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446話 ご先祖様は決意する

「えっ……」


 聞き覚えのある街名に、シリア様が反応を示しました。

 確かリブルという街は、シリア様の生家があった村の近くだったはずです。そこが攻め落とされたと言うことは……。


「変なことを聞きますが、リブルの住民はどうなりましたか? 近隣にも村があったと思いますが」


 やや声が震えているシリア様からの問いかけに、彼女は瞳を閉じてふるふると首を振りました。

 それだけで、近隣にも被害が及んだ上に無事ではなかったと言うことが分かってしまい、シリア様は帽子のつばをつまんで顔を隠してしまいました。


 アバンさんも、シリア様がリブル近くにあった村の出身だと言う事を知っていたため、シリア様に何と声を掛けたらいいか分からなくなってしまっています。

 そんな中、ようやくダメージが落ち着いてきたらしい剣士風の男性が口を開きました。


「だから俺達は、リブルの生き残りとして、これ以上魔王の横暴を許すことはできないんです。何としてでも、戦争を終わらせたい。その過程で、俺達が命を落とすことになったとしても……」


 彼らはただ、勇者気取りで魔王を討伐しようと行動していた訳ではなく、本心から復讐したいと決意した上で行動を起こしていたのです。

 その気持ちがひしひしと伝わってきてしまい、アバンさんも複雑そうな表情を浮かべています。


 重い沈黙が流れ、誰も言葉を発せない状況がしばらく続き。

 その沈黙を破ったのは、シリア様でした。


「……おじさん、この人達をお願いします」


「んあ? どういうことだ? まさかお前」


「大丈夫です、そのつもりはありません」


 シリア様はアバンさんの隣に立ち並ぶと、真剣な表情を彼らに向けました。


「今日から一年間、こちらのアバンさんの下で死ぬ気で強くなってください。一年後に私が帰って来た時、あなた達が相応の実力をつけていたのなら同行してあげます」


「ほ、本当ですか!?」


「ただし!」


 表情を明るくさせた彼らの言葉を切るように、シリア様は強い口調で制しました。

 その時のシリア様の表情は、恐らく彼らの中で一生消えることは無いものとなるでしょう。


「私が認められないと判断した時は……夢を語るだけの軟弱者として、私の手で塵も残さずこの世から消してあげます。そのつもりでいてください」


 凄みのある言葉に、彼らの表情も引き締まります。

 そして二人同時に深く頷いたことを確認したシリア様は、くるりと踵を返して店の中へと向かっていきました。


 慌てて追いかけて来たアバンさんに、シリア様は少し弱ったような表情を向けながら謝りました。


「ごめんなさいおじさん、面倒なことを押し付けてしまって」


「別にそれは構わねぇが……。お前さん、どうするつもりだ?」


「私は私で、少し修行をしてこようかと思います。幸い、友達から強い魔女の居場所を教えてもらっていたので、そこで手合わせがてら研究させてもらおうかと」


 二階の自室に入り、準備を進めるシリア様に、アバンさんは壁に背中を預けながら呆れたように鼻で溜息を吐きました。


「……やっぱ、お前さんの家族はまだ生きていたんだな」


「騙すつもりはありませんでした。あの時はレイヴン先生に従った方がいいかと思いまして」


「あんな猿芝居、ちっとも気にしちゃいねぇさ。むしろ、咄嗟に話を合わせられる賢い嬢ちゃんだと感心したくれぇだ。ただ、お前さんが一言も家族のことを話さなかったもんだから、思うところもねぇのかと思っててよ」


 アバンさんの言葉に、シリア様は荷造りの手を止めてしまいます。

 しばらくの沈黙の後、彼女はアバンさんに困ったような作り笑顔を向けて答えました。


「思わない訳がないじゃないですか。いろいろあったとは言え、私を産んでくれて、十年間育ててくれた親なんですよ?」


「その答えが聞けて安心したよ」


 アバンさんは苦笑しながら部屋から出ていき、部屋にはシリア様だけが残されました。

 一人きりになったと分かった瞬間、シリア様はボロボロと大粒の涙を零しながら泣き出します。


「私がこの国を変えるところ、見せてあげたかったなぁ…………!!」


 ラヴィリスへ行き、魔法を学びたい。

 その先で国を変えたいと、初めて自分の夢をご家族に語ったシリア様。


「魔女になれて、女の私でも運命を自由に決められるようになったよって、教えてあげたかったなぁ……!!」


 女性として生まれるも、過酷なこの社会で生き抜ける力を手に入れたシリア様。

 そんな彼女を、本心から心配してくださっていたであろうシリア様のご家族には、もうその報告ができないのです。


 シリア様は後悔に押しつぶされるように、自分の衣服を強く、きつく抱きしめながら声を殺して泣き続けます。その姿は今にも壊れてしまいそうなほど脆く、見ているのが辛い物でした。

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