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467話 旧勇者一行は歓喜する

「……あのなぁシリア。確かに最大の一撃をとは言ったけど、加減ってものはあるだろう?」


「絶対に守るから全力で、と指示を出したのはあなたですが」


「だからって!」


 すっかり泥や土埃に塗れていたユースさんは、クワッと目を剥きながら自身の背後を指で示しながら吠えました。


「地下迷宮のほとんどを吹き飛ばす奴がいるか!?」


 シリア様の全力によるオリジナル極大魔法、全てを無に帰す(エクスターミネイト・)洛星(メテオ)の威力は凄まじく、ドラゴンの姿はおろか、薄暗かった洞窟を崩落させて形を大幅に変えてしまうほどの物でした。

 地下迷宮の中に水源もあったようなのですが、崩落と共に濁流となり、先に進もうにも大穴が空いた箇所を濁流が呑み込んでいるため渡れなくなってしまっています。


 結界で防ぐことのできた私達や、詠唱者であるシリア様を除いて皆さんが泥まみれになってしまっており、全く戦っていなかったにも関わらず、皆さんの表情は疲労の色に満ちています。

 そんな中、シリア様は視界の端に何かを捉えたらしく、ユースさんの横を素通りして崩落した先に目を凝らし始めました。


「何だよシリア。まだ撃ち足りないってのか?」


「ロイガーの体に塗る泥が足りないと言うのであればやぶさかではありませんが」


「いらねぇよ! クソッ、せっかく新しい装備になったってのに……」


「それも私が作ったものじゃないですか。それよりも、あれを見てください」


 シリア様の言葉に、一同の視線が一点に集められます。

 そこには、土埃に塗れてしまってはいるものの、全く傷が入っていない堅牢な大扉が佇んでいました。


「何あれ……。もしかして、この先があるってこと?」


地下迷宮(ここ)の造りは、あなた達冒険者の方が詳しいのでは?」


「私達が入ったとこは、どこも浅くて難易度が低いとこばかりだったのよ。ダンジョン内でさらに扉があるなんて無かったし」


「でも、あれはさっき入ったところにあった扉と同じだよねぇ」


「まさか、このフロアはドラゴンが占拠してたってだけで、その先はもっと強い奴がゴロゴロしてるってのか!?」


「分からない。だが、確かめようにも行く手段がないな……」


 少し悔しそうに呟くユースさんに、シリア様は怪訝そうに眉をひそめました。


「まさか、魔女がいるのに渡れないとでも思ってるのですか?」


「え?」


 シリア様は杖で地面を二度叩くと、そこを起点として石造りの陸橋がみるみると対岸に向かって伸びていきます。

 その様子を見ながら、開いた口が塞がらなかったロイガーさんが疲れたように感想を述べました。


「……あぁ、魔女ってのは何でもありだな」


「魔女が何でもありなのではありません。魔法が無限の可能性を秘めているのです。さぁ、行きますよ」


「へーいへいっと」


 ずんずんと進むシリア様の後ろで、崩れないかと軽く叩くフラリエさんや、濁流を覗き込んで小さな悲鳴を漏らすロイガーさん達が続きます。

 その後ろで、クミンさんの手を取って立ち上がらせ、後を追い始めたユースさんが独り言のように口を開きました。


「本当に、偉大な魔女様が仲間になってくれてよかった」


「あははっ、そうだねぇ。シリアさんがいたら、魔王だって一撃で消し飛ばしちゃうかもねー」


「それは流石に……って言いたいところだが、あり得そうなのが怖いな」


 クミンさんはふふっと笑い、後ろ手を組みながらユースさんを下から覗き込むように見つめます。


「な、何だよ」


「ううん。あんなに強大な力を持った魔女の手綱を、キミはしっかりと握り続けられるのかなーって思ってね」


 その言葉にユースさんは視線をシリア様へ戻し、数秒考えるように沈黙しました。

 ですが、すぐに苦笑をクミンさんへと向けながら答えます。


「今じゃ無理だろうな。俺の方が首根っこ掴まれて振り回されてる気分だよ」


 情けのない回答にクミンさんが笑いますが、彼の言葉はそこで終わりではなかったらしく、「でも」と続きます。


「あんな強大な魔女を引き入れたのは俺なんだ。いつかは彼女に相応しいパーティリーダーなんだって胸を張れるよう、努力はしていくさ」


 クミンさんは驚いたようにその場で足を止めてしまいますが、ユースさんが「どうした?」と振り返ったのに対し、小さく首を振っていつものような微笑を張り付けると、軽い足取りでその隣に並ぶのでした。


「ユース、早くしてください」


「分かってる」


 シリア様に急かされた彼らが橋を渡り終えたことを確認し、シリア様が扉へと向き直ります。

 杖を小さく横に払って扉の汚れを消し飛ばすと、入り口にあったものとは微妙に紋様が異なっていることが分かりました。


「あなたから見て、この扉はどうですか?」


「どう、と言われてもフラリエの言った通り、俺達は安全が確保されていたダンジョンしか入ったことが無いんだ。この扉の先に何があるかなんて――っておい!」


 ユースさんからまともな回答がないと分かったシリア様は、彼の言葉を最後まで待たずに扉に手をかけ始めました!

 またドラゴンが出ては困ると全員で止めに掛かりますが、またしてもシリア様が押し開いてしまう方が早く。


「…………これは」


 扉を開け放ったシリア様は、その先の光景を言葉を詰まらせてしまいました。

 その後ろから覗き込むように見た他の方々も、同じように息を飲んでしまいます。


 ――そう、その扉は私達人間で例えるなら、宝物庫の扉だったのです。


 誰が集めた物かは分からない金銀財宝や、丁重に保管されている武器の山を前に、シリア様達は呆然と立ち尽くしていましたが、クミンさんがするっと前に躍り出て足元に転がっていた金貨を一枚拾い上げました。


「おぉ、これは珍しいね。グランディア王政が始まる前の旧貨幣だよ。こっちは現在も流通している魔族領の貨幣かな?」


「グランディア王政より前って、何年前だ?」


「うーん、確か八百年とかだったかな? もう少し前? ごめんね、あまり歴史には詳しくなくて」


「いや、大丈夫だ。それよりも……」


 ユースさんの言いたい言葉を、ロイガーさんが汲み取り。


「地下迷宮のお宝って、見つけたもん勝ちだったよな?」


 フラリエさんが目を輝かせ。


「じゃあ、このお宝の山は私達が!?」


 シリア様が両腕を組み、頷きました。


「よく分かりませんが、物の価値が分からない魔獣が腐らせるよりはマシでしょう。勝者の特権と言うことで、これは私達がいただきましょう」


「「やったあああああああああ!!」」


 地下迷宮の中に歓声がこだまし、各々が欲しい物を物色し始めるのと同時に、また場面が切り替わるあの景色が広がり始めました。

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