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453話 ご先祖様は煽られる

 シリア様は家のあちこちでゴーレムを出しては大掃除をさせると言った、ちょっとした大道芸のようなことをしながらもテキパキと掃除を続け、日が暮れ始めた頃には大方のゴミの処理が終わり、足の踏み場も怪しかった部屋は人が住めるくらいの環境へと復元されていました。

 その手際の良さと体力の多さに感嘆していると、ついに髪もまとめなくなったニーナさんが寝ぼけまなこで部屋から出てきました。


「ふわぁ……。あ?」


「おはようございます、ニーナさん。言われた通り、掃除を終わらせておきました!」


「あ? あー……。誰?」


 どうやら、まだ全く頭が回っていないようです。

 シリア様は急いでコップに水を注いで手渡しながら、状況を説明し始めました。


「私はシリアと言います。今朝、レイユさんの紹介でニーナさんの下で魔法を学ばせていただくことになり、その初めとして家の掃除をするよう命じられていました」


「んぐ、んぐ……ぷはぁ~! えーっと、ちょいと待ちな。今思い出すから」


 彼女はコップを背中側に放り投げながら、額に手を置いて考え始めました。

 恐らくは日ごろの彼女の手癖なのでしょうが、シリア様が全て掃除し終えた部屋には放り投げられたコップを受け止めるごみ袋は無く。


「まずいっ! 受け止めなさい!!」


 まだ帰還させていなかった猫のゴーレムにそう命じ、寸でのところでコップが砕けてしまうのを食い止めるのでした。

 ほっと胸を撫で下ろすシリア様に、ニーナさんはまだ眠たそうな声で問いかけました。


「あーっと、何だっけ。あれか、うん。夕方までに掃除しとけって言ったんだっけ」


「はい。一通り終えたので、確認していただければと」


 ニーナさんはぼんやりとした寝ぼけまなこで部屋を見渡し。


「……あれぇ!? ごみ山が無くなってる!?」


 今さらながらに驚愕の声を上げました。

 彼女は信じられないと言わんばかりの表情で、バタバタと他の部屋へと駆けこんでいき、ドアを開けて確認しては、「無い!」「ここも無い!」と連呼しています。

 そんな彼女の後に続きながら、シリア様が申し訳なさそうに言いました。


「床に落ちていた魔導書とかは、一応綺麗にしてそこの書物庫に入れておきましたが、配列がバラバラだったのでとりあえず机に積んだままになっています。すみません」


「あー、いいよいいよ。どうせあたしはもう読まないしさ」


 読まないからと、貴重な魔導書をそこら辺に放り投げておいたのですか……。

 価値観が違い過ぎる彼女に開いた口が塞がりませんが、思い返せばシリア様のお部屋でもあちこちに魔導書や魔道具が転がっていたため、魔女と言う方々の本質は、物に対して無頓着であるのかもしれません。


 一通り確認を終えたニーナさんは、シリア様の両肩をがっしり掴むと、今までにない真剣な声で言いました。


「あんた、シリアとか言ったっけ」


「は、はい」


「よくやった。ナイス。完璧。パーフェクトだ」


「ありがとう、ございます……」


 彼女はパッと手を離すと、部屋の中を両手を上げながらくるくると踊るように回り始めました。


「いやぁ~、広い! 広いなあたしの家! 素晴らしい! まぁあたしが作ったんだから当然か!」


「え、ここはニーナさんが作った家なのですか?」


「そうだよ? 魔法でちょちょいっとね」


 当然だろう? とでも言いたげな彼女に返す言葉が無かったシリア様でしたが、それを察したニーナさんは勝ち誇ったような顔を浮かべると、シリア様の前にずずいっと寄って来ては、人差し指でシリア様の顎を突き上げます。


「物作りに長けた属性で、まさか家の作り方を知りませんとか言わないよねぇ? 火属性の適正のあたしですら作れるのに、あんたが作れない訳ないもんねぇ? そんなんで、ハールマナの秀才とか褒めちぎられてたとか言わないよねぇ? んん~?」


 ねっとりと嫌らしく煽る彼女に、シリア様の愛想笑いがどんどん引きつっていきます。

 しかし、ニーナさんはその反応が楽しくて仕方がないのか、まだまだと煽る手を緩めません。


「あんただって、ラヴィリスでは魔女を名乗ってたんだろう? それなら、自分の家の一つや二つくらい持ってたんじゃないのかい? ……あぁ~そうか! 世話になった下宿先が恋しくて親離れができなかったのか! そりゃあ失礼失礼! いや、気にするこたぁないさね。恩人に感謝しながら、ぐぅたら過ごすのもまた一興。そうだろう?」


 いけません。シリア様のこめかみに、薄っすらと青筋が立ち始めています!

 彼女に見えないようにと後ろ手で固く拳を握り締めていますが、こちらにまでギリギリという音が聞こえてきそうなほどです!


 もういつ爆発してもおかしくないシリア様にハラハラさせられていると、ニーナさんは気持ちよさそうに笑いながらシリア様の両肩をバンバンと叩きながら謝り始めました。


「あっはっは! いやぁ悪かった悪かった! 御覧の通り、あたしゃ口も悪ければ性格も悪いもんでね! そんなあたしにあんたが耐えられるか、ちょろっと試させてもらったのさ!」


「なる、ほど……」


「おぉ怖い怖い! そのかた~く握りしめた拳で殴られたらたまんないね! でも、これだけ煽られて癇癪起こさなかったのはあんたが初めてだよ!」


 ニーナさんはシリア様から数歩離れると、片手を腰に当てながら続けました。


「んじゃ、改めて自己紹介といこうか? あたしはニーナ、【炎獄の魔女】ニーナさ。あんたのことは、おもちゃ兼家事役としてうちに置いてやるから、魔女になりたきゃあたしから学べるもんは全部盗んでいきな」


「……改めてよろしくお願いします。いつかニーナさんの技を超えて、先ほどのお返しができるよう頑張ります」


「あっはっは!! あんた、かなり根に持つタイプじゃないか! こりゃ何されるか分からないねぇ!」


 未だ怒りが収まりきらないシリア様を笑い飛ばした彼女は、目じりに浮かんだ涙を拭いながら、自分についてくるようにとシリア様を指で招きます。


「来な。あんたがこれから毎日立つことになる厨房、それと家の紹介をしてやるよ」


 シリア様は頷き、その背中を追っていきます。

 その後ろ姿を目で追いながら、レオノーラが深く溜息を吐きました。


「かなり性格に問題がある人物ですけれども、あれで【始原の魔女】の一人だと言うのだから呆れてしまいますわね」


「彼女もそうなのですか?」


「そうですわ。【始原の魔女】とは、後の世界大戦で特に貢献した魔女の総称。シリアとラティスは言わずもがな、先ほどのレイユとあのニーナも含まれておりますの。他にも数人おりますが、後々出てくるのでしょう」


「てっきりシリア様と同世代の方々がそう呼称されているものだと思っていましたが、そういう由来があったのですね」


「まぁ、この頃は魔女と呼ばれる人物が少なかったのもありますけどね。ほら、そんなことを話している間にまた場面が切り替わりますわよ」


 レオノーラの言う通り、シリア様達が去っていった方向からあの光景が広がりを見せ始めていました。

 次はどんな場面になるのでしょうか、と期待を膨らませつつ、私は目が疲れないように瞳を閉じることにしました。

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