412話 異世界人は攻めあぐねる 【レナ視点】
――シルヴィとシリアがソラリア達と相対している、同時刻別所にて。
「だりゃああああああああ!!」
「いいねいいね! やはりキミは魔女として終えるには勿体ないよ! どうだいレナちゃん、やっぱり魔術師にならないかい!?」
「死んでもお断りよ!!」
「それは残念だ。でも、僕はいつでも歓迎するよ! こんな風にね!」
「うわぁ!?」
またしても、床を蹴ろうとしたあたしの足首にロープが絡みついてきた。
それと同時に、あたしの側頭部をめがけてロジャーの棍が襲い掛かってくる。
「いい加減、同じ手ばっかりでうざいのよ!!」
「おおっと」
それをしゃがんで回避し、腕をバネのように使って鎌を振り下ろすかのような蹴りをお見舞いするも、アイツは器用に棍を引き寄せて防御に回して防がれてしまった。
間合いを取り直すロジャーに警戒しつつ、地面から伸びていたロープは引きちぎったとはいえ、まだ足首に巻き付いているそれに視線を少しだけ向ける。
この前のフェティルアの時とは違って、罠にかかってもある程度魔力を込めて身体強化さえしてしまえば、だいたいの罠は壊せるから楽でいいけど、元々魔力量が多くないあたしにとってはこのやり方での長期戦はキツイのよね。
あたしの魔力切れを狙っているのか知らないけど、アイツもどうも安い挑発や小さい罠を多用してあたしを消耗させようとしているし、ささっと一気に攻めちゃいたいところなんだけど……。
足首のロープを外しながら警戒を解かないあたしに、ロジャーがやれやれと言った様子で呟く。
「レナちゃんさぁ、本当に何者なわけ? キミは普通の魔女だって言うけど、僕の罠を壊せた魔女なんて今までいなかったんだよ」
「それは良かったわね。あたしで一人目じゃない」
「全然良くないんだけどねぇ。今回は特に気合いを入れて術式も練りこんでたのに、こうも意味がないと【罠士】としての面目丸つぶれだよ」
「ぶっちゃけ、今日の罠よりフェティルアの時の方が抜け出せなかったわよ。何か間違えてるんじゃないの?」
率直な感想を述べたあたしに、ロジャーは溜息を吐きながら頭をガリガリと掻いた。
「やっぱり、キミは特殊すぎる。今日はまだ、この前のあの変な魔法は見せてくれてないけどさ、絶対アレが原因なんじゃないかなって思うんだ……。そうだろう?」
「アレはあまり使いたくないの。だから今も使ってないし」
「そうじゃなくて」
ロジャーはあたしを指さしながら続ける。
「キミ自身が、もうこの世界にいる人間とは何かが違う存在になっているってことだよ。じゃなかったら、その魔力の説明がつかないんだ」
ロジャーの言っている意味がイマイチ理解できない。
この世界の人間とは違うって、それはそうでしょ。そもそもあたし、この世界の人間じゃないんだし。
まぁ、それを知らないアイツからしたら、あたしは異質な存在に見えてるのかもしれないわね。
「あたしが何者であったとしても、あんたに答える義理は無いわ。あんたが魔術師を裏切って、あたし達魔女に味方してくれるって言うなら、教えてあげなくもないけど」
「ははっ、それは無理な相談だね。でもまぁ、アクシデントなんて常に付き物な世界だ。キミがどんな存在であれ、僕はここでキミを足止めするのが仕事――」
ロジャーがそう言いながら構えなおした次の瞬間。
何の脈絡もなく、あたし達がいる部屋の一角が爆発した!
「きゃあ!? びっくり~!」
「な、何!? ロジャー、あんた爆弾まで仕込んでたの!?」
「僕じゃない! 爆弾は僕の美学に反するからね!」
「知らないわよそんなの! じゃあ何なの今の!?」
アイツの仕業じゃない、かと言ってフローリアが何かやったって訳でもない。
となると、外からの攻撃だと思うけど……。
土煙も収まりを見せ始めた壁へと目を凝らすと、夜の暗がりを煌々と照らすような光の槍が何本も突き刺さっていた。それにギリギリ突き刺さってるか突き刺さってないかくらいの隙間に、魔術師が何人か転がっている。
「わぉ! レナちゃん、これシルヴィちゃんと同じ魔力よ!」
「はぁ!? シルヴィは攻撃できないんじゃ」
そこまで言いかけて、あたしの頭の中でもう一人該当者がいることを思い出した。
シルヴィから魔力を貰って生まれた人物で、攻撃ができないシルヴィとは違って自由に魔法を使える子。
「まさかこれ、ティファニーがやったの!?」
「たぶんね!」
あの子、シルヴィの五分の一くらいしか魔力持ってないとか言ってなかったっけ?
五分の一でこの威力って、ホントにシルヴィはどれだけ規格外なのよ!?
「ともあれ、これでロジャーを相手する理由はなくなったわ! あんたの足止めに付き合うのも終わりよ!」
「うんうん! あ、でもレナちゃん。ロジャーくんが最後の術式を持ってるんじゃなかったかしら?」
そう言えばそうだった。アイツとの戦闘ですっかり忘れてたけど、あたしの目的はエルフォニアが何かするために結界の術式を壊すことだった。
「そうだよレナちゃん。キミが求めていたのはこれだろう?」
そう言いながら、改めて手の上に術式を出現させるロジャー。
……仕方ないけどもうこれ以上時間もかけてられないし、アイツの罠があたしに効果が薄いって言う言質も取れたわけだし、一気に終わらせちゃいますか!
「そうよ。だから、次でこの無駄な時間も終わりにしてあげるわ」
「おぉ、怖いねぇ。と言うことは、あの魔法を使ってくれるのかな?」
「じゃあフローリア、何かあったらお願いね」
「おっけー☆ ふぁいとだぞレナちゃん!」
ロジャーも何か策はあるっぽいけど、向こうが動く前に終わらせればいいだけ。
何かやられたとしても、神力はおろか魔法よりも脆い魔術なら打ち壊せる。
あたしは自分自身にそう言い聞かせながら、魔力を反転させ始めることにした。




