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389話 魔女様は尾行される

 体力、魔力のテストを終えて、今日は終わりにしましょうかとイルザさんからの提案をいただけたのですが、ちょうど学園の方も終業の鐘が鳴ったようで、これから他の先生方も戻られるのでと顔合わせだけ行ってから帰ることになりました。

 とは言っても、お昼休みでシリア様の魔法について質問しに来ていた方々がほとんどであったため、そんなに時間も取らずにあっさりと終わってしまい、夕飯をどうしようかと考えながら私とシリア様は学園を後にしていました。


「今日はいただいたお屋敷の確認を兼ねて泊まりになるんですよね?」


『うむ。外部に罠が無かったことは確認しておるが、内部はまだ未調査であるゆえな』


「となると、恐らく家具とかもありませんよね。いっそのこと、中を確認したら亜空間収納の中で休んだ方がいいのでは」


『それも悪くはないのぅ。ひとまずは調査が先――む?』


 石畳が整備されている街中を歩いていると、シリア様がふと立ち止まって後ろを振り返りました。


「どうしましたか、シリア様?」


『シルヴィよ、どうやら妾達の後をつけておる者がおる』


「えぇ!? どうしてそんな」


『たわけ! 声を上げるでない! ……今のところ敵意は感じられぬが、警戒しておくに越したことは無いじゃろう』


「分かりました」


 シリア様に頷き、混雑している道を選んで歩き続けていると、確かに少し離れたところから何人かが私達の尾行をしているようにも感じられました。ですが、尾行をしているとは少し言い難いほど雑な隠れ方をしていて、ちらりと頭や服などが見え隠れしています。


「シリア様、もしかして学園の生徒なのでは無いのでしょうか。あの服の色、確か制服でしたよね?」


『そうじゃな。敵意が無いことからも、お主の美貌に惹かれた小僧共であろうよ』


「わ、私の美貌って……。私よりも、イルザさんや他の先生方の方が大人の魅力があるのではないでしょうか」


『阿呆、お主は妾の先祖返りぞ? お主の容姿の良さは誰よりも妾が知っておる。胸を張らんか』


「そんなこと言われましても、こうした経験は初めてで」


 狼狽えてしまう私に、シリア様が小さく嘆息し、体を入れ替わるよう求めてきました。

 大人しくシリア様と入れ替わると、シリア様は無言ですたすたと道を進み、路地の細道へと進路方向を変えます。ですが、そこは運悪く行き止まりとなってしまっていました。


『引き返しますか?』


「いや、これで良い。ちと持ち上げるぞ」


 私の体を抱き上げたシリア様は、路地の入口付近を踵で二度叩くと、早口で身体強化魔法を唱えて大きく跳躍しました。そして奥の塀の上に飛び乗ると、身を隠すように建物の影へと体を潜ませます。

 それから間もなくして、先ほどの男子生徒達が姿を現しましたが、私達がいないことに焦り始めました。


「あれ!? シルヴィ先生いなくなってるよ!?」


「嘘だろ!? ここ行き止まりだぜ!?」


「まさか、魔法でどこかに転移したのか?」


「クソッ、オレ達の完璧な尾行に気づかれたか!」


 あれで完璧だという自負があったのならば、もう少し練習をするべきではないでしょうか……。

 そんなことを考えながら内心で呆れていると、三人の内やや気弱そうな子が背後を振り返りながら驚きの声を上げました。


「うわ! 壁が生えてくるよ!?」


「んなっ!?」


 それはあっという間に入り口を塞ぐ壁となり、彼らは細い路地に閉じ込められる形となってしまいました。

 せり上がってきた壁を叩きながら脱出しようと試みる彼らを見ながら、シリア様が意地悪そうに笑います。


「くふふ! 見よ、お主という花に釣られた虫共が助けを求めておるぞ! 男という物はどの時代も単純で敵わんのぅ!」


『シリア様、そろそろ彼らを許してあげては……』


「何じゃ、つまらぬ……。お主にももう少し、こうした遊びは覚えてもらいたい物じゃな」


 ちょっぴり残念そうに口にしたシリア様はもう一度高く跳躍すると、今度は音もなく彼らの背後に着地して、杖を突きつけながら言いました。


「何か御用ですか、ハールマナ魔法学園の生徒さん?」


「「うわぁ!?」」


「ご、ごごごごごめんなさいぃぃ!!」


 突然現れたシリア様に、主犯格と思われる二人は腰を抜かしてしまい、やや弱気そうな子は頭を抱えながら謝罪を口にし始めています。

 そんな彼らに、シリア様はあくまでも私を演じながらさらに詰めていきます。


「私に興味を持っていただけたのは嬉しいですが、尾行とはいただけませんね。そんな悪さをする生徒さんには、少しお仕置きが必要でしょうか?」


「や、やれるものならやってみろ! オレのパパは、魔法庁の偉い人なんだぞ!?」


「そ、そうだそうだ! 先生なんか怖く……怖く……う、うわああああああ!?」


「手が、手が! 何だこれ!?」


 腰を抜かしていた男の子達の手先が、だんだんと可愛らしい豚の蹄に変わっていきました!

 顔面を蒼白とした彼らの悲鳴を聞きながら、シリア様は視線を合わせるようにしゃがみ込み、私でも少し恐怖を感じてしまうような笑顔を浮かべながら言います。


「生憎、私は政治が介入できない教会の人間ですので、そういった脅迫は意味がありません。さらに言えば、個人的にグランディア王家の国王陛下とも繋がりがあります。私を刺激して、大好きなお父様がクビになってもいいのですか?」


「た、助けて! やだやだ、豚になりたくない!!」


「ひいいいいい!? み、耳まで豚にいいいい!!」


 あくまでも謝罪を口にしようとしない彼らは、シリア様によってどんどん子豚へと変貌させられていきます。人の顔に可愛らしい豚の耳と鼻を付けられてしまい、それを触る手はピンク色の短いものになってしまっていて、少し滑稽な感じがしてしまいますが、泣き叫ぶ彼らからしたらとても笑えない状況でしょう。


 すると、唯一何もされていなかった男の子が、体を震わせながらシリア様に言いました。


「ご、ごめんなさいシルヴィ先生! ボク達、先生をもっと知りたくてついて来ちゃったんです! もうしないから許してください!!」


「わ、悪かった! オレも謝る! もうしませんから許してください!!」


「ごめんなさい!」


 それを皮切りに、シリア様を挑発するような発言をしていた男の子達も謝罪を口にし始めます。

 その謝罪を聞いたシリア様が、杖先で彼らの頭を軽く触れると、ポンッと気の抜けるような音と共に元の姿へと戻りました。


「次は本当に子豚にして、畜産業を営んでいる友人へ売ってしまいますからね」


 必死な形相で何度も頭を縦に振り続ける彼らを見ながら、恐らくミーシアさんのことなのでしょうと私は内心で苦笑してしまいました。

 シリア様は満足そうに頷くと立ち上がり、背後にあった壁を消しながら彼らに言います。


「女性の後をつけるなんて、男として一番やってはいけません。それに、権力を振りかざすにしてもそれはあなたのものでは無く、あなたのお父様が頑張って手に入れたものです。あなたはまだ、魔法使いにも慣れていない子どもなのですから、今後はそういう発言はしないように」


「わ、分かった……分かりました」


「あなた達も、友達は良く選ぶようにしてくださいね。悪いことをして楽しむのは勝手ですが、その後苦しむのは自分ですからね」


「「はい……」」


「では、今日あなた達がしたことは見なかったことにしてあげます。気を付けて帰ってください」


 彼らは顔を見合わせ、気まずそうにシリア様に頭を下げると、とぼとぼと帰路についていきました。

 その後ろ姿を見届けながら、シリア様が独り言のように言います。


「あ奴らのように、貴族間では親の威光にすがる子どもが多いのもまた事実じゃ。その性根を叩きなおすのも、先を生きる者としての責務じゃよ」


『覚えておきます』


「まぁ、後ろ盾が強いという点においては、妾やお主に敵う者なぞおらんがのぅ! くふふ!」


 確かに、人間領の王様や魔族領の魔王、そして各地の領主と繋がりがあるという時点で、人脈としてはこれ以上ないほどだと思います。

 先ほどのような発言に対しても強く出られるということに感謝しつつ、私も教師役として見下されないよう頑張ることにしましょう。

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