380話 義妹達は報告する
私達の住む森に、各所から遊びに来る人が増え始めた結果、真っ先に悲鳴を上げることになったのはペルラさん達の酒場でした。
美味しいお酒とご飯、そして可愛らしい彼女達がステージの上で歌って踊る姿を楽しみたいと押し寄せる人は非常に多く、街からの転移像を使って遊びに来た人達で出来た列が、ここ数日途切れたことがありません。
その関係でシリア様のお酒も飛ぶように売れ続けており、今までは三日に一度補充しに行けば事足りていたものが、多い日には日で二度の頻度に上がってしまっているのですが、シリア様は『妾の趣味が楽しめぬ!』とやや不服そうにしながらも、どこか楽しそうにしていらっしゃいました。
そんな大盛況な酒場への補充を終えて、庭先に戻ってきた私達は、感じ慣れた魔力の波長を察知しました。
『む。どうやらエルフォニアらが戻ってきたようじゃな』
「そうみたいですね。無事合格できているのでしょうか」
『エミリは魔力の扱いこそ初心者そのものじゃが、試験を超える程度ならば造作も無かろうて。ティファニーの方は未知数ではあるが、お主の魔力から生まれたのじゃから案ずることも無かろう』
「私の魔力のせいで、何か騒ぎになってしまっていなければいいのですが……」
そんな話をしながら庭先を注視していると、エルフォニアさん独特の影による転移魔法が出現し、影で出来た球体の中から三人が姿を見せました。
「おかえりなさいエミリ、ティファニー。エルフォニアさんも、付き添ってくださってありがとうございました」
「えぇ、戻ったわ」
『して、試験の結果はどうであった?』
シリア様の問いかけに、エミリとティファニーが私に抱き着きながら答えました。
「わたし達頑張ったよお姉ちゃん! 合格だって!」
「本当ですか? では、今日はお祝いのご飯にしましょうか! お肉料理をいっぱい作りますね!」
「お母様お母様! 見てください! ハールマナ魔法学園の校章です!」
「わぁ、とても綺麗ですね! 失くしてしまわないように気を付けてくださいね?」
『くふふ! ほれ、何も案ずる必要なは無かったであろう?』
シリア様に笑われ、嬉しそうな二人を撫でながら杞憂であったことに安堵していると、その様子を離れて見ていたエルフォニアさんが言いました。
「それじゃあ、私はこれで帰るわ。学園から必要な道具とかが記された本を貰っているみたいだから、来週までに買い揃えておくといいわ」
「あ、待ってくださいエルフォニアさん! せっかくですし、お礼も兼ねてご飯を食べていきませんか?」
そう提案してみたのですが、エルフォニアさんはそういう気分ではなかったようで、私達に背を向けて転移の準備を始めてしまいます。
「遠慮しておくわ。ミーシアも結果を楽しみにしているでしょうし」
「そうですか……」
「次来た時にでも、ご相伴に預からせていただくわ。今日は家族水入らずで楽しみなさい」
ずずず、と影が伸び始める彼女の後ろ姿に、エミリとティファニーが声を上げました。
「エルフォニアさん、今日はありがとうございました! ミーシアさんにもありがとうって言っておいてください!」
「お世話になりましたエルフォニア様! いつか、お返しをさせてください!」
「ふふ、子どものくせにお返しとか考える必要なんて無いわ。それじゃあね」
彼女は後ろ手で手を振ると、そのまま影に飲み込まれて姿を消してしまいました。
私としても、エルフォニアさんにはお世話になっているのでお礼をしたいところでしたが、また今度と口にしていましたし、その時まで取っておくことにしましょう。
エルフォニアさんの件は一度思考から外すことにして、まずはエミリ達の学園への準備を進めようと頭を切り替えることにしました。
エミリ達と仲良く手を繋いで二階へ上がり、お茶を用意しながら二人に尋ねます。
「それで二人とも、学園からいただいた書類という物を見せてもらえますか?」
「うん! これだよ!」
どうやらエミリ達が貰ったものはどちらも同じものであったようで、代表してエミリが私に冊子のようなものを見せてくれました。表紙に先ほどティファニーが見せてくれた校章と同じマークが描かれていて、“ハールマナ魔法学園入学のしおり”と記されています。
ぺらりと捲ると、学園長と書かれている男性のバストアップ写真と、その男性からの歓迎の言葉が長々と綴られていました。これは恐らく、読み飛ばしても問題はないものでしょう。
さらにページを捲り、エミリ達の今後の学園生活で必要となるものが記されたページを見つけました。見落としが無いようにチェックしていくと、筆記用具や学園指定の教材の他に、ハールマナ魔法学園の制服やカバンが必要なようでした。
「シリア様。この学園指定のカバンや制服は、どこで購入すればいいのでしょうか」
『む? 妾の頃は特に指定は無かったのじゃが、今では導入されておるのか。まぁ、他所の学園の生徒と見分けがつくようにするためにも一役買うじゃろうし、当然と言えば当然ではあるか』
シリア様はそう言うと、机の上にいつものように座って腕組みをし、頭の中で何かを探し始めます。
しばらくゆらゆらと揺れている尻尾を眺めていましたが、ぴこんと跳ねたのが見えたので、シリア様の言葉を待ちます。
『確か、ラヴィリスにいくつかの商店からなる大型の商業施設があったはずじゃ。恐らくそこで買い揃えることができよう』
「なるほど。では、来週までにそこへ向かった方が良さそうですね」
『うむ……あぁ、それならば明後日が丁度良かろう。お主の例の件を済ませつつ、買って帰れば良い』
明後日と聞いて、シリア様から先日告げられた内容を思い出しました。
エミリ達だけを人間領へ送るのは流石に不安が残るからと言うことで、私も学園の非常勤講師として潜入するのですが、その面接日が確か明後日だったはずです。
エミリ達には内緒のサプライズとすることから、何の件かは口に出さず頷く私に、エミリ達が首を傾げながら尋ねてきます。
「お姉ちゃん、どこか行くの?」
「お買い物でしたら、ティファニーもご一緒したいです!」
「ふふ。気持ちは嬉しいのですが、少し難しいお話なので私とシリア様だけで行ってきます。その日はレナさんとフローリア様が家にいてくださいますので、何かあったらお二人に言ってくださいね」
「分かった!」
「お母様、ご飯はどうなるのですか? レナ様もフローリア様も、お料理が不得手だと記憶しておりますが」
そう言えばそうでした。今の酒場にお邪魔するわけにもいきませんし、どうしましょうか。
私が作り置きできるご飯を用意できれば……と考えたところで、先日レナさんから聞いた異世界の料理が適当かもしれないとの結論に辿り着きました。
「大丈夫ですよ。量を作れて、作り置きができるご飯がありますのでそれを用意しておきます。レナさんの世界のご飯なので、慣れないかもしれませんがきっと美味しいはずです」
「え! レナちゃんの国のご飯なの!? すっごい楽しみ!!」
「レナ様は遠い国からいらしてるのですよね? ティファニーもその国の文化に興味があります!」
「では、頑張って作っておきますので、いい子で待っていてくださいね」
「はーい!」
「分かりました!」
元気よく返事をする二人に微笑み、まずは今日のお昼ご飯から取り掛かることにしました。




