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423話 魔女様は救いたい

 大神様と呼ばれたその男性は、人当たりのいい笑みを浮かべながら私達へ挨拶をし始めます。


「初めまして。私はこの世界を平定する神です。シルヴィとレナは知っていますね?」


 おっとりと優しい声色で尋ねてくる彼に、私とレナさんは頷き返しました。

 この声の感じは、間違いなくフェティルアの時に私へ話しかけてきていたあの声と同じだと思います。


「こうしてお会いするのは初めてですが……。お久しぶりです、大神様」


「急に来るのはずるいわよ大神様! びっくりしたじゃない!」


 レナさんは相手が大神様であろうとも、いつもの口調で通していたようです。

 彼女の胆力に感心させられながらも、大神様の次の行動に注視していると。


「お前の世界では、こうしてふらりと姿を見せることをサプライズと呼ぶのでしょう?」


「サプライズの規模が違うのよ!! 神様と人を一緒にしない!」


「おや……。怒られてしまいました」


 大神様、そこで私に助けを求めるような顔を向けるのは止めてください。どう反応したらいいか分かりません。

 対応に困る私に代わり、レナさんが盛大に溜息を吐きながら対応してくれました。


「で、大神様が直々に来てくれたってことは、かなりやばいってことでいいのかしら?」


「そうですね。神が失われるのは私としても看過できないので、お前達に頼みに来たという言い方が正しいかもしれません」


 神が失われる。

 そう聞いた途端、私はそれがシリア様のことを指しているのだと理解してしまいました。


「あの、大神様。シリア様は」


「焦る気持ちは分かりますが、まずは私の話を聞きなさい」


「すみません」


 そのまま着席を促され、全員が座りなおしたことを見届けた大神様は、膝の上で手を組みながら説明を始めました。


「まずは、軽い方から伝えましょうか。フローリアについては、お前達は何も心配しなくて問題ありません。傷は深いものの、あくまで一時的に肉体を保持できなくなっただけですからね」


「いやいや、それってかなり重症なんじゃ」


「それは人の基準です。神の肉体など、核さえ破壊されなければいくらでも替えが効きます」


「あ、はい」


 レナさんは言っても無駄だと悟った顔をしながら引き下がりました。

 無茶苦茶な理屈ではありますが、神様には神様なりの怪我の度合いがあるのでしょう……。と自分を納得させ、続きを促してみます。


「では、悪い方のシリア様は……」


「シリアは、このまま行くと核が崩壊し、存在が消えることになります」


 シリア様が消える。どこかそんな予感がしていたものが事実となってしまい、私の焦りが加速します。

 しかし、それを見越していたかのように大神様は私を手で制し、言葉を続けました。


「対神性魔法。あれを受けた者は、通常であれば上級魔法を受けたと同じ痛みで済むでしょう。ですが、神力を持つ者にとっては、その威力は大きく跳ね上がることになります。それはお前自身もよく理解していますね?」


「はい。私の防護陣が破られそうな勢いでした」


「神力を持つ者でさえその威力となると、神はどうなるか分かりますね?」


「……冗談抜きで必殺ってこと?」


 どう形容するべきか迷っていた私に代わって、レナさんが尋ねてくれました。

 大神様は静かに頷き、口を開きます。


「当たる場所にもよりますが、今回のような半ば不意打ちのような状態であれば、間違いなく必殺となります。それでも核の破壊を紙一重で防いだのは、戦闘慣れしているシリアだからこそできた芸当でしょうね」


 感心するようにそう言う大神様に、私は聞かずにはいられませんでした。


「大神様、教えてください。私は、どうすればシリア様を助けることができますか?」


 シリア様はこれまでも、私のためなら何でも教えてくださいました。

 魔女として生きる術。魔法の応用技術。商人と戦う話術と胆力。そして、自由。そのどれもが欠けても、今の私は成り立ちません。


 だからこそ、私にできることであれば僅かなことでもお返しがしたいのです。

 ただシリア様から享受するだけの自分ではなく、シリア様にも何かを贈ることのできる自分になりたい。

 そしていつかはシリア様のように、自分の護りたい幸せを護れるように先導していける私になりたい。

 そのためにも、どんなことでも躊躇わないと固く決意した意思を込めて、改めて尋ねます。


「私にできることなら何でもします。どうか、シリア様を助けられる方法を教えてください」


 大神様は真剣な様子で私をしばらく見つめていましたが、しばらくして優しく微笑んでくださいました。


「お前のような家族思いの人の子に愛されて、シリアも幸せ者ですね」


 それはどういう……。

 口を開こうとした私を遮る形で、大神様が続けます。


「方法はひとつだけです。かつて、お前が使った世界創造魔法を用いて、シリアの過去を再現しなさい。お前がシリアの力を呼び起こせなかったのは、単純にお前がシリアを知らなかったからです。上辺だけの信心で、神は人に力を与えません」


 その言葉に、以前シリア様が勇者一行のパーティにいた修道女、サーヤさんに対する評価で似たようなことを仰っていたのを思い出しました。

 と言うことは私も彼女と同じように、シリア様への理解が浅かったのでしょう。


 一緒に過ごすだけが理解には繋がらない。そう意識を改め、私は大神様の言葉を待ちます。


「シリアの過去を知り、彼女の人生の苦楽を知りなさい。そうすれば、お前の持つ鍵とシリアの核が自然と導いてくれます」


「鍵、とは何でしょうか」


 私の疑問に、大神様は「そうでした」と何かを失念していたかのように付け足しました。


「この世の生命を持つ者には、魔力を全身に巡らせるための核と、それを動かすための鍵を持っています。通常は神力を扱えない者が多いので、自分の核に鍵が刺さったままとなりますが、神力を扱える者はその鍵を刺し替えることで神力と魔力を切り替えています」


「じゃあ、シルヴィは鍵が多いってこと?」


「いえ、逆です。シリアとソラリア、そして自分。鍵穴の形すら違うはずのそれぞれの核に、彼女は対応できる鍵を持っているのです。それが、魔術師の人の子が言う“新世界の器”という意味でしょう」


 シリア様の先祖返りの体のせいかは分かりませんが、どうやら私はそういう体質のようです。

 分かったような分からないような、何とも言えない気持ちになりながらも、私は大神様に頷きました。


「分かりました。あの魔法でシリア様を学んできます」


「いや待ちなさいよ! シルヴィ一人で行くつもり!?」


「え? はい。あそこには私とマリアンヌさんだけしかいなかったので、たぶん私と対象の一人だけしか存在できないのかと思ってましたが」


「でもその魔法って誰かを殺せるくらい危険なんでしょ!? 何かあったらどうするのよ!」


 レナさんの心配を受けながら、ふと全員の視線が私に集まっていたのに気が付きました。

 確かに、あの魔法は一度しか使ったことが無い上に、意図しなかったとはいえマリアンヌさんを殺めてしまった危険な魔法であることには違いありません。

 ですが、選択肢が他に無い以上、危険を顧みずに進むしかないと思います。


「……大丈夫です。きっと、何とかして見せますから」


 安心させようと微笑んでみましたが、納得してもらえなかったようでした。


「大神様! あたしも入れない!? シルヴィ一人じゃ攻撃もできないんだから、何かあったら身を護れないわよ!」


「お姉ちゃん、危ないところに行くならわたしも行く! わたしが戦ってあげる!」


「お母様、このティファニーも連れて行ってください! 必ずお母様をお守り致しますので!」


「落ち着きなさい。誰も、一人で使えとは一言も言っていません」


 大神様は私に向き直り、確認するように言います。


「世界創造魔法を使うにあたっては、お前の魔力の乱れを外部から私が調律するので危険はありません。ただし、お前は知らないかもしれませんが、シリアの過去はかなり苦労が多い物でした。それでもお前は、シリアという人物から目を背けずに追うことができますか?」


 大神様の問いかけの意味は、危険はなくとも見失えばシリア様を救えない可能性がある、と言う事なのでしょう。

 正直、シリア様の過去は話しで少し聞いた程度なので、実際にどのような現実が待ち構えているのかは想像すらできません。


 ですが、それでも――。


「はい。何があっても、私はシリア様から目を背けずに受け入れます。それがシリア様を知ると言う事ですから」


 大神様は私の意思を確かめるようにしばらく見つめてきていましたが、やがてふっと柔らかく微笑みました。


「いいでしょう。ならば、お前に魔法を授けます。明日の正午、再びこの場所で会いましょう」


「ありがとうございます、大神様。よろしくお願いします」


「では、私は今日はこれで。お前達もしっかりと休みなさい」


 私達全員に向けてそう言い残すと、大神様はすっと姿を消してしまいました。

 シリア様の過去。それはとてつもない苦労が多かったと予想できますが、そこから逃げずにありのままのシリア様を受け入れなければなりません。


 未だに不安そうな表情で私を見ている皆さんに、私は微笑みながら言いました。


「きっとシリア様が導いてくださいます。私に任せてください」

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