番外編 魔女様のハロウィン・リベンジ編
今日はハロウィンということで、特別書下ろしになっています!
30分後に続編を投稿していくので、シルヴィと一緒にどこへ行きたいか選んでいただけると楽しめると思います!
「……こんなところでしょうか」
毎日の仕事場でもある診療所の掃除を終え、今の時刻を確認しようとウィズナビを起動させます。
表示されている時刻は、午後八時四十分。寝る時間が午後十時頃ですので、そろそろエミリをお風呂に入れないといけません。
その後は明日の朝食の準備と、ディアナさんやハイモンド商会へ卸すためのポーションの在庫確認を。あぁ、確か明日はエルフォニアさんが来てくださる日でした。彼女をもてなすための準備もしておかなくては……。
毎夜のことながら忙しくスケジュールを組み立て、ウィズナビをポケットにしまおうとした私は、画面に表示されていた内容が気になり、再び画面を表示させます。
時刻の下に二回りほど小さく表示されている、今日の日付は十月三十日です。明日で十月も終わりとなるので、そろそろ今月の売り上げなどを計算してシリア様へお見せしなければなりません。
そこまで考えて、ふと今日の日付に引っかかりを覚えました。
確か十月の三十一日は、お祭りのような何かがあったはずです。あれは何でしたか……。
「シ~ルヴィ~、ちゃ~ん!」
「わっ!?」
楽し気な声と共に、私の後頭部をずしりと重く柔らかい物が襲いました。
するりと回された腕を掴みながら振り返ると、今日はまた一段と楽しそうな笑みを浮かべていらっしゃるフローリア様でした。
「ねね、シルヴィちゃん! シルヴィちゃんは明日、何のコスプレをするのかしら!?」
「こす……?」
「コスプレよコスプレ! 明日はハロウィンでしょ~?」
「あぁー!!」
ようやく思い出しました! 十月三十一日は天に昇れなかった魂を返すために、自らもお化けなどの仮装をして楽しむというお祭りがあるのでした!
私はフローリア様を引きずってキッチンへと向かい、慌ただしく保存庫と倉庫の中身を確認します。
お菓子にできそうなものと言えば、先日スピカさんからいただいた甘みの強いカボチャとブドウ。あとはリンゴや梨も使えそうです。
「どうしたのシルヴィちゃん? 何か忘れ物?」
「いえ。フローリア様のおかげで、明日がハロウィンであることを思い出せたのは良かったのですが、お菓子を用意していなかったことを思い出しまして」
「な~んだ、そういう事なら気にしなくていいわよ!」
フローリア様は私から体を離すと、後ろ手を組みながら軽く腰を折り、ニコニコと笑みを浮かべて続けます。
「お姉さんが、シリアにいいものを作らせてるから!」
「シリア様にですか?」
「そう! 去年はレナちゃん達の衣装を作ってたでしょ? だから、今年はあらかじめシルヴィちゃんのもお願いしてるのよ!」
何ともありがたいお話ですが、同時に申し訳なさが込み上げてきてしまいます。
早速シリア様へお礼とお詫びを伝えに行こうとする私を、何故かフローリア様は必死に食い止めてきました。
「ストップスト~ップ! ダメよシルヴィちゃん! 今は邪魔しないで!」
「えぇ? ですが、せめてお礼だけでも」
「そう言うのは明日でいいから! ほら、お風呂まだでしょ? エミリちゃんは先に向かわせてるから、早く行ってあげて!」
グイグイと背中を押し、私をシリア様の部屋から遠ざけようとする彼女の行動に疑問は絶えませんでしたが、時間も時間であったことから、私は明日シリア様にお礼を言うことにして一日を終えることにしました。
そして翌日。
「な、何ですかこれは!?」
『うむ! やはり妾の見立てどおりじゃな!』
「お姉ちゃん、レオノーラさんとお揃いだ!」
「お綺麗です、お母様!」
シリア様から手渡された新作のチョーカーを着けるや否や、私の見た目の種族がレオノーラと同じサキュバスとなっただけではなく、私の着ていた魔女服はどこかへ消え去り、肌色面積が多いものへと変えられてしまいました!
首から胸元を覆う布地は、何故か半分から下が全く隠されることのないデザインとなっていて、少し激しく動けば私の胸が丸見えとなってしまいそうです。
さらに下半身部分は、以前フローリア様が着用していた、黒いホットパンツと呼ばれている丈が非常に短いパンツとなっているのですが、こちらは辛うじてレースのオーバースカートがセットであるようで、幾分かは恥ずかしさが軽減されて――いる訳がありません!
「こんな格好で外なんて歩けません! 戻してください!!」
「戻してあげたいのは山々なんだけどぉ~」
フローリア様はエミリとティファニーにもチョーカーを着けながら、シリア様へ目配せしました。
それに応じるように、机の上でニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていたシリア様が言葉を続けます。
『それは今日のための特別製でな。着けたが最後、夜八時まで外せぬようにしておるのじゃよ!』
「なっ……!?」
言葉を失ってしまった私の両手を、小さな魔女に変身したエミリ達がギュッと握りました。
彼女達のキラキラと輝いている笑顔には、私もお菓子を貰いに行ってくれるんだという期待が込められています。
「お姉ちゃん! お菓子もらいに行こう!」
「お母様が仮装をしていると知れば、皆様大喜びでお菓子をくださいます!」
「で、ですが私はもう大人で」
「レナちゃんが言ってたよ! レナちゃんの住んでたところでは、大人も仮装して大騒ぎしてたって!」
レナさん、あなたは何と言う事をしてくれたのですか!?
とても逃げられなさそうな状況に内心で頭を抱え、自分自身と葛藤します。
私だって、ハロウィンというお祭りを楽しみたくない訳ではありません。
ですが、それはあくまでもお化けや魔族などに扮したエミリくらいの子ども達が遊んでいるのを見ていたいだけであって、もう十七にもなる私が同じことをしたいという事ではないのです。
……いえ、本当のことを言えば、ほんの少しだけ混ざりたい気持ちはあります。それは認めます。
しかし、私を魔女と慕ってくださっている皆さんに、エミリ達と一緒に仮装してお菓子をねだりに行くというのはどうなのでしょうか。
『何を難しく考えておる。行くなら行く、行かぬなら行かぬで良かろう』
「そうよ~! 行かないのはちょっともったいないけど、こんな日くらい遊んでいいと思うわ! シルヴィちゃんだって、私達から見たらまだまだ子どもなんだから!」
「お姉ちゃん!」「お母様!」
「う、うぅ……」
シリア様達からの追撃を受けた私は――。
選択肢はこちらです!
1.獣人の村へ行ってみる
2.ハイエルフの集落へ行ってみる
3.兎人族の酒場へ行ってみる




