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478話 ご先祖様は復帰する

 場面が切り替わり、新しく私達の視界に飛び込んできたのは。


「シリア!!」


「わあっ!?」


 シエスタの裏庭で先ほどのアルシェさんよろしく、シリア様を固く抱きしめるユースさんの姿でした。

 突然抱きしめられ、困惑しながらも引き剥がそうとするシリア様でしたが、彼の肩が小さく振るえていることに気が付くと、その力を緩めてしまいました。


「ユース……?」


「ごめん、本当にごめんな……!! 情けないリーダーで、本当にごめん……!!」


 声も潤んでいるユースさんに、ますますどうしたらいいか分からずにいたシリア様でしたが、その騒ぎを聞きつけた他の皆さん達が駆け付けてきました。


「シリア! 良かった、ホントに無事だった!!」


「ラティスさんも無事だって言ってただろ! でも、やっぱこうして見ると……うっ」


 既に泣き始めているフラリエさんの隣で、強がろうとしていたロイガーさんまで泣き出してしまい、シリア様はさらにどうしたものかとオロオロし始めてしまいます。

 そこへ、唯一マイペースを保っていたクミンさんが、皆さんの様子を笑いながら歩み寄ってきました。


「あはは。みんなシリアさんが刺し違えるつもりなんじゃないかって、ラティスさんに聞くまで気が気じゃなかったんだよ~。で、ラティスさんから無事だったけど療養してるって聞いてからは、自分達が弱かったばっかりにってずーっと自責しててね」


「何よ! クミンだって今さっきまで凹んでたくせに!」


 フラリエさんの指摘を受けたクミンさんは、気まずそうに顔を横に逸らしていました。

 それを見て笑い出してしまったシリア様でしたが、そっとユースさんの背に手を回し、優しい声色でこう言うのでした。


「ただいま、みんな」



 ☆★☆★☆★☆★☆



「――で、慣れない魔素を無理やり共鳴させて、限界を超えて魔法を使った結果、三日間意識を失ってたと」


「そうみたいです」


「そうみたいってホント他人事なんだから……。でもまぁ、生きてくれててよかったわ」


「しかし、あの軍勢を一撃か……。本当に、規模が桁違いな魔女だなシリアは」


 閉店後のシエスタで、シリア様を囲んで彼女の戦いを聞きながら、皆さんは改めてシリア様の強さと無茶を呆れながら、食事を共にしていました。

 皆さんに料理の提供を終えたアバンさんと、シリア様が帰って来たと聞いて駆けつけていたレイヴン先生もそこへ腰掛け、閉店後でもそれなりに賑やかな色を見せています。


「いやぁー、流石は私の見込んだ教え子だ! シリアさんは絶対とんでもない魔法使いになると信じていたよ!」


「ガッハッハ! うちのシリアはこんなもんじゃ終わらねぇよ! なんせ、魔王をぶっ倒してから国まで変えるつもりなんだからなぁ!!」


「おいおい、すっかり自分の娘扱いじゃないかアバン!」


「ったり前だろうが! あのちんまい娘をここまでデカく仕上げたのも、俺のおかげ――だっ!?」


 仕上げた部分について、シリア様のある部分を強調しながら自慢していたアバンさんの額を、コントロールよく投げられたグラスが襲い掛かりました。

 ズズンと音を立てながらひっくり返る巨体に、シリア様は何もしていないかのように振舞いながらも言い捨てます。


「毎日の食事に、私が大きくなる薬を盛っていたのなら、お役所に連れていきますけど」


「いっでで……。ったく、うちの魔女様は容赦のねぇこった」


 そのやり取りに笑いが生まれ、久しぶりの賑やかな食事に華が咲きます。

 そこへ、入店を報せる鐘の音を鳴らしながら、ラティスさんが姿を見せました。


「おっ! ラヴィリスを代表するもう一人の魔女様がお帰りになったぞ!」


「こんばんは、アバンさん。お邪魔します」


「おうおう! 腹は減ってるか? すぐに作ってやるぞ?」


「では、いつものをお願いしてもいいですか?」


「あいよ。ちっと待ってな」


 アバンさんは席を離れ、厨房へと向かっていきます。

 その空いた席にラティスさんが腰掛けると、レイヴン先生が話しかけてきました。


「お疲れ様、ラティスさん。もうイースベリカの方は落ち着いたのかい?」


「いえ、まだです。ですが、シリアが復帰したと聞いたので、少しの間ハルさんにお任せしている形です」


「そうか。どこも大変だなぁ……」


 遠くを見ながらそう呟くレイヴン先生を尻目に、ラティスさんはシリア様へ問いかけます。


「もう体調は大丈夫なのですか」


「はい。おかげさまで」


「ふふ。あなたがいない間、国の防衛のために駆り出されていたニーナさんが酷く怒っていましたよ」


「うぇ……、何となく予想は出来ますが、何て言ってました?」


 ラティスさんはコホンと咳払いをすると。


「あーの馬鹿のおかげで、あたしの休日が台無しさね! 帰ってきたらただじゃおかないよ、まったく!! ……と言いながら、楽しそうにあちこちを火の海に変えていました」


「あっははは! これは全部終わった後、また掃除からやらされそうかなぁ」


 かなり似ているモノマネを披露し、シリア様を笑わせました。

 そこへ、ユースさんがかしこまった様子でラティスさんへと謝ります。


「すみませんでした、ラティスさん。お忙しい中、助けてもらって」


「その件は、もう気にしないで下さいと言ったはずです。シリアの仲間であるあなた達に恩を売ることは、シリアに恩を売ることに繋がりますので」


 しれっと言い放ったラティスさんに、隣のシリア様は心底嫌そうな顔を浮かべていました。

 しかし、シリア様もそれを覚悟していたらしく、わざとらしく溜息を吐いて見せます。


「友達のピンチに駆け付けただけです、とか素直に言えないんですかね」


「私は別に、あの程度はピンチだと思っていなかったので」


 冷たく返すラティスさんでしたが、その直後にやや挑発するような口調でシリア様へ返します。


「それとも、まさか私を押し退けて先に魔女になった【偉才の魔女】様は、あそこで全てを終えるつもりだったのでしょうか」


「……まさか。私はあくまでも、彼らのサポートをお願いしたかっただけですよ?」


 バチバチと火花が散りそうなほど睨み合う二人に、ユースさん達がオロオロとし始めます。

 そんな様子を懐かしそうにレイヴン先生が笑っていると、こんもり盛られた野菜パスタを持ってきたアバンさんが、ラティスさんの前にそれを差し出します。


「あの、アバンさん……」


「おう? まさか【氷牢の魔女】様たるお方が、俺の飯を食いきれねぇとか言わねぇよな?」


 ラティスさんはシリア様とアバンさんが同じ顔をしながらニヤついているのを見て、やられたと言わんばかりに額に手を置き、溜息を吐くのでした。

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