434話 ご先祖様は受験する・後編
シリア様が連れていかれた先は、私の記憶にも新しいハールマナ学園内の面接部屋でした。
今とは内装が少し違う室内ですが、ここでシリア様がハールマナの再建に燃えていたのが、つい昨日のように思い出せます。
ここで少し待つようにと指示を出した魔女の方が、部屋から出て行ったのを確認したシリア様は、一息つきながらソファに腰掛け、室内の観察を始めました。
シリア様の視線を追いかけながら私達も観察をしていると、どこの村に迫っていた魔獣の群れを退けた、どこの街の復興に貢献したと言うような表彰状が数多く飾られていて、当時からハールマナ魔法学園の生徒は各地で華々しい活躍をしている様子が見て取れます。
いずれはシリア様も、飛び級かつ主席卒業生として表彰されるのでしょうかと考えていると、室内に扉がノックされる音が聞こえてきました。
シリア様が佇まいを正した直後、扉を開けて入って来たのは見覚えのある男性でした。
「やぁシリアさん! キミなら間違いなく突破してくれるだろうと信じていたよ!」
「お久しぶりです、レイヴン先生」
レイヴン先生は本当に嬉しそうに言いながらソファに腰掛け、追従してきていた魔女の方にも座るように促します。魔女の方は既に面識があると言うことに驚いていましたが、シリア様の腕に着けられているレイヴン先生のブローチを見て察したようでした。
「彼女が、学園長のお墨付きという訳だったのですね」
「あぁ。近年稀に見る逸材だと思って、即座に声を掛けに行ったよ。実際、彼女の素質は素晴らしい物だろう?」
魔女の方は手元の資料を捲りながら頷きます。
「はい。魔力保有量は既に成人女性魔法使いの五倍。その質は、現時点で宮廷魔法使いに匹敵する物です」
「そんなにか!? いやぁ、流石はシリアさんだ。私の目に狂いはなかった!」
「しかし、惜しむらくは」
とんでもない魔力を持っていることが明らかにされ、まるで我が事のように喜ぶレイヴン先生に釘をさすかの如く、魔女の方が重々しく告げました。
「彼女の適性が、土であることでしょう」
「土、か。そうか」
シリア様の属性適性を聞いたレイヴン先生は、これまでの喜びようとは打って変わって、やや落ち込んでいるようにも見えてしまいました。それはシリア様自身も感じ取れたらしく、聞いていい物か迷いながらも彼らに質問を投げかけます。
「あの、まだよく分かっていないのですが……。適正? で何か変わるのでしょうか?」
「そうだね……。まずはそこから話をしようか」
レイヴン先生は気まずそうに、シリア様へ各属性適性について説明を始めました。
その説明を軽く纏めると次のような内容です。
火属性は適性のある人口が最も多い属性で、魔法使いの花形とも言える火力特化の属性。
水属性は次に多く、火力こそ火属性に劣れども氷も操ることができることから、豊富な技で制す準火力型。
風属性は瞬間的な火力ではなく、継戦火力の高い属性でもあり、幻影を用いた他者への支援なども行えるいわゆる万能型。
雷属性はその三属性に比べると母数は少ない属性ではあるものの、とにかく速度と射程に優れた魔法を高火力で放てることから、第二の火属性と謳われるほどの火力を持つ属性。
光属性は、私が使う治癒や防護結界を始めとした守護魔法のエキスパートであり、人口の希少性から非常に重宝されるもの。
闇属性は基本的には魔族が扱うもので、エルフォニアさんが扱うような影魔法や弱体魔法など、まだまだ解明されていない部分の多い属性。
そして土属性はと言いますと。
「土属性を一言で説明するなら、物作りに特化した属性なんだ。あの時のシリアさんが作った壁だったり、自分の代わりに働くゴーレムだったりといろいろ作ることができるけど、錬金術と役割が大きく被ってしまっているのが現状だ」
「加えて補足致しますと、無から有を生み出すことのできる魔法に軍配が上がるという訳でもなく、等価であれば何にでも作り変えられる錬金術に対し、魔法は物質の生成次点で魔力を求められてしまうため、非常にコストパフォーマンスも悪いものとなります」
「あぁ、もちろんゴーレムを主体とする魔法使いも中にはいるよ? だが、実践でゴーレムを出して戦うにも莫大な魔力リソースが必要になるから、好き好んで土属性を選ぶ人は滅多にいないんだ」
「結果として、土属性に適性を持ってしまった方々は、その適性を捨てて他の属性に着手し、劣化型他属性の魔法使いとなる道を選ぶことが多くなっています」
確かにシリア様も土属性は元々戦いには向いていないと仰っていましたが、まさかここまで酷評を受けるほどに酷い属性であったとは……。
これまで何度も生活面で助けていただいていたシリア様の土属性が、どれだけ不遇なものであったかと思い知らされてしまった私は、未来に希望を抱いてここまで来たシリア様の心情を考え、顔を俯かせてしまいました。
ですが、その直後に隣のレオノーラに肘でつつかれ、顔を上げた私に彼女は少しムッとした表情を見せてきました。
「確かに、土は魔法の中でも最低ランクの不遇な属性ですわ。ですが、シリアをご覧なさい。あなたのように悲観的になっておりまして?」
その言葉にシリア様の表情を伺うと、シリア様は表情を曇らせるどころか、むしろやるべきことを見つけたと言わんばかりの顔つきになっているではありませんか。
「……と言うことだから、シリアさんも悪いことは言わないから、入学後は他の属性を学んで欲しい。どうかな」
レイヴン先生の配慮に、シリア様は頷き。
「ご配慮ありがとうございます。ですが、私は土属性を極めたいと思います」
そう、宣言するのでした。
これには流石の二人も声を失ってしまい、シリア様を信じられない物を見るかのような顔で見ています。
「土属性は戦闘に置いて不遇というお話はよく分かりました。ですが、魔法使いというのは戦闘が全てなのでしょうか?」
「そ、そうではないよ。もちろん、魔石を使って社会に貢献したり、水魔法で水路を増やしたりと利便性の高い力を使えるのが魔法使いだ」
「なら、生活の水準を底上げするには土属性は最適なのではないでしょうか」
「シリアさん。さっきも言った通り、生活を支える部分に寄与するには錬金術が――」
「錬金術を上回れないから土属性は下火になっているのですよね?」
シリア様の発言を聞いた瞬間、私は察してしまいました。
錬金術、ひいては魔術と魔法との分水嶺はここだったのです。
ここで彼らが土属性という適正を酷評せず、土属性にもできることがあると利点を強く主張しておけば、シリア様も錬金術を上回ろうとは考えなかったのでしょう。
何とも言えない気持ちになっている私の隣で、レオノーラが腕組みをしながら苦笑していました。
「シリアは昔から気が短いところがありましたわね……。過ぎたことをどうと言うつもりはございませんけど、これが今の魔女と魔術師の関係を作ってしまう引き金になるだなんて、誰も思いもしませんわね」
「シリア様の負けん気と探求力が強かったと言うことを見抜けなかった彼らに責任があるとは言いきれませんが、それでもやっぱり、未来を知っている身としてはもう少し何とかできなかったのでしょうかと思ってしまいますね」
「彼らとしては真実を述べているだけですもの、仕方ありませんわ。ただ、真実だけではなく嘘も織り交ぜる必要があるということは、これで貴女も学べたでしょう?」
横目でいつものように茶目っ気のある視線を送ってくるレオノーラに、私は苦笑せざるを得ませんでした。




