3話 ご先祖様は希望を授ける
「先祖返り……?」
初めて聞く単語に小首を傾げてしまうと、シリア様は『そうじゃな』と単語の意味を教えてくださいました。
『先祖返りとは、何代も前の先祖が有していた見た目であったり、才能などが世代を超えて現れる現象のことじゃ。故に、王家にはない特徴を持ったお主は、忌み子として間引かれる形となっておったのじゃよ』
シリア様は言葉を切り、呆れたように溜め息を吐きながら付け足します。
『まぁ、当の現王家はそんなことも分からぬようであるし、無理も無いとは思うがのぅ』
「ま、待ってください! それではシリア様が私に似せているのではなく、私がシリア様に似ている。と言うことなのでしょうか?」
『うむ。お主のその姿は、やや足りぬ部分もあるが当時の妾の姿によく似ておるよ。故に妾の魔法適性も、多少は異なるもののしっかりと継いでいるようにも見えるしの』
足りない部分として胸をアピールされました。人並みくらいにはあるとは思っていましたが、確かに文献に載っているシリア様の姿は非常に豊満なお体でしたので、何も言うことが出来ません。
ですが、どこか納得できる部分もありました。過去に読んだ王家の歴史では、魔法の才を持って生まれる子が少なく、武術へと向かう者が多かったらしいのですが、ほぼ独学で学んでいた私は魔法の扱いで困ったことが一切ありませんでした。
そしてそれと同時に、私の生まれてきた意味も理解してしまいました。
『ふむ、今の説明で腑に落ちたようじゃの』
「はい。シリア様のお力を継承しているとのお話で、独学なのになぜこうも魔法への理解が高いのだろうと、疑問に感じていたところが解決しました」
私は両腕を広げ、シリア様を迎え入れる準備をして言葉を続けます。
「――どうぞ、シリア様。ご自由にこの体をお使いください。今日この日のために、私は魔法の技術を磨き続けていたのだと思います」
『…………何?』
「いえ、ですから私の体を依り代としてご活動いただければと」
『……突然何を言いだすかと思えば、お主はほんに人としてどうかしておるな。このたわけが』
「ぁいたっ!?」
私のお腹を、猫に戻ったシリア様による猫キックが襲いました。小柄な分、一点に力が集中しているせいか凄く痛いです……。
『よいか? 妾はもうとっくに人として役割を終えておる。今更人の世に戻ったところで、逆に何をしろと言うのじゃ』
「で、ですが、私がシリア様の先祖返りとして同じ体を得たのは、そういうことでは――」
『阿呆。それは妾がしたことでもなければ、望んだものでもない。世の管理者たる大神様が必要だから決めたのじゃろうよ』
「は、はぁ……」
『お主はお主として自由に生きれば良い。妾の能力を受け継いだ意図は読めぬが、お主の運命に必要なのじゃろうし、その時にお主が思うままに使うと良い』
自由、ですか。自由のないこの狭い世界で、私がシリア様の力を必要とする時は来るのでしょうか。
私が表情を曇らせた途端、シリア様が気まずそうに頬をかきながら言葉を付け足しました。
『まぁ、お主がこうして不自由な生活を強いられているのは、妾にも一因があるしの。好きに生きろと言うても、そもそもの自由がないのもどうかとは思っておる』
シリア様は私をまっすぐに見据えると。
『そこでじゃ、シルヴィよ。お主、外の世界で自由に生きたいとは思わんか?』
そう、問いかけてきました。
「外の世界、ですか?」
『うむ。お主が望むのであれば、妾はお主を外の世界へ連れ出してやろう。久々の現世でもあるし、妾の観光がてらにお主の人生を支援してやっても良い。どうじゃ?』
外の世界に出られる。
それは、私が願って止まないものでした。
できるのであれば、今すぐにでも抜け出して、広い世界の中で自由に走り回りたいです。
そして、外の世界の美味しい物をいっぱい食べて、お洒落も楽しんで、たくさんの人と仲良くなって、素敵な恋愛もして……。
いつかは、素敵な人と幸せな家庭を築きたいです。
「私に、そんなことが許されるのでしょうか……」
『何を気に病んでおる。お主自身、何一つ悪さはしておらん。生まれ持った体質で、王家が勝手に判断して間引かれ幽閉されただけじゃろうに。お主は十分に不自由を味わった。これからはお主の好きなように生きれば良い。違うか?』
猫の顔なのに人の優しささえ感じられるシリア様の表情に、私は涙が溢れ出してしまいました。
「はいっ、はい……! できるのであれば、自由に生きたいです! もうこんな、狭い世界は嫌……!!」
『そうじゃろう。ならば妾が、お主の生誕祝いに自由と言う名の翼をやろう。お主はもう、鳥籠の雛ではない。これからは、共に広い世界を楽しもうぞ』
「シリア様……うっ、うぁああああああ……!!」
『十六歳の誕生日おめでとう、シルヴィ。今までよく頑張ったな』
神祖であるシリア様を抱きあげ、子どものように泣きじゃくるという痴態をシリア様は受け入れてくださり、私が落ち着くまで優しく撫で続けてくださっていました。