386話 ご先祖様は誇示する
シリア様の挑発とも取れる発言に対し、イルザさんは即座に許可を出してしまい、昼食を食べ終えた私達は早速魔法を披露するために校庭へと移動することになりました。
生徒が練習用に使っているという、木製の熊の模型を用意していただいたシリア様は、いつもの魔女服ではなくプリーストとしてのやや華美な修道服に着替えています。
先ほどの生徒達以外にも見学者はかなり増えていて、生徒の外にも先生方までもが校庭に集合しているため、失敗は許されないプレッシャーが掛かる状況なのですが。
「では、何からお見せしましょうか? リクエストのある方はいらっしゃいますか?」
シリア様は平然とされていて、見学者の皆さんにそう尋ねます。
そこへ、先ほどの生徒の一人が手を上げてリクエストを行いました。
「じゃあ雷属性の上級魔法、ライトニング・ストームが見たいです!」
私とシリア様は、一瞬何を言っているのかが分からないという表情を同時に浮かべてしまいました。
記憶違いでなければ、ライトニング・ストームは雷属性の中級魔法であったはずですが……と困惑する私へ、シリア様からの念話が頭の中に聞こえてきました。
『シルヴィよ、これは思った以上に質を下げられておる。恐らくじゃが、本当の上級魔法の存在すら伏せられておるのじゃろう』
『なるほど、そういう事ですか。では、彼らに上級ではなく中級であることを教えてあげた方がいいのではないでしょうか』
『そうじゃな……。よし、良いことを思いついた。妾に任せて見ておるが良い』
「ライトニング・ストームですね、分かりました」
シリア様は杖を構えなおし、雷属性の魔力を高めながら詠唱を開始します。
「荒れよ雷、猛よ嵐。此処に下すは雷神の怒りなり」
その詠唱に呼応するかのように、晴天だった空は突如として曇天に覆われていきます。
やがて、空はシリア様が作り出した雲によって完全に覆われてしまい、光も通さない暗闇を生み出しました。
「――落ちよ! ライトニング・ストームッ!!」
詠唱を完成させ、シリア様が杖を振りかざした瞬間。
天をも裂くかのような轟音と共に、眩い無数の稲妻が校庭に降り注ぎ始めました!
轟音に混じって悲鳴が聞こえたような気もしますが、途轍もない雷の嵐にかき消されています。
実体を取っていなくて良かったかもしれません、と耳を塞ぎながら様子を見守っていること十秒弱。音と光が止んだ頃には、校庭には雷によって無数に抉られた無残な跡が残り、熊の模型は最初から無かったかのように消し飛ばされてしまっていました。
私も含め、桁違いの威力に呆然としてしまっている見学者へと振り返ったシリア様は。
「……中級だとこれくらいでしょうか。良ければ、上級もお見せしましょうか?」
そう声を掛けるも、全員がもういいですと言わんばかりに、必死に首を横に振り続けているのでした。
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シリア様が後始末にと校庭を復元していると、その光景を見ていた生徒や先生方から、どこで魔法を学んだのかを始めとした質問攻めに遭ってしまいました。途中までは丁寧に私を真似て答えていらっしゃったのですが、徐々に面倒になってきてしまった様子を悟ったイルザさんの手によってその場は解散となり、私達は再度学園の探索に戻れました。
職員室と呼ばれる先生方の事務作業用の部屋に通され、私の席を紹介してもらっていると、先ほどの光景を思い出したらしいイルザさんが小さく笑い始めました。
「それにしても、流石は【魔の女神】様ですね。中級のライトニング・ストームであの威力ともなれば、上級なんて新しいダムができてしまいそうですね」
『妾の代なら、あれくらい造作もなかったんじゃがのぅ……。じゃが、妾の専門は雷ではないが故に、流石にダムを作れるほどの大穴は空けられんじゃろうな』
「あら、そうなのですか? ではシリア様の適正とは一体?」
『妾の最適正は土属性じゃ。創造、復元、地形変化などの補助を得意とするが故に、戦闘に用いるにはちと頼りない属性なのじゃよ』
「それで他属性も使えるようにして、万能型にされたのですね~」
『うむ。適正を持たぬ者であっても、鍛錬の仕方次第ではあのような魔法を放てるようになる。それをあ奴らに見せるためにも派手にやったのじゃが、恐らくは分かっておらんのじゃろうなぁ』
「流石に規模が違い過ぎますからね~。それに、シルヴィ先生として紹介していますので、希少な光属性なら使えるようになると誤解されてしまっているかもしれませんね」
『まぁ仕方あるまいて。あとは授業を通して学べばよいことじゃしの』
「えぇ、期待させていただきます。ではシルヴィ先生、来週からはこの席を自由に使ってください」
「ありがとうございます」
「さてさて~。あとはちょっとした実技テストをやって今日はおしまいですね。魔女であるシルヴィ先生には不要かもしれませんが、一応そういう決まりですので」
イルザさんはそう言うと、私達を職員室から連れ出して再び移動を始めました。
実技テストが行われると言う場所は、生徒達の体力作りのカリキュラムである科目で使用する、体育館と呼ばれる広い空間でした。
「はい、到着です! では、まずは動きやすい服装に着替えていただけますか?」
「ええと、普段の服装とかでも大丈夫なのでしょうか」
「大丈夫ですよ~」
許可をいただき、いつもの魔女服に着替えると、イルザさんは私をまじまじと観察し始めました。
「ふむふむ、それが【慈愛の魔女】としてのシルヴィ先生の勝負服なのですね~。とても可愛らしくていいですね!」
「ありがとうございます」
「ですが、もしかしたらローブが邪魔になってしまうかもしれませんね。テスト中に邪魔だと思ったら、脱いで大丈夫ですからね」
「はい……あの、これからどのようなテストを行うのでしょうか」
「難しいものじゃありませんよ~。はい、こちらを見ていただけますか?」
イルザさんの指が鳴ると同時に、私の前に何かの記録用紙とペン、そして下敷きとなっているクリップボードが現れました。それを手に取って目を通してみると、教師服姿のバストアップ写真が貼られている隣に、私の身長から体重を始めとした体のステータスが記されています。
「こ、これ! どこで仕入れてきたのですか!?」
「ふふっ、私は記憶を読めると言ったはずですよシルヴィ先生?」
口元に指を添えながら、いたずらっ子のように微笑むイルザさん。
自分のプライベート情報が筒抜けになってしまっていることに赤面していると、話を切り替えるように彼女は手を叩き。
「さて! ではまずは、身体能力のテストから始めましょうか! 持久走からいってみましょう!」
体力のない私が最も苦手とする、持久力のテストを行い始めるのでした。




