6話 魔女様は連絡手段を手に入れる
それから数分後、アーデルハイトさんは人数分のウィズナビの入った箱を持って戻られました。
「これがお前達のウィズナビだ。手に取ったらまずは魔力を少しだけ流してみるといい、それで個人登録が済む」
『む? 二人の他の分もあるようじゃが、これはエミリやフローリアも貰ってしまって構わぬのか?』
「はい。技術局長とも確認済みで特例が降りています。シリア先生は今のお体では、恐らく利用できないかと思い用意させていません。すみません」
『構わぬ。妾から何か用がある時はシルヴィを通せば良いだけじゃ』
「えへへ~、レナちゃん達とお揃い~♪」
私達が受け取ったウィズナビに魔力を注ぐと、それに呼応するように発光を始め、光が収まったと同時に水晶板の表面にそれぞれのプロフィールが現れました。どうやら、これで個人の所有物である登録が済んだようです。
「お姉ちゃん、わたしの光らない……」
「アーデルハイトさん。エミリのはどうしたらいいでしょうか?」
「あぁ、その子は魔法が使えないのか。なら【慈愛の魔女】が保護者として代理登録をするといい。その子の手の上から魔力を通せ」
言われた通りに、エミリの手の上からウィズナビに魔力を注ぎます。すると、少し光が弱々しくはなりましたが輝き始め、同じようにエミリのプロフィールが登録されました。
「できたようだな。あとは自分の写真を登録すれば完了だ。写真は私が撮ってやろう、好きにポーズを取るといい」
「はいはーい! じゃああたしから!」
レナさんは壁を背景に、ウィンクしながら顔の前でピースを作りました。それをアーデルハイトさんはウィズナビに収めるように構えると、一瞬だけ強い光が生まれました。
どうやらそれで撮影が完了したようで、レナさんはアーデルハイトさんの持っていたウィズナビを覗き込み、満足そうに頷いています。
それに続くようにフローリア様が満面の笑顔で両手でピースを作り、それを両頬の横に持って行きポーズを決めました。恐らくは意図されていないのでしょうが、両腕に挟まれた豊満な胸が強調される形になっています。
そして私の番です。特にポーズとかは思いつかなかったので、適当に笑って誤魔化そうかとしましたがシリア様達から猛反対されてしまいました。
私のポーズについてあれこれ協議が行われた結果、秘密の多い魔女という演出をしようということになり、片目はいつも通り隠したまま口の前で指を立て、やや斜め上を見上げるように意味深に微笑む……というポーズに。他の皆さんからお墨付きが出たので、とりあえず終わりで良いようです。
エミリについてはすぐでした。私と頬合わせで、弾けんばかりの笑顔を浮かべるものです。釣られて私も笑ってしまいましたが、姉妹仲睦まじくてよろしいということでした。
一通り撮影が終わり、アーデルハイトさんがご自身のウィズナビを操作すると、私達のウィズナビに撮影した写真が送られてきました。言われるがままに登録を行うと、プロフィール画面にさっき撮影した私の写真が映し出されていました。
そこへ先ほどの魔女さん達が合流し、よく分からないまま連絡先の交換と、何かの登録まで済ませて頂きました。
なお、レナさんは使い方をすぐに把握したようで。
「えーと、これがヒマッターでしょ? これがファインでしょ? これがー……あぁ、掲示板ね。おっけーおっけー」
一人で何かずっと呟いては黙々と操作し続けているようでした。あとで詳しい使い方を教えていただこうと思います。
その後も何人かの魔女の方々と連絡先を交換しながら談笑していると、終了時間を告げる鐘の音が鳴り、晩餐会はお開きとなりました。
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連合を出る際に余った料理をメイナード用にと少し手土産として頂き、呼び戻したメイナードも含め全員で家の前まで送っていただきました。
ローブの男性は私達に深々と頭を下げながら口を開きます。
「本日はご出席いただき、誠にありがとうございました。以降の連絡につきましては、ウィズナビを通して皆様へ伝わる形になると存じます」
「楽しかったわ! 案内してくれてありがとう!」
「とんでもございません。では、また来週お迎えに上がります」
そう言い残し、ローブの男性は通ってきた空間の中へと戻っていきました。
何だか、色々と警戒はしていましたがとても楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった気がします。魔導連合の方々やアーデルハイトさんにも認めて頂けましたし、一安心です。
私が一日を振り返っていると、どこからか子猫のような鳴き声が聞こえました。
全員の視線がシリア様に集まると、『妾ではないわ!!』と不服の声を上げられてしまったため別なようです。その後も鳴き続ける子猫の声をきょろきょろと探していると、レナさんが何かに気が付いたようでした。
「あ、シルヴィ。そっちのポケットから聞こえたわよ」
「私ですか?」
ポケットに手を入れてウィズナビを取り出すと、『五件の通知があります』との表示がありました。
表面に触れて起動し、二匹の猫が話しているようなマークに触れると、『ルーム』と書かれた項目の中に、アーデルハイトさんの丸く切り取られた顔写真の横に『未読五件』と表示されています。続けて触れると、まるでアーデルハイトさんが喋っているかのような吹き出しの中にメッセージがありました。
『【慈愛の魔女】。今日の議会への出席を感謝する』
『シリア先生と再び会うことが出来て、私はとても嬉しかった』
『明後日の技練祭では、シリア先生が認めたその実力を私に見せてくれ』
『あと、これはシリア先生には見せないでほしい』
『先生に何を言われるかわからないからな』
アーデルハイトさんなりのお礼の言葉なのでしょうが、シリア様に見られたくないというのはどういうことでしょうか。そう思っていた矢先、私の肩越しにそれを見てしまったシリア様が底意地の悪そうな声で笑い始めました。
『ほーう? なぜ妾に見られると困るのか、ぜひとも聞かせてもらいたいものじゃな。レナよ、それはどうやれば連絡が取れるのじゃ』
「えっ、ここのこれを押して、ここを……」
私は後ろでシリア様が何やら連絡の準備を始めていることに気が付き、急いで返信文を打ち込みます。
『もう見られてしまいました。レナさんに教わりながら連絡を取ろうとしています』
すると、アーデルハイトさんの返信が即座に返ってきました。
『えっ』
『嘘だろ?』
『いや、止めてくれ』
『頼む』
私が振り向いた時には既にレナさんのレクチャーが終わっていたようでした。レナさんのウィズナビを通して連絡を取っているようで、少し恐怖を覚えるような笑みのまま、シリア様がにこやかにウィズナビ越しにアーデルハイトさんに話しかけています。
『トゥナよ、妾を差し置いて弟子同士で密談とは寂しいではないか。なぜ妾に見られては困るのじゃ?』
『せ、先生! 違うんです、語弊があるといいますか、決して先生に見られてはまずいとかそういう訳ではなく!』
『なら聞かせて貰えるかの? 何をシルヴィと話そうとしておった? ん?』
シリア様の圧に押され、しどろもどろになっているのが良く聞こえてきます。
すみませんアーデルハイトさん。私にはどうすることもできませんでした……。
ウィズナビ越しにご立腹なシリア様とレナさんを残し、私達は先に家の中へ戻ることにしました。
夕飯は済んでいますし、お風呂に入った後でゆっくりこれの操作を学ぶとしましょう。




