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462話 ご先祖様は確かめる・後編

 戦闘が始まり、真っ先に攻撃を仕掛けて来たのはユースさんでした。

 水色のオーラを纏わせた剣を大きく振りかぶりながら、シリア様へと飛び掛かっていきます。


「うおおおおおおおおおっ!!」


 隙だらけのその攻撃に、シリア様が呆れながらもカウンターとして魔法を構えようとした瞬間。

 後方から援護射撃を行って来た光の矢に、シリア様は急遽、防護結界を展開させられることになりました。

 そして、その結界を力任せに割らんとユースさんが剣を叩きつけ、やや鈍い激突音が響き渡ります。


「悪いなシリアさん。俺達はチームなもんでね!」


「……悪くはない連携ですね。ですが」


 シリア様は結界を維持しつつ、さも当然のように多重詠唱の準備を始めました。

 彼女から発せられる、バチバチと紫電色の火花を散らす魔力は恐らく、雷系統の物でしょう。

 その詠唱を止めようと、フラリエさんが弓で援護射撃を繰り返してはいますが、シリア様を護る結界には微々たるダメージしか入っていないため、シリア様の詠唱を中断させるには到底至っていません。


「マズイ……っ! ロイガー!!」


「任せろ!!」


 ユースさんの声に、ロイガーさんが前へと躍り出て彼らを護るように大盾を構えました。

 二人がロイガーさんの影に逃げ込んだと同時に、詠唱を終えたシリア様が杖を振るいます。


「お手並み拝見といきますよ! サンダーブレイク・スピア!!」


 シリア様が放ったのは、雷属性の中級魔法でした。

 魔法の名称通り、雷さえも貫くと比喩される雷槍は恐ろしい速度でロイガーさんへと飛んでいき、彼が構えていた大盾に突き刺さります。


「ぐっ、おおおおおおおお!!」


 少しでも気を抜けば、盾諸共貫かれてしまいそうなその一撃に、ロイガーさんは踏ん張り続けています。

 彼の盾は特別製には見えないので、彼自身の武装強化魔法でシリア様の魔法に対抗しているのでしょう。

 放った雷槍を受け止めたことを感心していたシリア様でしたが、そこから進展がないと判断したらしく、同じ槍をもう一本出現させ始めます。


「ならば、これも受け止めてもらいましょうか! イミテーション!!」


 シリア様は発動中の魔法を複製する高度な魔法を行使し、同じように彼目掛けて投擲しました。

 しかし、それは彼の盾に当たるよりも先に、ユースさんの剣によって遮られることとなります。


「そうは、させるか!!」


 雷槍を横から両断したユースさんは、剣を下段に構えた状態で再度シリア様へと駆けてきました。


「……そう来なくては!」


 シリア様としてもそれは想定通りであったらしく、彼を迎撃するために、自身の足元に魔法陣を展開させながらゴーレムを召喚します。


「迎え撃て、我が忠実なる騎士たちよ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!!」


「「ニャーッ!!」」


「猫!? うおっ!?」


 現れた猫達による迎撃で足止めされたユースさんでしたが、果敢に猫達へと斬りかかっていきます。大振りながらも威力に優れた剣技は盾を構えていた猫に防がれ、返しに繰り出された手数の多い猫の攻撃を、ロイガーさんが受け止めて弾き返し……と、まるで踊るようにくるくると攻守が入れ替わっていたところへ、戦況を見極めようとしていたフラリエさんが動き出しました。


「猫は私が足止めする! その間に二人は魔女を狙って! ――リーフ・バインド!!」


 彼女が放った弓は猫達の足元に着弾し、そこから生えてきたツタが猫達の足を絡めとります。

 ツタは猫達の剣でも斬れない程度には硬度があるらしく、猫の攻撃が止まったのを確認した二人はシリア様へと突撃していきました。


 ですが、それを無策で待っていた優しいシリア様であるはずもなく。


「あぁ、足元には気を付けてくださいね」


「なんっ――うわあああああ!」


「ロイガー!?」


 突如ロイガーさんの足元が爆発し、天高く吹き飛んで行ってしまいました!

 それを見たユースさんが足を止めてしまい、周囲に見えない爆発魔法が仕掛けられているのではないかと警戒し始めます。

 シリア様と彼の距離は、およそ十メートルほど。被弾を無視すれば詰められなくもない距離ですが、鎧を着こんだロイガーさんが天を舞ってしまうほどの威力を、軽装であるユースさんが耐えられるはずもないので、それ以上踏み込むのが躊躇われるのは無理も無いかもしれません。


 その様子をにやにやと楽しんでいたシリア様でしたが、追撃と言わんばかりに魔法の詠唱を始めます。


「業火よ、渦となりて全てを焼き焦がせ! フレイムダンス・ツイスト!!」


 シリア様が行使した火属性の上級魔法は、詠唱通り全てを焼き尽くす炎の渦となり、ユースさんへとかなりの速さで放たれていきます。

 避けようにも、どこに爆発魔法が仕掛けられているかが分からない彼は、その場で無理やり耐えることを選んだらしく、剣の腹を前面に押し出しながら腰を低く構えました。

 しかし、構えながらも瞳を閉じているその様子は、彼自身がこれを耐え凌ぐことはできないと察していることを示していました。


 これは決着がついてしまうかもしれません。そう思った時でした。


「間に合えええええええええええっ!!!」


「ロイガー!?」


 間一髪で駆け込んできたロイガーさんが、ユースさんを炎の渦から身を挺して庇ったのです!

 彼が持っていたはずの大盾は無く、着こんでいた鎧と屈強な筋肉で無理やり受けているその様子に、ユースさんが声を荒げます。


「やめろロイガー! 死ぬぞお前!!」


「ぐ、うぅぅぅぅぅ……! うるせぇ! 俺のことは、気にすんじゃねぇ!!」


 鬼気迫る声でそう返した彼は、ユースさんを睨むような形相でさらに言いました。


「俺がこのまま道を作る! あとはお前が何とかしろ! 一撃くらい、どうとでもなるだろうが!!」


「だが!」


「だがも何もねぇ!! 行くぞユース!!!」


 ロイガーさんはそのまま、炎の渦をかき分けるように前進し始めました。

 即座に彼の前方にあった爆発魔法が発動しましたが、今度はそれにも耐え、何事も無かったかのように歩を進めていきます。

 しかし、シリア様に近づけば近づくほど威力が上がっているそれを前に、彼の鎧は徐々に壊れ始めてしまい、シリア様まであと数歩と言ったところで、ロイガーさんを護る物は己の肉体のみとなってしまいました。


 ですが、そこに辿り着くまでの時間と距離は十分に稼げています。

 ロイガーさんは最後のひと踏ん張りにと気合を入れなおし、ユースさんに吠えました。


「行けえええええええ!! ユーーーーーーースッ!!!」


「うおおおおおあああああああああああああああっ!!!」


 ロイガーさんが一瞬だけかき消した隙間を見逃さず、ユースさんが飛び上がります。

 ようやく辿り着いたシリア様に、彼が持てる全ての力を注ぎ込んだ一撃が振りかざされました。


 シリア様はその威力に驚きながらも、どこか楽しそうに笑みを浮かべながら結界を張って対抗します。

 激突の衝撃が私達の下まで押し寄せ、爆風ともほぼ同義と感じられそうなそれに顔を覆ってしまいました。


 数秒間発生し続けていたその衝撃波が収まり、私達が次に見た時には――。


「…………あっ!?」


「あらまぁ……」


 杖を持っていた右手がツタに囚われ、服を切り裂かれてご自慢の豊満な胸が露出してしまったまま固まっているシリア様と、剣を振り下ろした体勢のまま、それに視線が釘付けになってしまっているユースさんがいました。


 顔を赤らめながら口元を押さえているフラリエさんと、地面に倒れながらも絶句しているロイガーさん。そして、気まずさと申し訳なさが入り混じった表情を浮かべながら、ぎこちなく顔を上げたユースさんに、シリア様は。


「…………デモリッション・ノヴァ」


 無詠唱で空間全域を巻き込む規模の爆発を起こすのでした。

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