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441話 ご先祖様は習得する

 開始早々、ラティスさん達は同時に詠唱を始めました。


「燃えよ魔力、猛れ業火! 魂魄諸共消し炭と化せ!! コロナ・ブラスト!!」


「凍え、凍てつき、絶対零度に眠るがいい。ブリザード・メイルシュトローム!」


 双方から放たれた上級魔法が校庭の中央で激突し、拮抗した魔力による衝撃波が周囲を襲います。

 シリア様は腕で顔を覆いながらも、両腕の隙間から彼の魔法陣の構築を一変たりとも見逃さないと言わんばかりの気迫で凝視し続けていました。


 現在は初等部でありながら、既に上級魔法を物にしているラティスさんにも驚かされますが、それよりも氷魔法であるにも関わらず、炎魔法に拮抗しているという彼女の実力に感嘆せざるを得ません。

 ですが、やはり自然界の相性には敵わず、じわじわとラティスさん側が押され始めているのが分かりました。


「オレが、お前らのような初等部のガキに、負けられるかよ!!!」


 リーダー格の生徒はさらに魔力を込めて威力を上げ、ラティスさんが放っている氷の渦を溶かしつくそうとし始めました。

 ラティスさんは苦しそうな表情を浮かべていましたが、作戦を切り替えることにしたらしく、一瞬だけ魔力を込め直して氷の渦を拡散させるように広げます。

 それにより、相手側の炎弾が薄くなった部分を溶かしながら突き進み始め、凄まじい勢いで霧が校庭全域に広がっていきました。

 視界が悪くなる中、ラティスさんの人影がその場から駆け出すのが見えた直後、ラティスさんがいた場所に彼が放った炎弾が激突し、霧と土煙でさらに視界が奪われました。


 霧が晴れていくにつれて、奥の方で二つの人影が踊るように場所を入れ替えながら戦っているのが見えてきました。それは氷の剣を振りかざすラティスさんと、支給品ではない杖に炎を纏わせて応戦している上級生の姿でした。


「クソッ! 魔法使いのくせに近距離戦とか何なんだよお前!」


「これも魔法の一つです」


 どうやらこの頃からラティスさんは近接戦闘が得意であったようで、未来の彼女が振るっていたラーグルフよりは二回りほど小さいながらも、十分に大剣と言える大きさのそれをブンブンと振り回しています。

 そう言えばエルフォニアさんも「魔女が近接戦闘にも対応できるようになったのは近年から」と言っていましたし、二千年前のこの時代では異例極まりないのかもしれません。


 今も昔も変わらない彼女らしい戦い方に妙な安心感を覚えていると、男子生徒がしびれを切らしたらしく、自身の周囲に炎の渦を作ってエルフォニアさんを物理的に近づけないように対策し始めました。


「うぜぇよお前! これで終わらせてやる!!」


 彼はそう吠えると、一段と魔力を高めて渦の中で詠唱を開始します。


「墜ちよ太陽、降り注げ禍つ星(まがつぼし)! ここに謳うは終末の流星なり!!」


 私も知らない詠唱を開始した彼に、ラティスさんは警戒を示しながらシリア様の下へ駆け寄り、ドーム状の結界を編み上げていきます。

 どうしたらいいか分からないシリア様に、ラティスさんは指示を飛ばしました。


「この攻撃は防ぎます。あなたは私が防いでいる間に、あれを自分のものにしなさい! あれの基礎こそ、あなたの糧になります!」


「わ、分かりました!」


 シリア様は再び集中しなおし、彼が編み上げていく魔力と魔法陣の解析に勤め始めました。

 それを見ながら、レオノーラが興味深そうにつぶやきます。


「まさかこの時代に、【始原の魔女】以外で極大魔法を扱える者がこんなにもいたなんて……。道理で進軍が滞ってた訳ですわね」


「あれが極大魔法の詠唱なのですか?」


「えぇ。火属性最強の威力を誇る極大魔法――エスペラル・ニルヴァーナ。太陽を落とすかのような一撃で、大地に生きる命を吹き消すかの如く押し潰す魔法ですわ」


 太陽を落とすかのような一撃と聞いて、以前シリア様が勇者一行を撃退した時に使ったあの魔法を思い出しました。ですが、あの魔法は名称が異なっていたような気がします。

 そんな私の思考を読み取ったかのように、レオノーラが続けます。


「ちなみにですが、シリアが愛用している全てを無に帰す(エクスターミネイト・)洛星(メテオ)は、シリアがエスペラル・ニルヴァーナを流用して作り出したオリジナルの極大魔法ですのよ。あちらはこれよりも、威力も規模も段違いですけれど」


「道理で既視感があった訳ですね」


「どこで学んだかは分かりませんでしたが、恐らくはこれがきっかけだったのでしょうね。初めて見る極大魔法をそのまま自分の物にしてしまうだなんて、相変わらずとんでもない才能ですわ」


 レオノーラの感心の視線の先にあるのは、既にシリア様がエスペラル・ニルヴァーナを構成する魔法陣から必要な術式を読み取り、自身の足元に少しずつそれを模した魔法陣を展開し始めている姿でした。

 シリア様が放つ魔力も彼に劣らない火属性を帯びており、返しの一撃として放つにしては十分すぎるほどにも見えます。


 その対岸で、詠唱を完成させたリーダー格の生徒が額に汗を煌めかせ、終わりだと言わんばかりに咆哮しました。


「耐えれるものなら耐えてみろよ!! エスペラル・ニルヴァーナァッ!!!」


 彼の詠唱完了と共に、ラティスさん達の頭上に太陽と見紛うほどの質量を持った火球がゆっくりと降り注いできました。

 ラティスさんはその着弾を見事防いで見せるも、規模の大きさから即座に結界にヒビが入っていきます。

 苦しそうな表情を浮かべながらも耐え続けているラティスさんは、背後を振り返りながら声を上げました。


「シリア! あとどれくらいですか!?」


「あと、十秒あれば!!」


「ふっ、無茶を言いますね……!」


 そうは言いながらも、ラティスさんは口の端を吊り上げて楽しそうな顔をしていました。

 彼女は持てる全ての魔力を込めて結界を補強し、気迫も込めて咆哮しました。


「はああああああああああああっ!!!」


 決壊にヒビが入っては即座に修復され、再びヒビ割れては一層下に新たな結界を張りなおして持ちこたえると言った苦行の時間が十秒ほど経過した時、彼女の希望の星が声を上げました。


「できた! いつでも撃てますよラティス!!」


「なら早く撃ちなさい! もう持ちません!!」


「うん!」


 シリア様はありったけの魔力を注ぎ込み、彼が唱えた詠唱を復唱します。


「墜ちよ太陽、降り注げ禍つ星(まがつぼし)。ここに謳うは終末の流星なり!」


 カッ、と目を見開いたシリア様の赤い瞳は、煌々と輝いていました。


「エスペラル・ニルヴァーナ!!!」


 シリア様は杖を彼に向けて振りかざし、詠唱を完成させ。

 彼の頭上に、こちら側へ降り注いでいるものを遥かに上回るサイズの太陽を生み出しました。


「う、そだろ……?」


 信じられない、認めたくない。

 そんな絶望の色に染まった彼の声は、容赦なく降り注いだ衝突音にかき消されていきました。

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