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408話 魔女様は抜け出す

 少しでも体力を温存しておこうと眠りに就いていた私でしたが、先ほどから小さく建物が揺れたり、部屋の外で慌ただしく駆け回る足音で目が覚めてしまいました。それはどうやらシリア様も同じであったらしく、眠たそうな瞳を擦りながら半実体化して私へ声を掛けてきます。


『なんじゃ、さっきからやかましい……』


「おはようございます、シリア様。これは一体、何の騒ぎなのでしょうか」


『分からぬ。ちと外の様子でも見に……む?』


 途中で言葉を切ったシリア様は、部屋のドアへと視線を向けました。

 釣られるように私も視線を動かすと、ドアが若干開いているようにも見えます。


「シリア様」


『罠の可能性は高い。じゃが、この機を逃す手も無かろう。妾が先に進み、見張りがいないか確認してくる。お主は物陰に身を隠しつつ付いてくるのじゃ。良いな?』


「分かりました」


 そっとドアを押し開くと、部屋と似た造りの廊下が続いていました。

 シリア様が手招きしている方向には、今のところ人影は見当たりません。


 なるべく足音を立てないように、それでいて気持ち足早に移動を開始すると、部屋の中でも感じていた小さな揺れが再び私を襲いました。それに合わせて、天井から石同士が擦れて生まれた砂埃がパラパラと降ってきています。


『この建物自体、不出来な創りなのじゃろう。ほれ、他の部屋の扉もいくつか開いておる』


「おかげで脱出できた身としてはありがたい限りですが、人を捕えておくにはあまり向いていないのかもしれませんね」


『まぁ、どれだけしっかりしていようと攻め込まれればボロは出ると言うものよ。っと、シルヴィよ。その部屋に一度入るぞ。見回りが来ておるようじゃ』


 少しだけ開いている隙間に身を滑らせて部屋へと忍び込み、壁に背中を押し付けながら外の様子を伺います。すると、ドアの隙間から軽装とローブを身に着けている男性がゆっくりと歩いてきているのが分かりました。


「はぁ……。こんな時間に仕事なんてやってられねぇよ。ボスも人使いが荒すぎるぜ……ふわぁ~」


 ボス、というのは恐らくプラーナさんのことでしょう。

 そして私の体感では時間は分かりませんでしたが、非常に眠たげな彼の様子から、今は夜も遅い時間であることが伺えそうです。


「ん? またドア開いてんじゃんか。この建物ボロ過ぎだろ……ったくよぉ」


 彼はそうぼやくと、中を確認しないまま私達のいる部屋の扉を閉めました。

 そのまま足音が遠ざかっていくのを聞きながら、先にシリア様が顔だけ外へと出し、私に扉を開けるように指示を出します。


『やれやれ、妾達も舐められたものじゃな。ほれ、先を急ぐぞ』


 部屋から出て再び脱出ルートを探し始めようとすると、少し先でシリア様が再び立ち止まっているのが見えました。シリア様はこちらに来るようにと手招きをしながら言います。


『この部屋、妾が入れんようになっておる。何か臭わんか?』


「すみません、砂埃のせいかイマイチ臭いが分かりづらくて……」


『阿呆! 怪しいと言う意味じゃ! ほれ、さっさと開けよ!』


 やや理不尽な怒られ方をしてしまいましたが、ここは言われた通りにしましょう。

 ドアノブを引きながら扉を開けてみると、中には――。


「イルザさん!?」


『声が大きい!!』


「す、すみません。ですが」


『分かっておる』


 質素なベッドの上で、手枷を付けられてぐったりとしているイルザさんの姿がありました。

 急いで駆け寄ると、彼女は顔色も悪くやや呼吸も乱れているように感じられます。


「どうしましょうシリア様。魔法が使えない私では、彼女を楽にする方法がありません」


『慌てるでない。妾も聞いた話ではあるが、エルフというのは木々と共に過ごすことの多い種族であるが故に、こうした閉鎖空間には弱いという噂がある。ほれ、確かこ奴の席は窓際で常に窓が開いておったであろう?』


「言われてみればそうかもしれません。では、外の空気に触れれば良くなるのでしょうか」


『可能性はある。お主の負担となるが、背負えるか?』


「イルザさん、失礼しますね」


 そっとイルザさんの手を私の前首に回し、全体重を預かる形で背負おうとしましたが、完全に脱力している人間の質量に私が潰されてしまいそうです。


「くっ、うぅ……!」


『踏ん張れ! 今動けるのはお主だけじゃ!』


「は、はいぃ……!!」


 何とか立ち上がることができましたが、今後は身を隠しながら脱出するなんてとてもできそうにありません。

 それでも、この場所から逃げ出さなくてはと自分を鼓舞し、よろよろと部屋の外へと歩み始めましたが。


「こ、これは!?」


 部屋の外に広がっていたはずの石造りの廊下ではなく、どこかの屋上かと思えるほど開けた空間に出てしまいました。

 困惑する私に、シリア様が警告の声を放ちます。


『シルヴィ、後ろじゃ!!』


 その声に突き動かされて背後を振り向くと、そこには薄手の羽織ものを風にたなびかせている魔術師達のリーダー――プラーナさんの姿がありました。


「共に新世界を創りましょうと約束したばかりだと言うのに、逃げ出すなんてあんまりではありませんか。【慈愛の魔女】シルヴィさん?」

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