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392話 異世界人の味覚は怪しい

 お昼ご飯をお店で食べてから帰るか、それとも家に帰ってから食べるか少し悩みましたが、家を出る前にレナさんが口にしていた「寝かせたカレー」の味が気になってしまい、寄り道せず家に帰ることにしました。

 人気のない路地裏で転移魔法を使って庭先へ移動すると、狼姿で寝そべってお日様の温かさを楽しんでいたエミリと、そのお腹に背中を預けて日光浴をしているティファニーがいました。


 二人を起こさないようにとこっそり中へ入ろうとしていましたが、私の魔力を察知したらしいティファニーがパチッと目を覚まし、数秒私を見つめた後に飛びついて来ました。


「お母様ー! おかえりなさませお母様!」


「ふふ、ただいま戻りました。いい子にしていましたか?」


「はい! スンスン、はぁ~……。一日ぶりのお母様の匂い、とても落ち着きます……」


 私、何か匂うのでしょうか……。と苦笑していると、元気なティファニーの声に目を覚ましたエミリが大きなあくびをしました。彼女は眠たげな瞳でこちらを見るも、私がいることに気が付くと人型に戻り、同じように飛びつきながら喜びを露にします。


「お姉ちゃんだー! おかえりお姉ちゃん! 早かったね?」


「ただいま戻りました。そうですね、予定では今日も学校へ顔を出すはずだったのですが、昨日全て終わらせることができたので、買い物だけして帰ってくることができました」


「そうなんだ! わたしの制服も買えた!?」


「はい。制服とカバン、必要とされている教材なども全部買ってきましたよ」


「わぁ~! 見せて見せて! 早く着たい!」


「お母様お母様! ティファニーも着たいです!」


「では、中で試着しましょうか。その前にお昼ご飯を食べてしまいたいのですが、二人はもう食べましたか?」


「はい! お母様が作ってくださったカレーという料理をいただきました!」


「ティファニーはいつも通りちょっとだけしか食べてなかったけど、みんなたくさん食べてたよ!」


「そうでしたか。まだ残っていたりしますか?」


「あるよ! お姉ちゃんも食べよう!」


「お母様、ティファニー達が準備して差し上げますね!」


 二人に手を引かれながら食堂へと向かい、台所に立とうとした私をエミリ達が無理やり席に座らせてきました。そのままいそいそと準備をしてくれる二人を見守っていると、机の上に飛び乗ったシリア様が笑いながら言います。


『くふふ! エミリとティファニーめ、お主がいなかった一日の手伝いの成果を披露したくて堪らんのじゃろうよ』


 ティファニーが率先して動き、エミリがその補佐をする形になっていますが、二人とも仲良く準備をしてくれていて微笑ましい気持ちになります。

 やがて、温めなおしたカレーとご飯がお皿に盛り付けられ、私達の前に運んできた二人は一緒に笑顔を咲かせながら言いました。


「お姉ちゃん、召し上がれ!」


「お母様、召し上がってくださいませ!」


「ありがとうございます二人とも。いただきます」


『うむ、いただくかの』


 シリア様と共にカレーを口に運ぶと、その味の変化に驚かされました。

 私が作った時は、もう少し刺激があって香りも高く感じられたのですが、今はそのどちらも落ち着いている代わりに、野菜などの天然の甘味がカレーに溶けているようで、味に深みが増しているように感じられます。


「なるほど……。これがレナさんの言っていた、“カレーは翌日以降の方が美味しい”という事なのですね」


『よもや、ここまで変わるとはな。異世界の料理には、ほんに驚かされる』


「レナちゃん凄いんだよお姉ちゃん! わたしも最初食べた時辛くて食べづらかったんだけど、レナちゃんがカレーにはちみつ入れたらすっごく食べやすくなったの!」


「ティファニーはカレースープとしていただいたのですが、同じく辛さを和らげてくださいました! レナ様もお料理が大変お上手なのです!」


 二人の言葉に、「いやー、あたし料理は苦手だからね?」と脳内のレナさんが照れながら否定します。

 レナさん自身も料理は苦手だと言っていましたが、こうした味の変化をできるくらいには心得はあるのでしょう。それに、この前メイナードがレナさんがキッチンで何かを作っている姿を見たと言っていましたし、もしかしたら練習中だからという建前なのかもしれません。


 どちらにせよ、私とシリア様以外で料理ができる方が増えるのはいいことです。そんなことを考えながらカレーを食べ進めていると、噂をすれば何とやらという言葉通りにご本人が食堂へと入ってきました。


「あれ、シルヴィじゃん! おかえり、だいぶ早かったのね」


「ただいま戻りました、レナさん。エミリ達のために味の調整をしてくださって、ありがとうございました」


「あー、全然気にしないで。あたしも小さい頃は辛いの苦手だったから、はちみつ入れたり牛乳入れたりと試行錯誤してたのよ」


『こ、これに牛乳を混ぜるのか!? 相変わらず異世界は奇妙な味覚を持っておるな……』


「いやいや、結構イケるんだって! シリアも騙されたと思ってやってみてよ!」


『やめよ!! 妾はこれで十分じゃ、シルヴィにせい!』


「な、何故私の方へ向けられるのですかシリア様!? 疑ったのはシリア様なのですから、ご自分で試してください!」


『何じゃと!? お主には先祖を敬う気持ちは無いのか!?』


「ありますが、それとこれとは話が違います! それに、そうした形で敬わなくていいと仰ったのはシリア様ではありませんか!」


「はーい、じゃあシリアねー」


『わ、妾のカレーがぁ!!』


 無情にもシリア様のカレーに牛乳が少量加えられてしまい、やや水っぽくなってしまいました。

 シリア様は非常に不服そうに食べ続けていましたが、レナさんからの問いかけは全て無視するほど気に入らなかったようです……。

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