463話 ご先祖様はご立腹
「本ッッッッ当に、申し訳ないシリアさん!!」
「…………」
あれから爆発に巻き込まれ、気を失った三人を乱暴に店内へと放り投げてアバンさんに任せたシリア様は、一足先にシャワーを浴び終えてバスローブ姿へと着替えていました。
シリア様が戻って来た頃には三人とも目を覚ましていたようで、侮蔑の視線を投げてくるシリア様に、ユースさんが平身低頭で謝り続けている次第です。
「……なぁシリア、そろそろ許してやったらどうだ? 戦闘なんざ、事故のひとつやふたつ」
かれこれ十分ほどその状況が続いており、流石に見かねたアバンさんが口を挟もうとしましたが。
「ひとつやふたつ、何ですか?」
「す、すまねぇ……」
即座にシリア様に鬼のような形相で睨まれてしまい、それ以上口を開くことを許してもらえませんでした。
私としても、ほぼ初対面も同然の男性達の前で胸を見られてしまったらと思うと、羞恥心からあまり言葉を交わしたくないという気持ちはわかるのですが、恐らくシリア様はその事故で中途半端に決着がついてしまったことにも怒りを感じられているのでしょう。
これは複雑な問題かもしれません。と彼らに同情の念を込めた視線を送っていると、唯一の女性陣であるフラリエさんがシリア様へと言葉を投げかけてきました。
「でもシリアさん。ユースだってわざとじゃなかったんだから、そろそろ許してあげてくれない? そりゃあ胸を見られたのは殺したくなるくらいムカつくって気持ちは分かるけど」
彼女はそこで言葉を切ると、自分のすらっとした胸元と、シリア様の主張の強いそれを見比べながら続けます。
「それだけ立派な物を持ってるんだから、多少見られたくらいで気にならないで――痛ぁっ!?」
「これは見世物ではありません!!」
火に油を注ぐ形となり、フラリエさんの側頭部をメニュー表が襲い掛かりました。
綺麗にメニュー表の角が突き刺さったらしく、頭を押さえながら転がりまわっているその姿に苦笑しながら、今度はロイガーさんが援護に回ります。
「その、なんだ。俺達も気にする余裕がなかったってのは、どうか分かってくれないか?」
「気にする余裕がない?」
シリア様はその言葉を拾い上げると、ギロリと睨みつけながら低い声を発しました。
「その割には、あなたも倒れながら凝視していましたよね」
「うっ……」
それ以降、彼は何も言わずにユースさんに並んで、同じ体勢を取り始めました。
これはもうダメかもしれません。と、ここで彼らと同行できない未来を予想し始めた私の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「こんばんは~……って、今日はもう営業終わっちゃってるのかな」
「ん? おぉ、いつだかのシスターさんじゃねぇか!」
「どうも~」
ふらりと店内に姿を見せたクミンさんに、アバンさんが嬉しそうに声を上げました。彼女はひらひらと手を振り、続けてぱっと見では何が起きているか分からない状況を観察し始めます。
「ええと、これはどういう状況なんだろう。もしかして私、お邪魔だったかな?」
「いえ、大丈夫ですよクミンさん。ちょっとタイミングが悪かったかもしれませんが……」
シリア様はクミンさんのために、今日の出来事を簡単に説明してあげました。
一通りの説明を聞いた彼女は、事態を把握したようにひとつ頷くと。
「なら、勇者くん達の勝ちでいいんじゃないかな? 決着はどうであれ、シリアさんの服に一太刀入れたことには間違いないんだしさ」
「それはそうなのですが」
「うーん、シリアさんは何を気にしてるのかな。胸を見られたことがそんなに気になる?」
「当たり前です!」
「そっか。じゃあさ」
彼女はそこでいったん言葉を切ると、突然服を脱ぎ始めました!!
「きゃああああああ!? く、クミンさん!? 何してるんですかちょっと!!」
「えっ? 何って、私も見せようかなって」
「何でそうなるんですか!?」
シリア様が慌てて止めに入るも、既に修道服の大部分を占める紺色のチュニックを脱いでしまっていて、彼女のバランスの取れたスタイルの良さが公に晒されていました。
清楚な印象を受ける真っ白な下着姿を惜しげもなく見せつけるクミンさんに、アバンさんは困ったように問いかけます。
「おいおい……。神様に仕えるシスター様が、そんな人前で肌を見せて良いのか?」
至極真っ当な指摘だと思います。
ですが、クミンさんは脱いだ服をぽすんと床に落とすと、胸の前で手を組みながら答えました。
「神は言いました。汝ら人の子よ。個体差こそあれども、汝らは神の祝福を受けて作られた美を持った種族である。それを恥じることは、神への冒涜と知れと」
「つまり、なんだ? 神様から作られた俺達が、他人の裸を見たところで騒ぐのはお門違いだって言いてぇのか?」
「うん。形や大きさ、体格や性別に差はあるけど、私達は神様によって作られた種族なんだから、同じ種族同士でその造形を嫌悪したり恥じらうのは間違っているんだよ」
「だからって、自分も脱いで見せるのはまた違うような……」
困惑するフラリエさんでしたが、クミンさんは小首を傾げながら言います。
「うーん。シリアさんが見られて恥ずかしがっていたから、私も見せることで羞恥心を緩和させようと思ったんだけど……ダメだったかな?」
「ダメです! ほら、早く着てください!」
「ダメだったかぁ。人の感情ってやっぱり難しいね」
あまり反省して無さそうな口ぶりのクミンさんに服を着させたシリア様は、どっと疲れたように顔がやつれていました。
そのまま額に手を当てながら思考していらっしゃいましたが、やがて考えることを諦めたらしく、溜息を吐きながらもユースさん達へと向き直ります。
「とりあえずクミンさんの言う通り、私に一撃与えたあなた達の勝ちとします。あなた達が魔王へと挑む旅路に、私も同行しましょう」
「本当か!?」
「魔女に二言はありません」
シリア様が同行することが確定し、三人がはしゃぐように喜び始めます。
そこへ、シリア様はコホンと咳ばらいをして付け足しました。
「また、これは私からのお願いとなるのですが、こちらのクミンさんも参加させていただければと」
「え? あぁ、俺達は構わないが……」
いきなり現れ、自分達に下着姿を見せて来た女性の参加表明に、少なからず困惑の色が見えています。
そんな彼らへ、クミンさんが自己紹介も兼ねて自分の目的を伝えると、ユースさんは納得した様子で頷き、クミンさんへと握手を求めました。
「そう言うことなら、俺達が最適だと思う。よろしくな、クミンさん」
「ありがとう! キミ達の困難を傍で見守り続けられるよう、できる限りサポートさせてもらうね。それと、私のことは呼び捨てで大丈夫だよ」
「そうか? じゃあ改めてよろしく、クミン。こっちはロイガー、そしてフラリエだ」
「よろしくな!」
「急に脱ぎだしてびっくりしたけど、敬遠なシスターってみんなこんな感じなのかな? とりあえずよろしくね!」
軽やかに挨拶を交わし、早速受け入れられていくクミンさんを見ながら、シリア様は微笑ましそうにしていましたが、そんな彼女にもユースさんから手を差し伸べられました。
「何他人事みたいな顔をしてるんだシリアさん。これからは、あなたも俺達の仲間なんだ」
その手と彼の顔を交互に見たシリア様は、嬉しいという感情を隠すように苦笑しながら手を取るのでした。




