417話 魔女様は苦悶する
レオノーラ達三人を相手取り、流石にやや苦しそうな表情を浮かべているプラーナさんが、いつまでも転移しないソラリア様へ疑問を投げかけます。
「どうされましたかソラリア様。早く移動を」
「あ~……そういう事ね。やってくれるじゃない、あのエルフ」
「まさか、向こう側から妨害を?」
ソラリア様が何か答えようとした直後、それに答えるようにマジックウィンドウが出現し、まさに疲労困憊と言った様子のイルザさんが姿を見せました。
『シルヴィさん、こっちは制圧しておきました。転移もブロックしてあるので、心置きなくやっちゃってください!』
『イルザさん……!!』
「あーらら。だってさプラーナ、どうする?」
「何故、こうも毎度我々の計画には邪魔が入ってしまうのでしょうか」
プラーナさんは心底疲れているかのように深く溜息を吐きながら右腕を大きく振るい、過激な攻撃を加え続けていた三人を吹き飛ばすと、すっと床に手を突きながら早口で何かの詠唱を始めました。
それを見たラティスさんが何かに感づいたらしく、氷の剣を無数に降らせながら警告します。
「総員、あれを止めなさい! 私達が飛ばされます!!」
「承りましたわ! はあああああああ!!」
「アザゼル! 一旦こっちを優先しなさい!」
「へいよぉ!!」
私が見てきた魔女の中で、最高の実力者ともいえるラティスさんとエルフォニアさん。
魔族の王であり、戦争が終わってから長らくと言ってもその力は健在であるレオノーラ。
そして本当に悪魔であるらしいアザゼルさんらの猛攻がプラーナさんへと襲い掛かりますが、彼女の周囲に触れる魔法はいずれも消失してしまっており、全くと言っていいほどダメージが通っていません。
「くっ! 本当に魔術刻印と言うものは厄介ですのね!!」
「このままでは詠唱が終わるのが先ね。ラティスさん、何か策は無いのかしら」
「あまり使いたくはありませんが、止むを得ません!」
そう言うと、ラティスさんは攻撃の手を止めてラーグルフを空中に突き立て、剣先に魔力を流し込みながらこちらも詠唱を開始しました。
やがてラティスさんの方が僅かに早く詠唱を完了し、彼女を中心に世界が凍てつき始めます。あれはもしかして、私がイースベリカに遠征へ向かった際に飛ばされた、彼女の固有結界ともいえる氷のお城でしょうか。
私の予想は的中し、私達のいた屋上は瞬く間に息も凍るような極寒のお城に包まれました。
その直後にプラーナさんの詠唱が完了し、レオノーラを始めとした四名が光に包まれて一瞬姿を消してしまいましたが、どういう原理か彼女達はお城の床の上に再び姿を現しました。
「なるほど。結界内に自分達を封じることで、強制的に無効化してきましたか」
「魔力消費が激しいので、あまり取りたくはない手段ですが仕方ありません」
ラティスさんは勇ましく剣を構えながら、プラーナさんへ鋭い視線を向けます。
「あまり時間は掛けられません。短期決戦と行きましょう」
「えぇ! 私達を敵に回したことを後悔させ……はっくち!!」
槍を構えなおして恰好良く言おうとしたレオノーラでしたが、半実体の私でさえ寒さを感じてしまいそうになる環境に体が耐えられていないらしく、可愛らしいくしゃみが出てしまっていました。
その隣では、いつの間にか厚手のコートに身を包んでいるエルフォニアさんが、足元からいくつもの影の剣を呼び出して臨戦態勢を整えています。
そこへ、この寒さを物ともしていないソラリア様の気楽な声がプラーナさんへと向けられました。
「あーあ、私まで捕まっちゃった。とりあえず、プランCでいいのね?」
「はい。こちらは私だけで対応しますので、ソラリア様は進めてしまってください」
プラーナさんがそう言った直後、どちらともなく激しい攻撃の応酬が始まりました。
とても目で追うことができない速度と、魔法同士が激突する衝撃の余波で吹き飛びそうになっていると、ソラリア様は私の魔力で作り出した玉座に優雅に座り、どこからか現れた水晶が鎮座している台座に手をかざし始めました。
『今度は何をするおつもりなのですか?』
鼻歌混じりに操作をしている彼女へ問いかけると、ソラリア様は視線も向けないまま答えます。
「あんたの中にある、あたしの力を抜き出してるの。これが無いと新世界計画も上手くいかないからね」
『抜き出すとは……はぐっ!?』
操作を終え、私の体から水晶の中へと赤く禍々しい魔力が流れ込み始めると、先ほどシリア様が攻撃を受けた際に感じた鋭い痛みが再び私を苛み始めました!
体の神経が裂けてしまうのではないかと錯覚しそうになる痛みに身をよじらせる私を見ながら、ソラリア様は頷きながら口を開きます。
「痛いよねー、分かる分かる。私も大神の奴に権能奪われた時も死ぬかと思うくらい痛かったもん。あぁ、ちなみにこの痛みはね? 体に血液を送り届ける心臓があるように、魔力を全身に送り届ける“核”って言うのがあって、それを壊されそうになっているから生じるのよ」
『やめて、くだ――あああああっ!?』
さらに痛みが増し、とても言葉を話せる状態ではなくなってしまった私に、ソラリア様は小さく笑います。
「まだほんの一部しか取り出してないでしょー。そんなんじゃ本当に死んじゃうわよ? って言っても、あたしの加護があるから死なないんだけどね」
この激痛が、まだまだ続くのですか!?
最早どこが痛いのかすら分からない全身の痛みとその言葉に、私は絶望するほかありませんでした。




