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370話 魔女様はビンゴを楽しむ

「続いての番号はー……じゃじゃん! 十七番!!」


 十七、十七……あ、ありました。

 配られたビンゴシートの該当箇所を指で押して穴を開け、縦のラインにある“三番”が発表されれば私もビンゴを達成することができそうです。

 幸い、今回の発表でビンゴを達成した方は出ていなかったらしく、次こそはと皆さん意気込んでいらっしゃるようでした。


「うふふ! どんどん行くわよ~! 次はぁ……じゃん! 九番!!」


 九番は私のシートには書かれていません。

 少し気落ちしながら次の発表を待つことにすると、少し前方で参加していた獣人族の方がビンゴを達成したようで、その場で数回跳ねながら「ビンゴだ!」とはしゃいでいらっしゃいました。


「あら、おめでとう~! それじゃ、こっち来てもらえるかしら?」


 フローリア様に手招きされたその男性は、レナさんの横で立派な筋肉を誇示している彫像の隣に並ぶと。


「むぅん!!」


 自分も負けていないと言わんばかりに全く同じポーズを取って見せたため、会場は私以外の笑いに包まれます。

 そんな彼はレナさんに自慢の筋肉をぺちぺちと叩かれながらガチャを引くことを催促され、彫像の右腕をぐいっと引き下ろし、背中の穴から出てきたボールをレナさんに手渡しました。


 開封係でもあるレナさんがそれを開けて、中身を確認すると。


「うわ出た! えっぐいブーメランパンツよ!!」


 そう叫び、並べられていた景品の中から小さな赤い布切れを私達にも見えるように持ち上げて見せます。

 それはもう、下着と言っていいのか分からないくらい面積の小さな男性用下着に見え、本来であればお尻部分を覆うはずの布が紐に近い形状をしています。


「うはははは! なんだよこれ!? え、今履くのか!?」


「は~い、試着コーナーはこちらでぇす♪」


 彼はフローリア様に背中を押されてステージ裏に移動し、しばらくしてからそれを着用してステージに戻ってきました。


「何だこれ、この尻に食い込む絶妙なフィット感! いい、いいぞこれ!!」


 そんな感想を述べながら謎のポージングを取るその姿に、私は苦笑せざるを得ませんでした。

 彼らのような獣人族だからこそ、体毛が多いことで羞恥心などは無いのかもしれませんが、うっかり私達があれを引いてしまった場合はどうなってしまっていたのでしょうか……。


 笑いと拍手を一身に受けた獣人族の方がステージから降りたのを見届けて、フローリア様が次の番号を発表し始めます。


「お次は何かしら~……じゃかじゃん! 二十六番!!」


 二十六……あ、ありました。ですが、またもビンゴにはならず、あと一歩のところで揃いそうな列が増えただけです。

 揃いそうで揃わない。そんなもどかしさに楽しさを感じ始めていると、やや低音で凛とした女性の声が「ビンゴだ!」と言いました。


 その姿を探すと、どうやら今回でビンゴを達成したのはスピカさんだったようです。

 スピカさんはフローリア様に手を引かれながらステージに上り、例によって筋肉自慢の彫像の腕を引き下げます。出てきたボールをレナさんが直接手に取り、中身を確認すると。


「あは! あっははははは! スピカにこれあげんの!?」


「どれどれ~? あらぁ! スピカちゃんがこれを引いちゃったのね!?」


「な、何なのだ?」


 楽しそうなレナさん達とは対照的に、訳が分からないと言った表情を浮かべるスピカさん。

 そんな彼女を気にせず、レナさんは並べられていた景品の一つを手に取り、私達にも見えるように掲げました。


「スピカが引いたのはこれ! ピロピロ笛セットよ!」


 レナさんの手に収まっているのは、パッと見た感じでは眼鏡とつけ鼻がセットになっているような、やや作りの雑なお面に見えました。ですが、良く見るとつけ鼻の鼻孔部分には何か紙のような物が巻かれた状態で着けられていて、何に使う物か全く想像ができません。


 手渡されて困惑しているスピカさんにフローリア様が耳打ちすると、スピカさんはボンッと顔を赤らめて言い返しているようですが、レナさんとフローリア様に頼み込まれて渋々と言った態度でそれを顔に装着しました。

 彼女が顔を上げた瞬間、想像を絶する酷さに私は思わずむせてしまいました。


「な、何ですかあれは!? っふ、ふふ……!」


『くははは!! 何じゃあの面は! ブサイク過ぎるじゃろう!!』


「…………」


 当の本人は棒立ちのままでしたが、鼻で呼吸をしていることで鼻孔に取り付けられていた紙に空気が送られ、「ピピュー」と情けない小さな笛の音を奏でながら伸びたり縮んだりを繰り返してしまっているせいで、私達は笑いをこらえることができません。


「あははははは!! スピカさんやめてそれ! あはっ、あははは!」


「こんな、はしたない……ふふっ、あはははは!!」


 エミリやティファニー共々、過呼吸になってしまうかと思うほど笑いで苦しめられている私達に、壇上からスピカさんのややくぐもった声が飛んできました。


「魔女殿!(ピピュー) そんなに笑うことは無いだろう!!(ピピュー)」


「や、やめてくださいスピカさん! それ以上は、本当に、もう! あはは!」


「お、お腹痛い! あはははは! あはは!」


「お母様! わたくし、ふふ! もうお腹が壊れてしまいます!!」


「あっはははは! 長、顔酷すぎ~!!」


「ブッサイク~!!」


「おい、お前達も笑い過ぎだぞ!(ピピュー)」


 スピカさんが抗議しようとすると、それに応じてあの笛が伸縮しながら音を奏でるので余計に笑ってしまいます。

 景品を渡す側のフローリア様も壇上で笑い転げてしまっていて、レナさんもこちらに顔は見せないようにしているつもりですが、筋肉像の足を支えにしながら倒れこむように笑い続けているようです。

 流石にこれ以上は耐えられないと感じたらしいスピカさんがそれを外し、やや歩幅を大きくしながらハイエルフのグループへ戻ると、恥辱を味わわせようと他のハイエルフの方にも装着し始め、改めて自分で見て大笑いしていました。


 あんなものを前に笑うなという方が無理があります、と目じりに浮かんだ涙を拭いながら息を整えていると、こちらもようやく落ち着いてきたらしいフローリア様がふらふらと立ち上がり、シリア様像の手を引きました。


「はー、死んじゃうかと思ったわ! 絶対面白いと思ってたけど、あんなに酷いなんて……あはは!」


「けっほ、けほ! ひー、今年一番笑ったんじゃないかしら。ほらフローリア、笑ってないで読み上げて!」


「はぁい。えっとー……次は十一番よ!」


 十一番、十一番……ありました。ですが今回は、揃いそうな列とは無関係な場所に穴が開いてしまっただけのようです。

 エミリ達もまだ揃ってはいないらしく、そわそわとしながら次の数字を待っているようでした。


 今回はビンゴ達成者は出ないのでしょうか、と思いながら次を待っていると。


「ビンゴよ」


 静かな声でカードを掲げたのはエルフォニアさんでした。

 エルフォニアさんは降りてきたフローリア様に手を引かれて壇上へと上がっていき、レナさんの指示に従って筋肉像の腕を引きました。中から出てきたボールをレナさんが拾って読み上げようとしましたが、レナさんはちょっと躊躇うような顔をしています。


『くふふ! よもや、エルフォニアにも先のブサイクな面を渡すのではなかろうな!?』


「流石にそれは……」


 私と全く同じことを考えていたシリア様に、口ではそう言いながらも、心の隅で少しだけ期待してしまう私がいました。

 もしエルフォニアさんがあれを付けたら、絶対に耐えられる気がしません。そして笑い過ぎて苦しくなっているところを、彼女なら攻撃してくるのでしょう。


 期待と不安で渦巻く胸中を伏せながら様子を見守っていると、今回はレナさんは私達に景品を見せず、そのままエルフォニアさんに手渡していました。そのまま何かを小声で話していましたが、エルフォニアさんは小さく頷くとステージ裏へと行ってしまいます。


 一体、何を渡されたのでしょうか……。そんな私の疑問は、一分と経たずに氷解することになりました。


『くふっ……。だ、ダメじゃ、笑う出ないぞシルヴィ……』


「は、はい……ふふっ」


『これ! 笑うなと言うておろう……くふっ』


 私達が必死に笑いをこらえる視線の先には、いつもの仏頂面を携えたエルフォニアさんがいらっしゃるのですが、彼女が身に着けているエプロンに問題がありました。

 そう、何故か首から下が筋骨隆々で艶もある男性の姿が印刷されているデザインで、首から上はエルフォニアさんなのに、そこから下が男性という奇妙な組み合わせとなってしまっているのです。


 そんな彼女にフローリア様が耳打ちをすると、エルフォニアさんはこくんと首を縦に振り。


「……こうかしら」


『ぶほっ!!』「んふっ!」


 華奢な腕の筋肉を見せつけるようにポージングを行ってしまったせいで、私とシリア様は限界に達してしまうのでした。

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