14話 女神様はおねだり上手
レナが住んでいた異世界に遊びに行ったフローリア。
彼女はそこで、とある人物に出会って色々買ってもらって帰ってきます。
その人物はレナでも驚くとんでもない人物だったらしく……。
今日は2章完結前なので、まとめて2話更新します!
フローリア様が異世界へ向かわれてから、約二時間ほど。
お昼ご飯の支度をしていた私達の下へ、ご機嫌な声で帰還を告げるフローリア様が現れました。
「たっだいま~! 見て見て、地球で色々買ってもらっちゃった♪」
『む、戻ったか――ってなんじゃお主のその恰好は!! 破廉恥が過ぎるぞ!』
シリア様がお怒りなのは少し理解できてしまいました。
あれは果たして服なのでしょうか。豊満な胸元は白い布地が巻かれているだけのようにも見え、肩紐などもないので服として機能しているか怪しくなります。一応ジャンバーはあるようですが、袖を通しただけで着てはいませんでした。
そしてくびれた腰を強調するようにお腹周りには何も纏っておらず、異常に短すぎるショートパンツが下半身のスタイルも目立たせていました。しかもそれは裾が破かれたかのように繊維が散り散になっています。異世界で戦闘になるようなことがあったのでしょうか。
色付きの眼鏡の位置を調整しながら「どうどう?」と感想を求めるフローリア様に、レナさんが応じます。
「フローリアみたいなスタイル抜群な人が着るチューブトップとホットパンツは、最早凶器よね……。どうしたのそれ?」
「うふふ! 街を散策してたらセキユオーって人に声掛けられちゃってね? 一緒にご飯食べてくれたら何でも買ってあげるって言われたから、色々貢いで貰っちゃった♪」
「はぁ!? 石油王がいたの!? いいなぁあたしも会いたかったぁぁぁ!! 石油王と結婚したい人生だったわ……」
「でもお金持ってるようには見えなかったんだけどね~。肌黒くてヒゲのおじさんだったし、お金じゃなくて黒いカードでお会計してたし。よく分からないわねあっちのお買い物って」
「それはめちゃめちゃお金持ってる人だけが使える、超特別なカードなのよフローリア……」
「あら、そうなの? まぁでもたっくさん買ってもらったから見て~!」
ご機嫌なフローリア様とは対照に、心底落胆している様子のレナさん。どうやらセキユオーという方は、とても優しい方のようです。やはり女神さまは幸運の持ち主なのでしょう。
フローリア様は両腕にたくさん下げていた紙袋を床に置くと、中身をテーブルに並べ始めました。
文字は読めませんが料理の絵が描かれた本が数冊、白い粒々が沢山詰まっている大きな袋が二つ、色とりどりのお洒落な箱が沢山、そして服が沢山詰められている紙袋が三つ。そして、目的のものと思われる黄金色の植物の束。これらを全て買ってもらったのでしょうか。
「うっそ、これ老舗の有名芋羊羹じゃん! こっちは人形焼きでしょ? こっちはどら焼きの詰め合わせ! フローリア、グッジョブ!!」
「えへへ~。ぐっじょぶ!」
親指をぐっと立てて楽し気なお二人です。ぐっじょぶ、というのが異世界の褒め言葉なのでしょうか。
シリア様とエミリも、箱を開けては色彩豊かなお菓子の数々に瞳を輝かせています。
「見て見てお姉ちゃん! うさぎのお菓子!」
『ほぉ~……これはよい匂いじゃな。ほんのりと甘く、くどさのない香りじゃ』
「これなんて、とても可愛らしいですね。苺を丸々包んだお菓子なのでしょうか?」
「私はね~、これが美味しかったの! このぺらんとしたお菓子!」
「八〇橋ね。あたしの国の有名な和菓子よ」
「これ沢山買ってもらったんだけどね~? 帰ってくる時に大神様に見つかっちゃって、半分持ってかれちゃった」
『やれやれ、やはり怒られておったか。しかし、菓子で見逃してくださったとは、大神様にしては優しいのぅ?』
「そこは私も頑張って交渉したのよ! 「レナちゃんが故郷の味を食べられなくて泣いてるんです、食べさせてあげたかったんです」って泣き落とし作戦で!」
すみません大神様。半分は本当なんです、許してあげてください……。
シリア様とレナさんが揃って溜め息を吐いています。どうやら、二人も同じことを考えていたようでした。
「大神様は厳しいけど優しい人だからさ、本気であたしが故郷恋しさで泣いてるんだと思っちゃったのよねきっと……」
『う、うーむ……。やはりフローリアの身勝手で世界渡りをさせられたレナの身を案じておられるんじゃろうか』
「ええと。よく分からないのですが、普段だったら許していただけない事なのでしょうか?」
シリア様は『当然じゃ』と頷き、私にも分かるように話してくださいました。
『そもそも、お主達が生きているこの世界とレナがいた世界では、恐らくじゃが文明や技術のレベルが大きく異なっておる。カガクという未知の技術で発展した世界のものを、魔法で発展したこの世界に持ち込んでみよ。内容によっては世界の常識が覆るぞ?』
「そう言われてみるとそうよねー。天界から降りる時も大神様に“異世界の人間であると安易に言わないように”って口酸っぱく言われたし、普通は認めてくれないわよね」
『うむ。故に、レナの存在は大神様からしても軽視したくないのじゃろうよ。ある意味、異世界からの客人でもある訳じゃからな。それを知っておきながら、このボンクラ女神は……』
冷ややかな視線を受けていることも知らず、フローリア様は未だ異世界の興奮が冷めない様子でした。
「いやぁ~、やっぱりあっちの世界は新鮮で楽しいわね! 今度大神様からお許しが出たら、またセキユオーさんに会いに行かなきゃね!」
『もう勝手に行って大神様を困らせるでないぞ。ともあれ、これらはおやつとするかの。まずはシルヴィの飯が先じゃ』
「あ、はい! もう出来上がってますのですぐにお持ちしますね」
おやつの楽しみとして、一度私の部屋で保管することになり、私達は昼食を食べながらもおやつの話で話題が持ちきりになるのでした。




