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419話 魔女様は応用する

「……だってさ、プラーナ」


「何故私に振るのですか?」


「だってこんなの予定外じゃない。せっかくシリアを消し飛ばしたのに、本体が覚醒しちゃうなんて」


「それはその通りです。ですが、覚醒初期段階であれば対処は出来ましょう。それで、お力の方は?」


 ソラリア様は、先ほどまで私から抜き取っていた水晶を手元に引き寄せ、それを自分のお腹の中へと吸収するようにねじ込み始めました。水晶玉が完全に彼女の体内へと消えると、彼女の体が激しく発光しだします。

 眩しすぎる赤に視界が潰されてしまわないよう、腕で覆っていること数秒。光が落ち着いたかと思い、改めて視線を戻すと――。


「んー、六割ってとこかしら。まぁ、上々じゃない?」


 先ほどまでは少女の姿だったソラリア様の体が、何故か私と同年代かそれ以上かに見える女性の物へ変貌していました。

 レナさんの世界で言うところの“ゴスロリ”のような服装も、肌面積の露出が多くなっており、やや成熟したボディラインを際立たせる妖艶ささえ感じられるものへと変わっていて、まるで言葉通りの意味で成長したように見えます。


「そうですか。万全にとはいかなかったのが悔やまれますが、器の覚醒についても検討しなおす必要がありますし、一度退いて」


「いや、ここで潰しておくべきじゃないかしら」


 プラーナさんの言葉を遮るように言ったソラリア様は、どこからか大鎌を取り出すと、軽快にそれを体の周囲で回しながら戦闘態勢を取りました。

 そんな彼女に、プラーナさんが溜息を吐きつつも数歩後ろへ下がり、「お好きにどうぞ」と答えます。


「ねぇお姫様。土壇場でご先祖様の力を呼び起こせたのは褒めてあげるわ。でもね、そのせいで死ななくて良かったものが死ぬ羽目になるのは残念だと思わない?」


「思いません」


 即答した私に、ソラリア様は少し驚いたような反応を見せました。


「確かに、あなた達から見たら最終的には私は死ななかったのかもしれません。ですが、新世界計画に利用され、今まで大切にしてきたものを全て奪われた後の人生は、私にとっては死んだも同然なのです。ですので――」


 そこで一度言葉を切り、大きく深呼吸をしてから彼女をまっすぐ見据えて答えます。


「私は、私の大切な物を壊そうとしているあなた達には屈しません。私がどれだけ傷付けられようとも、シリア様から授かったこの力で守り抜いて見せます」


「あっそ、それなら」


 来る。そう判断し、即座に結界を展開したのは正解でした。

 一瞬で間合いを詰めてきたソラリア様の大鎌が、私の結界に甲高い音を奏でながら突き刺さります。


「あんたが誰にケンカを売ったのか、よーく分からせてあげなきゃねぇ!?」


 速度も速く、それでいて一撃一撃が重いそれを受け止めつつも、守りに徹しているだけでは勝機が無いため、活路が無いかと必死に頭を働かせます。

 今、私を包んでいる温かな力は、間違いなくシリア様のものだと分かります。と言うことは、こうして神様であるソラリア様と渡り合えているのも、シリア様の神力を引き出せているからなのでしょう。

 ソラリア様の権能は、“人の願いを叶える力”だとプラーナさんも言っていました。だからこそ、これまでの私がトリガーとしていた“何かを護りたい”という強い願いに応じて、ソラリア様の神力が発動していたのだと思います。


 と言うことは、シリア様の力を十全に引き出すためにも、何かがトリガーとなるはずです。

 そこまで思考が辿り着いて、私はある疑問に直面してしまいました。


 シリア様が【魔の女神】であることは知っていましたが、シリア様にはソラリア様のような権能はあるのでしょうか。


「ほらほらぁ、守るだけで精一杯じゃない! 何が屈しないよ、口だけかっこつけちゃってさぁ!!」


 ソラリア様は、先ほどアザゼルと呼ばれた悪魔の男性と対峙していた時の死神を呼び出しました。

 それも私へ凶刃を振りかざし始め、純粋に手数が二倍となり、私の負担が大きく増します。ですが、まだ余裕はありそうです。


 再び思考をシリア様についてのものに切り替え、これまでのシリア様の情報を整理します。

 かつて、勇者一行の一員となってレオノーラを倒し、世界を平和へ導いた【始原の魔女】の一人であるシリア様。そんなシリア様が立ち上げた魔導連合では、大魔導士の始祖となっていたようでしたが、そこで付けられた二つ名は【偉才の魔女】と言うものでした。

 シリア様の活躍はそこで留まらず、当時のグランディア王家へ嫁いだ後は、王と同等かそれ以上の発言権を持った優秀な王妃となり、グランディア王国の発展にも一躍買っていたそうです。

 そんな華やかな実績を持つシリア様ですが、魔法でも錬金術と同等以上の技が使えると広めてしまい、魔女と魔術師という対立を生み出してしまった張本人でもあります。


 良くも悪くも、その分野の運命……いえ、未来を変える力が大きかったに違いありません。


 そこで、ふと一つの可能性に気が付きました。

 もしかしたら、シリア様の権能は――。


「隙だらけの首、いっただき!」


「きゃ!?」


 いつの間にか側面に回り込んでいた死神から繰り出されていた一撃を、間一髪で身を逸らすことに成功しました。その代わりにローブが一部裂けてしまいましたが、体に支障はないので許容範囲としましょう。

 一度大きく鎌を弾き返し、急いで防護陣を展開します。私一人の身を護るだけなので印も四つと少な目ですが、その分硬度を増すことはできます。


「何なのあんた!? 結界の次は陣とか、無策のままケンカだけ売って来たわけ!?」


 ソラリア様は苛立ちから、さらに攻撃の威力を上げてきました。

 大丈夫です。私の結界は、もっと強いものも防いできたのです。これくらい、どうと言うことはありません。

 乱れそうになる集中力を再度高めつつ、自分に言い聞かせて冷静さを取り戻します。


 魔力も安定してきたことを見計らい、私は一つ、試してみることにしました。


「私は、シリア様のような器にはなれないかもしれません。ですが、私にだって護りたい幸せな未来があるのです。そのためにも、未来を護れる力を貸してください!!」


 シリア様の権能は、恐らくは“未来を変えるための魔法を授ける”ものでしょう。

 となれば、トリガーとなる意識は“運命に抗う”意思です!


 そう考え、杖に魔力を込めた私の予想は的中し、私を中心に金色に輝く魔法陣が展開されました。

 これは……と扱いに困った次の瞬間、私の口から自然と詠唱が発せられました。


「我が親愛なる友を護るため。我らが未来を切り開かんがため。我が想いよ、剣となりてここに形を成せ! 勇猛(ニャイツ)なる(・オブ・)猫騎士(ブレイヴリー)!!」


 私が詠唱を終えた次の瞬間、魔法陣に六つの光の柱が立ちのぼりました。

 その光の柱が徐々に弱まっていくにつれて、光の中に小さな影が立っているのが見て取れます。

 やがて、光が完全に消えて中から出てきたそれは――。


「「ニャー!!」」


 何とも愛らしい声を上げながら勇ましく剣を掲げて見せる、デフォルメされた猫の騎士団でした。

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