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414話 異世界人は抑えきれない 【レナ視点】

 あたしの、ミスだ……。


『そうよ。あんたが最後の最後で気を緩めたから、ロジャーが撃って来た一撃をフローリアが庇ったの』


 あたしが、ロジャーにとどめを刺さなかったから……。


『あんたはいつだってそう。勝ちを確信した途端に気が緩む。あんたの悪い癖よ』


 もう一人のあたしの一言が、あたしの心に深く突き刺さる。

 あたしは、いつもそうだ。学生の頃に助っ人で入ったバスケの試合も、残り時間三秒で点を取られるはずがないと慢心した結果、あたしがミスして逆転を許してしまった。社会人になってからも、契約を取り付けることができた後に気が緩んで、大事な名刺を失くしてダメにしたこともあった。


 詰めが甘い。

 何度、この言葉に悔しい思いをしてきたんだろう。

 それは今も変わらず、こうしてあたしを苦しめる。


 あたしが、ロジャーに同情なんてしないでしっかりトドメを刺していたら……。


 そう考えると同時に、抑え込んでいた憎悪の力がじわじわとあたしを蝕み始める。


「ぐっ、ううううううっ!」


『あんたはそこで、うじうじ泣いてれば? あとはあたしが、ぜーんぶぶっ壊してあげるから』


「それは、させない……!」


『ほら、ちょうどいいのが来たわよ。あんたの上っ面だけの大事な家族から壊そうかしらね?』


 上っ面だけの家族?

 その言葉の意味を理解したあたしはハッと思考が切り替わり、遠くからこちらに向けて駆け寄って来ていたエミリ達の姿に叫んだ。


「エミリ待って! 今は来ないで!!」


『れ、レナちゃん!? どうしたの!? どこか痛いの!?』


「お願い! 今はダメ――ぐうぅっ!!」


 あたしの意思など関係ないと言わんばかりに、抑えきれない憎悪の衝動が体を突き動かそうとする。

 地面にうずくまる形で必死に抵抗しているあたしは、遠くから見たら何かのダメージで苦悶しているようにしか見えないんだと思う。


 だから、優しいあの子達が足を止めることもない。


「レナちゃん、だいじょ……わあぁ!?」


「レナ様!?」


 あたしの静止の願いも虚しく、あたしの傍に来てしまったエミリとティファニーに、遂にあたしの体が勝手に襲い掛かろうとし始めてしまった。

 だけど、そこに割り込んできてくれたのはメイナードだった。


『己が力に振り回されるなよ小娘』


「メイ、ナード……!! あああああっ!!」


 あたしの両腕がメイナードの足に掴まれ、そのまま地面の上に押し付けられる。

 あと少しでも力めば折れてしまうんじゃないかってくらいの脚力で掴まれているせいで、体が悲鳴を上げているのが分かる。それでも、その状態から力づくで抜け出そうとあたしの体は暴れ続けていた。

 メイナードの体をどかそうと、まだ自由な足がメイナードを幾度となく蹴り上げる。


「ごめん、ごめんメイナード! ホントごめん!」


『ふん。この程度、かすり傷にもならん。それよりも、フローリア様はどこだ?』


「あたしを庇って魔術師に撃たれて、天界に!」


『そうか。だから貴様は、こうして力を抑えられずにいるのだな』


「いつもはフローリアがあたしの時間を巻き戻してくれていたんだけど、それが無いからどうしたらいいか分からなくて……!」


 蹴られる度に小さく体を揺らしながらも、メイナードは表情を微塵も動かさない。

 そんなあたし達を心配そうに見ていたエミリ達が、メイナードに問いかけた。


「メイナードくんとレナちゃん、急にどうしちゃったの!? なんでケンカしてるの!?」


「レナ様、落ち着いてくださいませ! メイナード様と仲が悪いからと、そんなことをしてはいけません!」


「あたしだって、好きでやってるわけじゃないのよ!」


『小娘は魔力が暴走するとこうなるのだ。我が抑えてやるから、お前達は離れていろ』


「う、うん」


「メイナード様、ティファニー達に何かできることはありませんか?」


「ティファニー、離れよう? たぶん凄いことになるから巻き込まれちゃう」


「ですが……きゃあ!? 引っ張らないでくださいエミリ!」


 エミリがティファニーを連れて、小走りで離れていく。

 これでメイナードから抜け出した途端、エミリ達に襲い掛かるってことが無くなったから少しだけ安心ね。

 そんなことを考えていた直後、メイナードはあたしの腕を掴んだまま飛び上がり、校庭と思わしき場所へとあたしを放り投げた!


「うわあああああ!?」


 悲鳴をあげるあたしとは裏腹に、あたしの体は即座に態勢を整えて着地した。

 メイナードはあたしから少し離れて舞い降りると、いつものトレーニングの時とは本気度が違うと感じられるほどの魔力を放出しながら、あたしをまっすぐ見据えて言った。


『来るがいい小娘。今一度、貴様がどれだけの力をつけようと我に敵うことが無いということを、その身に教えてやろう』


「戦って済む話じゃなあああああ!?」


 メイナードの挑発を受けたあたしの体は、あたしが喋ってる最中にも拘わらず突撃を始めた。初手から加速全開で一撃必殺を狙うも、メイナードは避けるそぶりすら見せず。


『どうした? 普段の小娘の方がまだ威力があるぞ』


「あんた、何で避けないの!?」


『小娘、舌を噛みたくなければ黙っていろ。そして、思う存分内側の貴様に暴れさせるがいい』


「でも」


 そうしたら本当に制御ができなくなるわよ。そう言おうとした直後、最後の抵抗にと踏ん張っていたあたしの意識を無理やり引き剥がしながら、もう一人のあたしが咆哮した。


「上等よクソ鳥!! 今まで散々、好き勝手にあたしの体を痛めつけてくれてさぁ! ここでぶちのめして焼き鳥にしてやるわ!!」


『ふっ、いいだろう。では我が勝った暁には、小娘の丸焼きと言うことでいいな?』


「いいわよ! あんたじゃ勝てないでしょうけどねぇ!!」


 それを皮切りに、あたしの体の制御を乗っ取ったアイツは、本能のままに憎悪の力をメイナードに叩きつけ始める。メイナード自身もそれに合わせるように動き始め、互いに一撃が致命傷となりえる攻撃の応酬が始まった。

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