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439話 ご先祖様は逆転する

 戦闘開始の合図と共に、無詠唱の雷撃がシリア様へ目掛けて飛び掛かっていきました!

 シリア様はそれを紙一重で躱し、標的から少しでもずらせるようにと駆けだします。

 ですが、その行動は日々フローリア様の無茶苦茶な鍛練を受けていた身としては無駄な行動であると思ってしまい、ツインテールの彼女にとっても同じであるようでした。


「逃げても無駄よ! 雷魔法の射程をナメないで!」


「くっ!」


 シリア様が駈け出していた前方に雷撃が撃ち込まれ、校庭が小さく爆ぜました。

 咄嗟に進行方向を切り替えて隙を探そうとしていたシリア様ですが、それを許さないと言わんばかりに次々と雷撃が撃ち込まれていきます。


 流石のシリア様も走っているだけではターゲットから逃れられないことを悟ったらしく、杖の柄をを地面に突きつけて無詠唱の土の壁を生成しました。

 直近に迫っていた雷撃はその壁に激突して霧散しましたが、一発だけで壁の大部分が削られてしまっており、およそ二発が限界であるということが見て取れてしまいます。


「これじゃ弱い!」


「無駄よ、むーだ!」


「きゃあ!!」


 容赦なく撃ち込まれた雷撃に壁を破壊され、その衝撃で小柄なシリア様の体が吹き飛ばされてしまいました!

 しかしシリア様は即座に受け身を取り、追撃に備えて駈け出します。


 その後も幾度か壁を作っては耐えてみて、破壊されては駆け出しを繰り返していると、女子生徒が苛立ちを感じていたのか、声を荒げ始めました。


「だから言ったでしょ! 土属性とかいうド底辺魔法なんかが敵う訳がないって! ほらっ!!」


「くっ、ああっ!?」


 今度は一撃で壁を破壊されてしまい、息を整えていたシリア様はその衝撃に直撃し、ゴロゴロと地面を転がりながら吹き飛んでいきます。

 全身に擦り傷が増えてきていて、疲労が蓄積していっているシリア様がよろよろと立ち上がるも。


「きゃあああああああ!!」


 そこを狙ってきた雷撃が彼女を襲い、雷に全身を激しく打たれたシリア様は膝から崩れ落ちてしまいました。


「シリア様!!」


「大丈夫ですわよ、落ち着きなさい」


 またしても飛び出しそうになる私をレオノーラが冷静に捕まえ、落ち着くように言い聞かせます。

 どうしてもじっとしていられない光景に胸を痛めながらも見守っていると、シリア様はまだ戦えると言わんばかりに腕に力を込めて上半身を起こしました。


「もう、ちょっと……なんだけどなぁ……」


「何? 降参ー?」


「ふふっ、まさか……」


 荒い呼吸を繰り返しながらシリア様は立ち上がり、魔力を高めながら再び杖を地面に突き立てました。

 同じように壁を作り上げた彼女は、何かを考えるように瞳を閉じて瞑想をしているようにも見えます。


「だから無駄だって言ってるの! それしかできないなら諦めなさいよ!」


 強く撃ち込まれた雷撃が、再び壁を破壊する――かと思いきや、今度はあまり抉られた形跡がありませんでした。

 女子生徒としても、今の一撃で破壊できていたと思っていたらしく、驚愕の表情を浮かべています。


「な、何よ。壁の強度を高めただけでしょう!?」


 そのまま幾度も雷撃を飛ばすも、何故かシリア様の土の壁には傷がつかず、ビクともしていません。

 強化魔法を使った様子もなかったのですが、一体どういう原理なのでしょうか……。


「ふふっ! 気になります? 教えてあげてもよろしくてよ?」


 首を傾げる私に、レオノーラが茶目っ気のある声で話しかけてきます。


「では、教えていただいてもいいですか?」


「えぇ! まず、シリアが何故、ずっと壁を作りながら逃げていたかから始めましょうか」


 レオノーラはパチンと指を鳴らし、マジックウィンドウを出現させました。

 そこには街が襲撃され、シリア様が初めて魔法を行使した時の様子が描かれています。


「シリアはこの時、本能的に魔法を行使しました。あの時は生きたいという強い想いに魔法が応えた形となりますけど、今回はそうはいきませんの。理由は簡単ですわ、先生という監督役がいるから自分が死ぬことは無いと分かってしまっておりますから」


「まさかシリア様は、自分を痛めつけることで本能的な生命の危険を再現していたのですか!?」


「ご明察ですわ」


 ウィンクと飛ばしながら正解だと教えてくれるレオノーラから、壁に背を預けながら僅かでも体力を回復させようとしているシリア様に視線を移します。

 魔法の原動力はイメージ力。そのイメージが具体的であれば具体的であるほど、魔法に現れる効果は顕著になります。だからと言って、自分が倒れそうなほどにまで追い込んで危機感を煽り、力づくでイメージ力を強めるというやり方は聞いたことがありません。


 とんでもない荒業で乗り越えようとしているシリア様に絶句していると、レオノーラがまだ終わっていないと言わんばかりに説明を続けました。


「そして、避けようと思えば避けられたあの雷撃に被弾した理由ですが、あれもわざと受けることで威力を確かめておりましたの。具体的にどれくらいの火力であるかが分かったのならば、それを無効化できるほどの壁を作り出せばいいと言うことですわね」


「本当に無茶苦茶ですね……」


「幅広く知識を得たいシリアだからこそできた、自分の身で検証する実験のようなものですわね。さて、そろそろシリアのターンになりますわよ」


 そう言うレオノーラと共にシリア様へ視線を戻すと、彼女は手のひらで何かを創造しては消しているようでした。あの動きは先日の試験の時に、より精巧な狼を生み出そうとしていた時の物に似ています。

 まさかシリア様は、実戦でもあの彫像を作り出すつもりなのでしょうか? そう考えていた私の予想は、シリア様の発想には到底追いつけないものだと理解させられることになりました。


「……よし。これなら!」


 何か満足いく結果ができたらしいシリア様は立ち上がり、ありったけの魔力を込めて錬成を始めました。

 それは校庭の土を使ってモコモコと徐々に形になっていき、やがてシリア様の背丈を上回るほどの大きさとなり。


「行きなさいゴーレム!!」


「な、何よそれぇ!?」


 精巧な狼のゴーレムが、大きく咆哮しました!

 土色のそれは大地を強く蹴り、女子生徒へと猛突進していきます。

 まさか反撃されると思っていなかったらしい女子生徒は軽くパニックになりながらも、無詠唱の雷撃を狼にぶつけながら距離を取ろうとしますが、この狼にもシリア様が受けた雷魔法の耐性が付与されているらしく、無傷のままどんどん距離が詰められていきます。


「う、嘘!? ちょっと待って、こんなの聞いて――」


『ウォオオオオオオオオオオン!!』


「きゃあああああああ!!!」


 顔を真っ青にする女子生徒は成す術もなく、狼の突進を受けて空高く舞い上げられました。

 そのまま背中から地面に激しく叩きつけられた彼女は、肺の中の空気を全て吐き出すと微動だもしなくなってしまいました。


 戻って来た狼に寄りかかりながら様子を見ていたシリア様の視線の先で、先生が女子生徒の状態を確認し始めます。

 やがて反応がないことを確認した先生は、声高々に宣言しました。


「中堅戦、勝者! 初等部シリア!!」


 その宣言に私まで皆さんと同じように喜んでしまい、レオノーラに飛びついてしまいました。

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