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7話 魔女様は準備に追われる

 明日に迫る技練祭に備え、診療所を再び留守にする必要があることから、森の皆さんのためにポーションを作り置きしていると、机の上に置いておいたウィズナビが着信を知らせました。


『やっほーシルヴィちゃん! 技練祭の準備は順調?』


 ローザさんでした。この前の晩餐会で連絡先を交換してから、毎日何回かはメッセージを送ってくださっていて、私の数少ない大切なお友達です。


「こんばんはローザさん。何を準備したらいいか分からないので、あまり順調とは言えないかもしれません」


『シルヴィちゃん初めてだもんねー。気持ちは分かるけど模擬戦は誰と当たるかなんて分かんないし、明日何があってもいいように早く寝るんだよ?』


「ですがやはり不安で……。何か準備が出来そうなことであったり、アドバイスとかってありますか?」


『んー、模擬戦は言うこと無いと思う。普通にトーナメント形式で戦って、どんどん勝ち進んでくーってだけだし。コンテストはねー、とにかく派手! 目立ったもん勝ちみたいなとこあるから、自分ができる最大の演出をするといいよ!』


「演出、ですか……。例えばどういったのがいいのでしょうか?」


『私達が去年やったのは、カラフルな薔薇の花弁を風魔法で大空に舞い上げて、そこから空に絵を描くって奴かな。私達【薔薇組】はこういった演出系が得意だから、例年大盛り上がりして高得点貰えるんだよねー』


「わぁ……! それはとっても見てみたかったです!」


『えっへへー、今年も種類は変えるけど似たようなのはやるつもりだから楽しみにしててよ! まぁそんな感じで、魔法で芸をする人もいれば、使い魔と協力して何かするって人もいるから、割と何でもありだと思うよ?』


「使い魔……。分かりました、情報ありがとうございます」


『いーのいーの! それじゃ、そろそろ私も寝るからまた明日ね!』


「はい。おやすみなさいローザさん」


 水晶板に映っていたローザさんの顔が消え、通話が終わりました。

 使い魔と協力した何か。それなら何かできそうな気もしますが、問題はメイナードがそれをやってくれるか分からないところです。


「『主よ、我で出し物をしようなどと考えてないだろうな。我を一体何だと思ってるんだ?』なんて言われてしまいそうですね」


『その言葉をそのまま言ってやろうか』


「ひゃあぁぁぁぁ!? い、いたのですかメイナード!?」


『主が話している時からいたが……。言っておくが、我は見せ物になるつもりはない。主のみで演出を考えるがいい』


「そんな!? お願いですメイナード、あなたが必要なのです!」


『断る。そもそもだ主よ、なぜ魔女の催し物に我が出なくてはならん』


「それは、あなたが私の使い魔だからです。そして、主である私が困っているのです。なので手伝ってくれますよね?」


『勘違いするなよ主。我はお前を主と認めてはいるが、こき使われる筋合いなど無いのだ。我にとって有意義な物ならばいざ知らず、くだらん見せ物にまで付き合うつもりはない』


 今日のメイナードは意地悪です。そっちがそのつもりなら、私にだって考えがあります。


「いいのですかメイナード、そんなことを言って」


『当然の主張をしたまでだが?』


「出てくれたら、その日の夕ご飯にこれまで誰も食べたことの無いような絶品料理を振舞おうと思っていましたが……。残念です」


 これ見よがしに大きく溜め息をついて見せ、心底がっかりしたように演じます。すると、ツンとしていたメイナードが絶品料理と聞いてぴくりと反応を示しました。狙い通りです。


「この前フローリア様が持ってきてくださったお米を使って、とっておきのレシピを考えていたのですが……。これはお蔵入りにした方がよさそうですね」


『シリア様に献上すればいいだろう』


「もちろん、作った時にはシリア様にもお出しするつもりです。ですが、シリア様にお出しするということは、家族みんなの分も一緒に作るということです。つまりあなたにも食べられてしまいます」


『……』


「メイナードが意地を張ってるばかりに、とびきり美味しい料理をシリア様達は食べることが出来なくなってしまいました。はぁ、可哀そうなシリア様。申し訳ありませんフローリア様。レナさんに至ってはお米を楽しみにしていらっしゃいましたし、さぞかし落ち込まれるでしょう。エミリも食べることが大好きなので、しばらく凹んでしまうかもしれません」


『……主よ。それは卑怯ではないか?』


「そんなことはありません。私は技練祭で華を飾ることが出来たら、みんなとお祝いを兼ねてとびきり美味しい料理を作ろうと考えていただけです。ですが、それも叶わなくなってしまいました……」


 ちらりとメイナードの様子を窺うと、完全に沈黙してしまっていました。少し意地悪が過ぎたでしょうか。

 少し不安になり、こちらに背を向けている彼の正面に回り込み顔を覗くと、思いっきりおでこを突かれました。


「いったあぁぁぁぁい!! 何をするのですかメイナード!!」


『ふん、我をからかった罰だ。穴が開かなかっただけ感謝されてもいいくらいだ』


「痛い……本当に痛いですよメイナード。そんなに怒らなくてもいいではないですか……」


『シリア様やフローリア様を出汁に我を脅すとは、いい度胸だ主よ。ますます気に入ったぞ』


 机の上から私を見下ろすメイナードが、光源を背に受けているからかいつもより少し怖く見えます。心なしか、彼の声も怒気を含んでいるようにも聞こえてきました。相当怒っているようです。


『いいだろう。そこまで言うのであれば、主の挑発に乗ってやる。だが、演出に関しては我のやり方でやらせてもらう。それでいいな?』


「は、はい……」


『くっくっく。出番は二日目であったな、楽しみにしておけよ主。たまには我の本気を見せてやろう』


 メイナードは不敵に言い残し、私の部屋へと帰って行ってしまいました。

 もしかして私、怒らせてはいけない人――いえ、鳥を怒らせてしまったのでしょうか。


 不安な気持ちにはなりますが、とりあえず協力してくれることになりましたし、中途半端なポーションの作り置きを終わらせてしまいましょう……。

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