたけど、魔女様の移動って箒以外初めて見るんですが……」
『ふわぁ~……。なんじゃディアナ、やかましいぞ。魔女に常識を求めるでない』
「すみませんディアナさん。あまり魔女に常識を求めない方がいいかと……」
「あ、はい。そうですよね、なんかすいません……」
しゅんと項垂れてしまった姿がおかしくて笑っていると、「笑わないでくださいよー!」と怒られてしまいました。ディアナさんには申し訳ないですが、少し気持ちがリラックスできました。
「ふっふっふ。随分とお元気なご友人様がいらっしゃるようですな」
「はい。私のポーションを街へ運んでくださっている、ディアナさんと言います」
「は、初めまして! しがない運送業者のディアナと言います!」
「お初にお目にかかります。ですが、私のことは覚えて頂かなくても結構でございます。ただの使いです故」
「え、そうなんですか? 使いの人って言っても名前とかはあるんじゃ……」
ディアナさんが戸惑っていると、シリア様からかなり手を抜いた説明で代弁するようにと言われました。
「ええと、魔女にも色々と事情があるのです。あまり深く考えずにいつも通りポーションを運んでいただければと。獣人の方々にもよろしくお伝えくださいね」
「あ、はい! では、ワタシはこれでー!」
私達に頭を下げ、飛び去って行くディアナさんを見送り、改めて魔導連合本部へと移動を開始します。
少し慣れてきた転移の空間を歩いていると、後ろから大きなあくびの音が聞こえてきました。
「ちょっとフローリア、そんなに大あくびしないでよ。家じゃないんだからさ」
「えへへ~。今日の技練祭が楽しみで、昨日あまり寝れなかったの~」
「子どもか!! でもまぁ、気持ちは分からなくは無いわね。あたしもちょっとわくわくしてるし」
「でしょ~? でもでも、レナちゃんとシルヴィちゃんが出るところは、しっかり起きて応援するからね!」
「いや、そこだけ起きるとか逆に失礼だから……」
『くふふっ! 全く、情けないのぅ。エミリですら昨夜は相当早く寝ておったぞ? ほんに図体だけでかいだけの子どもじゃなお主は』
「は~い、子どもなので優しいシリアお姉ちゃんに甘えたいと思いま~す」
『このっ、抱き付くでない! 貴様だけ一人、別の場所に放り出してやろうか!?』
いつも通りのやり取りに笑いあっていると、気が付くともう出口でした。
光の先に魔導連合本部が見えてきましたが、お城の上空では綺麗な花火がいくつも打ち上げられ、垂れ幕には『第百二十一回技練祭!』と宣伝されていたりと、すっかりお祭りの色に染まっていました。
「お疲れ様でございました。会場はこの先、本部の中央競技場となりますのでそのままお進みください」
「あれ? 案内はここまでなんだ?」
「はい。私は他にもご案内する方がいらっしゃいますので、勝手ながらこちらで失礼させていただければと」
「そう。案内ありがとう、先に行ってるわね」
「ありがとうございました」
私とレナさんのお礼に深々と頭を下げると、ローブの男性は再び転移空間の中へと戻っていきます。私達も競技場の方へと言われた通りに進んでいると、人の流れに合流し難なく競技場へ到着することが出来ました。
そこは楕円状の観客席に囲まれた、とても広い場所でした。外周は土に似た素材でできた何かで埋め立てられているようで、規則正しく白線が何本か走っています。内側は芝生のようにも見えますが、自然のもののような感じがしません。これも魔法で作られているのでしょうか。
「うわぁー……これ、国立競技場より立派なんじゃない? 客席もそうだし、トラックもフィールドもめちゃめちゃ整備されてるわよ。ていうか、お城の中に作るには不自然すぎでしょ」
『元は四季の移ろいを楽しんだり、色とりどりの花々を愛でることのできる庭園だったはずなんじゃがなぁ。二千年の間に何があったんじゃ……』
遠くを見ながら寂しそうに呟くシリア様でしたが、意外と切り替えは早く『まぁ、当時から手入れが大変だという声もあったしの。祭りで使うならこっちの方が適しておるやも知れぬな』と笑っていました。
中央へと進んでいくと、拡声器を片手に整列を促しているアーデルハイトさんの姿がありました。
「出場者は列に並べ! 私語を慎め、指示が通りにくいだろう! ……ん? あぁ、【慈愛の魔女】達も来ていたのか。二人も、早速だがそこの列に並んでくれ。ご家族の方は入場ゲート付近の階段から観客席へ上がり、開催まで待っていてくれ」
「分かりました。ではシリア様、フローリア様。私達は列へ向かいますね。エミリも上で、シリア様達と一緒に見ていてくださいね」
『うむ。頑張るのじゃよ。いくぞフローリアよ、エミリも応援は後でじゃ』
「レナちゃ~ん! いっぱい写真撮ってあげるからね~! じゃあエミリちゃん、上に行こっか!」
「うん! 頑張ってねお姉ちゃん!」
「恥ずかしいから早く行きなさいよ! もう……」
客席へと向かう三人に手を振り、私達も列に加わります。私達の他にもかなりの数の出場者がいるようで、男女問わず様々な方々が列で待機しています。
気合が入った方々もちらほら見られ、その人達の空気に押されそうになっていると、私の左手をレナさんがきゅっと握ってきました。
「大丈夫よ、あたしがいるんだから!」
「レナさん……。そうですね、一緒に頑張りましょう!」
「目指すは優勝よ! ふぁいとー、おー!」
「お、おー?」
天高く掲げられた拳と掛け声につられ、思わず同じポーズを取ってしまいました。ですが、なんだか気持ちが高揚してくる気がします。レナさんの世界のちょっとしたおまじないなのでしょうか。
「うるさいぞ! そこの新参魔女共!!」
「「すみません!」」
アーデルハイトさんに見つかって怒られてしまいました。でもそれも楽しくて、怒られたというのにレナさんと笑いあってしまいます。
そのまま待機すること数分。ようやく全員揃ったようで、アーデルハイトさんが高台に登り、拡声器の音量を少し大きくして話始めました。




