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13話 異世界人は故郷の味が恋しい

レナがだんだんと家に馴染んできたある日の休日。

まったりとした時間を楽しんでいたところへ、

とある女神のハリケーンが襲ってきます。

 診療、特訓、ポーション作成と忙しく過ごしていると、あっという間に一日が終わり、気が付いたら太陽の日でした。太陽の日は週に一度ののんびりと過ごせる日で、急患以外は受けない休日となっています。


 今日は特に出かける予定もなく、特訓も無いので私服でレナさんとエミリとお茶を楽しんでいます。

 レナさんの私服は魔女服と似た色合いのノースリーヴのミニワンピースなのですが、フローリア様の趣味が色濃く出ているらしく、やや胸元が広く開いていたりスカート丈が短かったりと、少し際どい物でした。


 本人は全然気にしていないようですので、特には言いませんが……。


 ちなみに、エミリのはシリア様力作の一着で、ワンピースなのは同じですが露出は一切なく、レースやフリルがさりげなく施された落ち着いた濃紺の色合いです。とても可愛いです。


「ん~! ホントにシルヴィの作る料理って絶品よね! あたしは向こうでは料理ほとんどしなかったから、ちょっと羨ましいなぁ」


「お姉ちゃんのご飯は全部好き!」


「ふふ、ありがとうございますエミリ。夕飯も美味しいのを用意しますね」


「やったぁ!」


 エミリを撫でながら微笑んでいると、昨日のおやつに出しそびれたミルクレープを突いていたメイナードが口を開きました。


『甘いものも悪くはないが、我としてはたまには淡泊なものがいい』


「淡泊なもの、ですか?」


『レナやエミリの舌に合わせているのは分かるが、我は元々野生だ。人のように味に工夫もしなければ拘りもせず、そのままの素材を楽しんでいた』


「あー、それはなんか分かるかも。シルヴィの料理ってすっごい手が込んでて、見た目も味も楽しいんだけど、たまには簡素なのも食べたくなるーみたいな?」


『ごく潰しのくせに意見は一丁前だな』


「あんたより働いてるわよ! むしろあんたこそごく潰しじゃないの!!」


『我は主の使い魔だ。ならば飯の世話をされるのは当然であろう』


「普段偉そうにしてるくせに、そういうとこだけ使い魔アピールしてくるのね……!」


 不服そうに頬を膨らませるレナさんも面白いですが、今出た意見について考える必要はありそうです。

 新しいレパートリーを増やしたいところですが、流石に塔から持ち出した本のレシピとかもそろそろ限界がありそうな……。


 そういえば、レナさんの世界での食事事情はどうなのでしょうか。異世界での文化についてもこれまで聞いたことがありませんでしたし、ちょうどいいので聞いてみることにしましょう。


「レナさんの世界では、普段どのような物を食べられていたのですか?」


「どんなって、普通にご飯よ? 別にこっちの世界と変わんないし」


「あぁ、すみません。例えばこっちの世界には無い料理だったり、こっちでは食べられない味付けだったりと気になりまして」


「そっちね。そうねー、久々に食べたいなって思ってるのはお米かしら?」


「おこめ?」


「うん。こっちだと主食ってパンかパスタしかないじゃない? まぁどっちも好きだからいいんだけど、やっぱ食卓にはお米を使ったご飯が落ち着くのよねー。ザ・日本人って感じ!」


「ええと、よく分からないのですがパンの代わりになる主食があった。ということですか?」


「そう! でもこっちじゃ全く出てこないから、きっと存在してないんだろうなぁって諦めてたけどね」


 なるほど。主食として替えとなる“おこめ”があれば、食卓の彩もまた変わったものになるかもしれません。


「ちなみだけどね、お米は凄いのよ? 麦はビールにもパンにもなるように、お米は潰せばお餅になるし、お菓子にもなるし、なんならお酒にもなるんだから」


『酒になると言ったか!?』


 後半だけ聞こえたらしいシリア様が、食堂の扉を激しく開きながら問いかけてきました。

 お酒、大好きなんですねシリア様……。


「どう作ってるのかは知らないけどね。でもお米を使ったお酒があるのは確かよ」


『ふむ、酒の工程などどうとでもなるからそこは良い。じゃが、その“おこめ”なるものは気になるのぅ』


「つまりは私の出番ということね!?」


 今度はシリア様に続いてフローリア様が元気に飛び出してきました。

 お二人ともお暇だったのでしょうか。


「フローリア様はご存じなのですか?」


「ふっふ~ん、知ってるも何も持ってくればいいじゃない!」


「うそ、フローリアまだあっちの世界と行き来できるの!?」


「ちょびっとだけね。怒られて力を取り上げられたと言っても、これでも【(とき)の女神】だからね」


「じゃあ、あたし帰れたりする?」


「あ、それはダメ。生命は行き来できないって大神様が新しくルール作っちゃったみたいなの。ごめんね」


「そうよねー……まぁ期待してなかったしいいけど。で、お米持ってこれるの?」


「うんっ。お米はあっちで食べたことあるからどんなのか分かるし、どうせならこっちで育てて沢山食べたいじゃない? だから原料取ってきちゃおうかなって!」


 それは泥棒なのではないでしょうか。

 と言うよりも、別の世界から物を調達出来たりもしちゃうのですね……。改めて、神様は何でもありな存在なのだと思わされてしまいます。


「じゃあお願い! お米は元々稲って植物だから、それがあればこっちでも育てられると思う!」


「まっかせて! じゃあシリア、ちょっと行ってくるわね!」


『あ、これフローリア! ……ったく、後で大神様に大目玉食らっても知らんぞ』


 シリア様の制止の声も届かず、フローリア様はその場をくるりと回り姿を消してしまいました。

 フローリア様のいつもの様子から先行きが不安になりますが、今は待つしかなさそうです。

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