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384話 ご先祖様は燃え上がる

 私達の記憶を読んだと口にした教頭先生――いえ、エルフ族のイルザさんから頼まれた内容が理解できず、シリア様と顔を見合わせてしまいます。


『貴様、イルザと言ったか? 人に物を頼むにしても、順序という物があろう』


「それもそうですね、失礼いたしました」


 イルザさんは私から手を離したかと思うと、指をパチンと鳴らし、再びシリア様と場所を入れ替えます。

 そしてお茶を一口啜り、小さく息を吐いてから語り始めました。


「まずは、現在のハールマナ魔法学園の立ち位置についてお話ししましょうか。当校はラヴィリスの中でも随一の規模を誇る学園であり、例年数多くの有望な魔法使いを輩出し続けていました。ですが、ここ十四年ほどの間で学園の方針が変わってしまったため、かつてのような優秀な魔法使いを育成することができなくなっているのです」


 十四年。その単語に、ふとこれまで見聞きした情報が脳裏をよぎります。

 旧王家……つまり、私の本当の両親が王政を敷いていた頃に、【夢幻の女神】ソラリア様による襲撃が行われたのが、今から約十四年ほど前でした。

 そして、この学園に起きた変化も十四年ほど前からという事は、恐らく偶然ではないのでしょう。


『十四年か。となると、魔術師絡みの可能性が高いのぅ』


「私もそう思います」


「魔術師、とは?」


 きょとんと首を傾げるイルザさんに、逆に私達が困惑してしまいました。


「ええと、錬金術から派生したという分野で、魔法とは似て異なる力を使う方々のことなのですが」


『魔術がどうとかはどうでも良い。何故、記憶を読めるお主がその存在を知らんのじゃ。概ね、この学園の何処かにしれっと紛れ込んでおるのじゃろう?』


「イルザさんがこの学園の関係者の記憶を読んだ時、何か怪しい人はいませんでしたか? 魔術がどうとか、新世界がどうとか、そんな単語が見えた人がいれば私達としても探しやすいのですが……」


「魔術、新世界……。ごめんなさい、そういった単語を記憶している人はいなかったような気がします」


『そうか。となると、妾達で一から探していくしか無さそうじゃの』


「そうですね。せめてヒントがあれば探しやすかったのですが、魔術師の方もここを支配して魔法使いの戦力を削いでいると考えると、そう簡単にはいきませんよね」


『仮定ではあるが、エミリ達に変な教育を施されぬよう気を付けねばならんな』


 シリア様の言葉に、私は深く同意しました。

 何も知らないエミリとティファニーを入学させてしまったという罪悪感に苛まれてしまいますが、今はそれよりも今後の動きについて確認しなくてはなりません。


「とりあえず、この学園の魔法使い育成の妨げとなっている方針があるというお話ですが、それを教えていただけますか?」


「はい。変更された方針としては、“自身の許容範囲以上の魔法の行使は、体に大きな負荷を掛けるため、生徒には適度な範囲でのみ行使させること”と、“適正外の魔法の習得は、適正魔法の成熟を妨げるため、希望した生徒以外には教授しないこと”です。昔は正反対だったのですが……」


『なるほどのぅ。それならば確かに、従来の己の魔力量内でしか魔法を扱うことができず、一点特化の質の悪い魔法使いが量産される訳じゃ』


 以前シリア様より教わった時は、日々自身の魔力量の限界まで使い続けることで、魔力保有量が少しずつ増えていくという内容だったと思います。そのため、私はリソースの強化訓練も兼ねて、常時シリア様の猫の体への魔力供給を続けていた訳ですが、この学園の新しい方針にはそぐわないようです。

 適正についてはそこまで教わったことはありませんでしたが、レナさんのように一種類だけしか扱えないと言うようなタイプの方は、そのまま適正属性を伸ばせばいいと聞いたことがあります。ただ、最終的にはどの属性もある程度使えることが望ましいとも聞いた覚えがありました。


『して、それを持ち込んだのは誰じゃ?』


「今の学園長先生になります。彼が就任してから、体に負担を掛けない魔法の行使を重視するようになりましたので」


『となれば、決まりじゃな』


「はい。恐らくは、学園長先生が魔術師と繋がっている可能性が高いと思います。イルザさん、学園長先生に直接お話を伺わせていただきたいのですが、取り次いでいただくことはできますか?」


 イルザさんは小さく首を振り、答えました。


「それが、学園長先生が私達と直接話をする時は、新入生の面談の時か、学園長先生から声を掛けられた時くらいでして」


『む? 妾がエミリ達から聞いた話では、お主は学園長とやらとは親しげであったようにも聞こえたが違うのか?』


「親しいかどうかは何とも言えませんが、あくまでも私は教頭という立場にあるため、彼と話をする機会が他の先生方よりはあるというだけです。ですので、個人的な繋がりとかは無いのです」


『そうか……ならばどうしたものか』


「新入生の面談のタイミングはもう終わってしまっていますし、直接声を掛けられることを期待するしか無さそうですが、臨時教師という立場の私達にそんな機会はあるのでしょうか」


 私の懸念に、イルザさんは表情を明るいものに切り替え、手を叩きながら言いました。


「それが一つだけあるのです! そのためにも、魔女である貴女達にお願いしたいのです!」


「な、何でしょうか?」


「お二人には、うちの生徒達や教師達から注目を集めていただきたいのです。そうすれば、臨時教師ではなく正規教師として雇われないかと声がかかるはずです!」


 イルザさんの言葉の意味がイマイチ理解できずにいる私に代わり、シリア様が質問してくださいました。


『それはつまるところ、妾達に方針を破ってでも生徒連中の質を上げろと言いたいのか?』


「言い換えればそうなります。ですが、魔女としての知識を振るっていただければ、方針が間違いだったと気づいていただけると思うのです!」


『それは構わんが、方針に背くと言うことは異分子として排除されるが常だと思うのじゃが』


「そこはお任せください。私が人事担当の教頭ですので!」


 イルザさんは力こぶを見せつけるように腕を持ち上げ、どこか得意そうな表情を浮かべながら瞳を輝かせています。

 ええと、つまり私達はこの学園で教師としての評判を高めて、学園長先生に謁見する流れを作ればいいと言う事でしょうか。


『……まぁ、現状これ以外の手段も無い訳じゃし、ちと遠回りではあるがやってみるかの。対生徒ならば妾の知識が、対教員間ならばシルヴィの愛想の良さが役に立つであろうよ』


「分かりました。私も、評判を高められるよう努力します」


「お二人とも、ありがとうございます! これが上手くいけば、廃校の話を取り下げていただけます!」


『廃校じゃと? ハールマナはそこまで追い詰められておったのか』


 シリア様の言葉に、イルザさんは力なく笑いながら返しました。


「十四年近くも生徒の質が落ちているともなれば、学園の教育のレベルが下がっていると判断されてしまうのも無理はありませんから。それに、受験する生徒の数も年々減っていってましたので」


『今年は一般枠も含めて何人ほどだったのじゃ?』


「今年は……約八十名ほどですね」


 それを聞いたシリア様が、ソファの背もたれに体を預けながら目を覆いました。

 恐らくシリア様が在学中の記憶と照らし合わせていらっしゃるのだとは思いますが、そんなにも減ってしまっていたのでしょうか。


『妾の頃の十分の一以下じゃと? それは末期じゃろうて……』


「当時はそんなにいらっしゃったのですか?」


『当時は入学するにも競争倍率がありえんほど高くてな。千人受験して百人受かればいいと言うほどの狭き門であった。中には、来年の再受験に備えて特訓をする者もいたが故に、年々母数が増え続けておったのじゃよ』


「そう聞くと、よほど今の学園の評判が悪くなってしまっているのですね」


『うむ。いや、よもやここまで地に堕ちておるとは思わなんだ。あり得ぬ、我が母校じゃぞ? 貴族社会の入門口とも言われた誉れ高きハールマナが……』


 よほどショックだったようで、小声でそう嘆き続けていたシリア様でしたが、唐突に体を起こして私の体の主導権を奪ったかと思うと、勢いよく立ち上がりながら宣言しました。


「良かろう! 妾がこの学園の失墜した評判を取り戻してやる! ついでに魔術師も炙り出して排除してやろうぞ!」


「頼もしいですシリア様!!」


「イルザよ、お主には妾の後始末を全て丸投げさせてもらうぞ。その代わり、妾が生徒共のレベルを十段階以上引き上げてやろう! 共に異郷にも名高いハールマナの栄光を取り戻すぞ!!」


「おー!!」


 イルザさんまで立ち上がり、シリア様と同じように天高く拳を突き上げてしまっています。

 やる気に満ち溢れているお二人を見ながら、私は苦笑を浮かべるしかできませんでした。

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