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402話 魔女様は戻れない 【レナ視点】

 シルヴィ達が学校に行くようになって三週間と二日目。

 今までは帰りが遅くなる時があっても必ず連絡してくれていたシルヴィからの連絡が無いまま、時刻は夜の八時を迎えている。


「レーナーちゃーん、お腹ぺこぺこよぉ~……」


「あんた最年長でしょうが。エミリ達も大人しく待ってるんだから待ってなさいよ」


「でもでも~」


 泣きべそを掻きそうなフローリアの言葉に続いて、我慢の限界を強調するかのようにお腹の虫が大きく鳴いた。まぁ仕方ないわよねとか思いながら苦笑しようとすると、こともあろうかフローリアはすっと隣のエミリを指さした。


「えぇ!? わ、わたしじゃないよレナちゃん! フローリアさんだよ!」


「分かってるって。ホント情けないんだから」


 今度こそ溜息交じりにフローリアへ苦笑し、テーブルの上で既に冷めてしまっている料理を見つめる。

 ……今日はあたしが初めてまともに作れた夕飯だったから、シルヴィとシリアにも食べてもらいたかったんだけどなぁ。

 ご飯と卵スープ、少し焦げた中華風野菜炒め、ポテトと卵のサラダ。どれもシルヴィが作るものに比べたら、見た目も悪くて味も良くはないけど、こっそり練習し続けた成果が出てるくらいには形にはなっていると思う。


「お母様、まだ学園長様とのお話が終わらないのでしょうか」


 ティファニーが心配そうに言いながら、顔に似合わないサイズの胸の前できゅっと手を握りしめる。

 エミリ達の話では、今日は学園長と大事な話があるから一緒には帰れないかもってメッセージを貰ったみたいだけど、話なんてそんなに長引くもの? って思わなくもない。


「まぁ、学校の先生って残業が多いってことで有名だから、もしかしたら激務に追われてるのかもね」


「お姉ちゃん大変そう……」


 いつまでも既読も付かず、返信もないウィズナビを見つめるエミリ。

 あたしも一時間くらい前に電話――じゃなかった。連絡してみたけど、本当に出られない状況みたいだったから、邪魔になっても悪いしって思って一回きりでやめておいた。

 でもいい加減連絡くらいは欲しいわよねって思ったところで、ふと思いついた案を言ってみることにした。


「そうだフローリア。あんたなら姿を消したままシルヴィのとこに転移とかできるんじゃないの? ほら、何だっけ。【刻の女神】と【空間の女神】って二つで一つだから、フローリアも好きな場所に転移できるんだってコーレリアが言ってたじゃない」


「お腹空いてるから無理~」


「じゃあすぐに温めなおすから、食べたら行ってきてよ」


「えぇ~? もう、しょうがないなぁレナちゃんは!」


 口ではそう言いながらも、ご飯が食べられるならとフローリアは途端に元気になった。

 エミリ達よりよっぽど扱いやすいわとか思いつつ、料理を温めなおそうとすると、ティファニーがぴくりと何かに反応を示して家の外へと顔を向けた。


「どうしたのティファニー?」


「エルフォニア様がいらっしゃいました!」


「エルフォニア?」


 こんな時間にアイツが来るわけないって思ったけど、直後に呼び鈴が鳴ったことで本当にアイツが来たんだと分かってしまった。

 我先にと駆けだしていくティファニーの後を追って玄関まで急ぎ、扉を開けると。


「こんばんは。夜遅くに悪いのだけれど、シルヴィはいるかしら」


「え、あんたもシルヴィに用があるの?」


「少し聞きたいことがあるのよ。それで、その口ぶりからだとまだ帰ってきていないのかしら?」


「こんばんはエルフォニア様! 申し訳ありませんが、お母様はまだ帰られていません」


 あたしの代わりにティファニーが答える。

 いつものコイツなら「そう。ならまた来るわ」とか言ってそそくさと帰ると思ってたんだけど、今日はどうやら少し事情が違うらしく、顎を指で掴むようにしながら何かを考え始めている。


「ちなみに、ウィズナビも出ないから何時に帰ってくるかも分からないわよ。あたし達も夕飯お預けでずっと待ってるんだけど」


「料理ができない人が集まると、それはそれで悲惨ね」


「うっさいわね! どうせあんただって出来ないんでしょうが!」


「あら、心外ね。残念だけど、私は人並みには出来るつもりよ」


「口では何とでも言えるのよ。出来るとか言って、カップ麺とかサンドイッチとかなんでしょ」


「あなたの世界の常識に当てはめないでもらえるかしら。シルヴィには敵わないけれど、私も貴族の端くれなのよ? 料理くらいできて当然でしょう」


 そう言えばそうだった。普段からムカつく言動と態度が多いエルフォニアだけど、ネイヴァール家の長女だから子どもの頃からあれこれ仕込まれてそうな気がする。

 よく思い返せば食事のマナーとかしっかりしてるし、こっちの世界の貴族って嫁いだ先で家事をやることが多いって聞いたことがあるから、たぶんあたしなんかよりよっぽど家事スキルも高そうな気がしてきた。


 言い返せずにせめてもの反撃で睨むあたしを鼻で笑ったエルフォニアは、くるりとあたし達に背中を向けて言った。


「なら、ここに来ても意味は無いわね。事情が事情だったから落ち着ける場所で聞きたかったのだけれど、向こうで聞くことにするわ」


「はいはい、行ってらっしゃい。あ、そうだエルフォニア。もしシルヴィに会えたら、あとどれくらいで帰ってくるか聞いといてくれない?」


「えぇ、分かったわ」


 エルフォニアは小さく返事をよこすと、そのまま影に飲み込まれるように姿を消した。

 アイツの用事が何かは分からなかったけど、これでとりあえずシルヴィが何時に帰ってくるかは分かるわね。


 ティファニーと二階へ戻り、諸々を温めなおしていざ食べようとした時、あたしのウィズナビから着信を報せる子猫の鳴き声が上がった。

 間が悪いなぁと思いながらも手に取ると、さっそくエルフォニアからの着信のようだった。


「何エルフォニア、もう分かったの? 何時くらい?」


 ほかほかのご飯を前にお預けをくらって、ちょっと口が悪くなった気がするけど気にしない。

 それよりシルヴィよとアイツからの言葉を待っていると。


『レナ。悪いのだけれど、今すぐに全員連れてラヴィリスまで来て頂戴』


「はぁ? こんな夜遅いのに何で」


『シルヴィが魔術師に捕まってるわ』


「魔術……なんて?」


 あたしが予想もしなかった内容を告げてきたのだった。

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