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381話 女神様には無理がある

今日で「幽閉王女は魔女になる」を投稿し始めて1周年を迎えました!

いつも沢山の方々に支えていただけて幸せ者です…!


今後ともよろしくお願いします!

 エミリ達がそわそわとしながら入学式を待ち望んでいるのを、微笑ましく見ていただけであっという間に二日が過ぎてしまいました。

 今日は私がハールマナ魔法学園へ行き、非常勤講師として配属される前の事前顔合わせの日です。

 予定では、午前中に顔合わせとなる面談を行い、その日を丸々使って学園内の案内と簡単な実技テスト。その翌日に他の職員の方と顔合わせを行って、午後にエミリ達の必要な道具を買い揃えて帰るという流れになっているため、私は約二日ほど家を空けてしまうことになります。


「すみませんレナさん、エミリ達をよろしくお願いします」


「こっちは大丈夫、気を付けて行くのよ」


 少しバタバタとしつつも、不在にする間の食材を始めとした確認をしながら、レナさんにご飯の準備などを伝えておきます。


「お昼はレナさんの世界の料理を作ってありますので、それを温めて食べてください。お米も炊いてありますので、それと一緒にどうぞ」


「いつもありがとうシルヴィ。って、もしかしてこの匂い……カレー!?」


 流石はレナさんです。

 日持ちができて、量を作れるものをと思い採用した“カレーライス”と呼ばれる料理に挑戦してみたのですが、香りに馴染みがあるせいか、すぐに中身を察してくださいました。

 彼女は大鍋の蓋を外して肺いっぱいに香りを吸い込むと、幸せそうに顔を蕩けさせました。


「まさかカレーをもう一度食べられる日が来るなんて……。万歳国民食、一年ぶりのご対面だわ」


「国民食と言うことは、レナさんの世界では毎食出るようなものだったのですか?」


「毎食って訳ではないけど、多い家庭では週に一回、少なくても月に一回は出るくらい馴染みのある料理よ。酷いとこなんて、三日間ずっとカレーとかもあるくらい愛されてたわ」


「三日間毎食これですか……。それはそれで飽きそうな気もしますが」


 私の懸念に、レナさんはちっちっちと言いながら指を振ります。


「それがね、何故かは分からないけど飽きないのよ。作った日が美味しいのは当然なんだけど、食べきれなくて翌日また食べようと思って保存しておくじゃない? そうすると、二日目はまた違った味になるの。味に深みが出るって言えばいいかしら」


「味付けが変わってしまうとなると、料理が痛んでしまっているのでは?」


「まぁ傷んでるのかもしれないけど、これがまた美味しいのよねー。食べきれなかったら残しておくから、帰ってきたら食べてみてよ。ホントに変わってるから」


「分かりました。ところで、シリア様を見かけませんでしたか?」


「あー、シリアならさっき酒蔵にいたわよ。不在の間のお酒の仕込みでもしてるんじゃない?」


 その可能性は高そうです。

 レナさんにお礼を言い、一階へと降りて酒蔵を覗き込むと、シリア様はお酒造りの真っ最中であったようで、私よりも大きな酒樽の上に乗って味見をしていました。


「こちらにいらっしゃいましたか、シリア様」


『おぉ、シルヴィか。出発まであと十分はあったじゃろう? その間に仕込みを済ませるが故、少し待っておれ』


「分かりました。では、時間になったらまた顔を出しますね」


『すまんな』


 お忙しそうなシリア様に小さく頭を下げてその場を離れ、私も私で急いで準備を進めます。

 亜空間収納に入り、自室に入れておいた着替えを改めて確認すると、私が学園で着用する予定だった服がないことに気が付きました。


 シリア様が私と代わって教鞭を振るってくださるときのあの服、どこにしまいましたっけ……。と、少し焦る気持ちを抑えながら探し続けていると。


「あ、見て見てシルヴィちゃん! どうどう? 私も先生っぽく見えない~?」


「何で私の服を着ているのですかフローリア様!? 早く脱いでください! 服がダメになってしまいます!」


「やぁん! シルヴィちゃんったら大胆……。そんなに乱暴にされたら私、ドキドキしてきちゃう♪」


「変なことを仰ってないで、早く着替えてください! って、あぁ!? やっぱりボタンがいくつか無くなってしまっているではありませんか!」


「ん~? あぁ! そうなの、シルヴィちゃんサイズだったけど着れるかな~って思って頑張ったんだけどね? 胸とかお尻が入らなくてパツーン! って!」


「無理だと分かっていたのに着たのですか!? もう、どうしましょう……!?」


 何とか取り返した服ですが、暴力的な胸やお尻のサイズに耐えきれなかったことで、無残にも生地は割け、ボタンは弾け飛ばされてしまっていました。

 今から縫って修繕するにも時間が足りず、途方に暮れてしまいそうになっていると、犯人であるフローリア様が申し訳なさそうな声を出しながら提案してきました。


「ご、ごめんねシルヴィちゃん! 代わりと言ってはアレだけど、この前異世界に遊びに行った時に買ってきた服をあげるから、それでどうかしら? ほら、これなんだけどね?」


「物にもよりますが……」


 こう言っては大変失礼に当たることは承知の上ですが、フローリア様は時々変な服を持ってくるので、素直に期待すると後悔してしまうことがあります。

 今回も恐らくはその類いでしょう、と期待せず振り向くと。


「どうどう? シルヴィちゃんに似合うかな~って思って買っておいたの!」


「すみませんフローリア様。期待してはいけないと思ってしまった私を、どうか許してください」


「えぇ!? いきなり何の話!?」


 彼女が手に持っていたものは、とてもシンプルで私好みの一着でした。

 やや胸元が広めにデザインされているタイトなワンピースではありますが、それを隠すように私が愛用しているローブのような上着がセットになっているようで、黒のワンピースに白い上着と、派手過ぎない落ち着いた色合いになっています。

 そして短いスカート丈をカバーするようにと、やや薄めの黒タイツまで完備されているようで、私が着る予定だったものよりも大人っぽさを感じさせる一着です。


「こんな素敵な物を、いただいてしまっていいのでしょうか?」


「もちろん! シルヴィちゃんのお洋服を壊しちゃったのは私だからね。だからこれで許してほしいなぁ~」


「……分かりました。では、こちらで代用させていただきます」


「やったぁ! ありがとシルヴィちゃん! 今度着てるところを見せてね!」


 フローリア様はそう言うと、私の頬にキスをして跳ねるように亜空間収納から出て行ってしまいます。

 そんな彼女に苦笑しつつ、私はいただいた服も含めて、改めて荷物の確認を進めることにしました。

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