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449話 魔女様は見つかる

 ひょんなことからレイユさんとの戦闘が中断し、昼食を囲むことになってしまったシリア様でしたが、ここに来た目的であった「自分以外の魔女から技を覚えたい」という点は達成できるようになってしまったため、若干モヤモヤしつつも受け入れているようでした。


 そんなシリア様の気持ちを知ってか知らずか、自信の逸品だと提供した海鮮スープパスタを突きながら、レイユさんが楽しそうにシリア様へ話しかけます。


「それで、何だっけ? 子猫ちゃんは今以上に強くなりたいって話で良かったかな?」


「はい。どうしても強くなる必要が出てきてしまったので」


「ふぅん? 理由を聞いてみても?」


 シリア様は一瞬ためらいましたが、小さく頷いて答えます。


「私は魔女として家族と身分を捨てた身ではありますが、その家族が魔王軍によって殺されてしまっていました。その復讐にと魔女に物を頼むのは間違っているとは重々承知の上ですが、やはりどうしても捨てきれず……」


 終盤、尻すぼみになるように顔を俯かせてしまったシリア様を、レイユさんは少し興味深そうに見つめています。彼女の隣に座っているアルシェさんも、翡翠色の瞳でシリア様を心配そうに見ていました。

 レイユさんはスープパスタを一口頬張り、思考と共に咀嚼し終えると。


「ふむ……。子猫ちゃん、もしかして君は魔女の師匠はいないまま魔女を名乗っていたのかな」


「え? はい、そうです。魔法使いの中でも、家と身分を捨てた者は魔女と呼ばれると聞いていたので」


「うーん。それは合ってるけど間違いだね」


「と、言いますと?」


 首を傾げるシリア様に、レイユさんはフォークをくるくると回しながら答えました。


「魔女ってのも、誰でも名乗れる気軽なものじゃないんだ。人より強大な力を操れるということは、その力に人一倍の責任が生じると言うことでもある。その責任を本人だけで保証させるのは危険だから、必ず責任者である師匠が必要となるって訳さ」


「ええと、何故本人だけでは保証されないのでしょうか」


「それは簡単な話だよ。うっかり街でも消し飛ばして、その人が姿を消したら責任の追及先をどこに向けたらいいか分からなくなるだろう? 家ひとつ建て直すにも、かなりの時間とお金、それと人が必要となるんだ。それを無償で出来るほど、この世界は優しくはないよ」


「なるほど」


「まぁそれでも、子猫ちゃんみたいなモグリが出ちゃうのは仕方ないんだけどね」


 モグリの魔女、と言われたシリア様が気まずそうに呻いたのを笑いながら、レイユさんが続けます。


「そこでなんだけど子猫ちゃん。君が本当に魔女になりたいって言うのであれば、私から紹介状を書いてあげようと思うけどどうかな?」


「本当ですか!? ぜひお願い――あれ? レイユさんが稽古をつけてくださるという訳では無いんですか?」


「うちにはアルシェがいるっていうのもあるけど、そもそも私自身が人に教えられるような魔法じゃないんだ。セオリーを踏襲しないオリジナルが多すぎて、子猫ちゃんのためにならないからね」


 その発言に、シリア様もオリジナルがかなり多いので、ある意味吸収できるものもあるのではないのでは、とも思ってしまいましたが、シリア様は“基本に忠実であればあるほど”その魔法陣から読み取って応用することが可能となる優れた理解力をお持ちのため、オリジナルで多分に改変された魔法陣だと理解するのにも一苦労となってしまうことが予想できてしまいました。

 レイユさんがそれを知ってか知らずかは分かりませんが、基本に忠実な魔法を扱う魔女の方を紹介してくださることは、シリア様にとっても大変ありがたいことでしょう。


 シリア様がそれを納得して頷き返すと、昼食後にレイユさんが紹介状を書き上げるまでの間、アルシェさんと昔話でも咲かせておいてほしいと頼まれることとなりました。

 ご馳走していただいた礼にと、シリア様はお皿洗いを始めようとすると、アルシェさんがかなり申し訳なさそうな顔を浮かべながら挙動不審な行動を見せていました。


「どうしたんですかアルシェ?」


「えっ、あの、えと……うぅ……」


 シリア様からの問いかけに、アルシェさんは今にも泣きだしそうな顔になってしまいました。

 そんな彼女を見ながら、シリア様はふっと困ったように笑いながら水道の水を止めて歩み寄ります。


「いつもはアルシェの仕事だったんですね。ですが、今日くらいは私にやらせてください」


「でも、シリアは……その……」


「お客さんだから、ですか?」


 アルシェさんがコクコクと頷くのに対し、シリア様は一回り以上小柄な彼女の頭に手を置きながらにっこりと微笑みます。


「お客さんだろうと家族だろうと、人の恩には礼儀で返すものです。なので、私にレイユさんへのお礼をさせてくれませんか?」


 それでもアルシェさんは何かを言いたそうにしながら視線を彷徨わせ、手をもじもじとさせ続けていましたが、やがて観念したらしく、俯きながら小さく頷きました。

 シリア様は彼女の頭をポンポンと柔らかく叩くと、手早く洗い物に取り掛かり始め、ものの数分で全てを終わらせて戻ってきました。


「お待たせしましたアルシェ。では、何から話しましょうか?」


「あ、えっと、待って……」


 テーブルに着きなおそうとするシリア様にそう言うと、アルシェさんはパタパタと食器棚の方へと向かっていき、何かを探し始めました。中段、上段と慌ただしく視線を動かし続け、目的の物である茶葉の入った缶を取ろうとしていますが、シリア様と頭一つ以上違う彼女の身長では高さが足りず、全く届きそうにありません。

 見かねたシリア様が苦笑しながらも彼女の背後に立ち、それを取ってあげようとした右手に缶が触れた瞬間。


「ひゃああああああ!!」


「わっ、きゃあああ!?」


 シリア様のローブが彼女の耳に触れてしまい、アルシェさんが身を小さくさせながら後方に逃げようと飛び上がりました!

 当然、背後にはシリア様がいるため、彼女はシリア様に体当たりをする形となり、シリア様諸共体勢を崩して転倒してしまいます。


 そこへ、先ほどシリア様が手にかけていた茶葉の缶が宙を舞っている最中に、運が悪いことに蓋が開いてしまい、彼女達へ中身がすべて降り注いでいきました。


「ふわぁぁぁ!?」


「わぷっ……にゃ!」


 中身が空になった缶がシリア様の脳天を襲い、何故か猫のような悲鳴を上げたシリア様でしたが、頭を擦りながら自分の体の上にいるアルシェさんへと声を掛けます。


「アルシェ、大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」


「うん……。ごめん、なさい」


 茶葉まみれのシリア様と、床に散乱したそれを見て泣き出しそうになるアルシェさん。

 シリア様はそんな彼女を小さく笑いながら、ふと天井を見上げながら呟きました。


「懐かしいですね。アルシェと会った時も、水を被ることになりましたっけ」


「うぅ……それはもう、ごめんって、言った」


「気にしてませんよ」


「ちょっとちょっと。凄い音がしたけど大丈夫――うわぁ、派手にやったねぇ」


 慌てて飛び出て来たレイユさんがシリア様達の惨状を見て、困ったように苦笑しました。

 続けて彼女が指を鳴らすと、床に散乱した茶葉がひとりでに缶の中へと戻っていきます。

 シリア様はレイユさんに向けて申し訳なさそうに愛想笑いを浮かべ、謝罪を口にしました。


「すみません。アルシェがお茶を淹れてくれようとしていたので、手伝おうとしたら余計だったようで」


「なんとなく分かるから気にしないでいいよ。ほら、シャワーでも浴びてきたらどうかな? その間に私も書き進めておくからさ」


「では、ありがたくお借りします」


「うんうん。タオルも好きなのを使ったらいいよ。あぁ、アルシェも一緒に行ってきな。子猫ちゃんに使い方を教えてあげるついでにね」


「分かった。こっち」


 すくっと立ち上がり、シリア様についてくるように言ったアルシェさんの後に続くシリア様。

 その二人の姿を見送るレイユさんの視線は、まるで母親のように優しいものでした。


「まるで母親の様ですわね」


 レオノーラも同感であったらしく、小さく笑う彼女につられて微笑みながらその背中を見送っていると。


「私も魔女にならなければ、母親になれていたのかもしれないね」


「えっ!?」


 レイユさんはこちらを見ながら、そう返すのでした。

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