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366話 ハイエルフの長は感謝する

 落ち着いた私は、村に設営されたパーティ会場の真ん中に位置するテーブルに座らせられました。

 そしてちょっとした壇上にレナさんとフローリア様が立ち並ぶと、二人で声を揃えて宣言します。


「「それじゃあ、森の魔女様生誕祭を始めるわよー!!」」


「「わあああああああああ!!」」


 その宣言に獣人族、ハイエルフ、兎人族、植妖族(ネイチャール)の皆さんが沸き立ち、大歓声と共に私のお誕生日会が幕を上げました。

 早速、エミリやティファニーに料理を取り分けようとしましたが、立ち上がった私の肩が誰かに押さえつけられました。


「シルヴィちゃんは今日は何もしないでいいのよ。お姉さんに任せなさいっ」


「フローリア様。分かりました、ではエミリ達に盛り付けていただけますか?」


「んふ! だーめ、今日はシルヴィちゃんのためのお誕生日会なんだから、シルヴィちゃんの分からね?」


 フローリア様はそう言うと、テーブルの上の料理を少しずつお皿に乗せ始めます。

 エミリ達に申し訳ない気がしてしまいましたが、彼女達も私に何もさせないと意気込んでいたらしく、自分達で好きな物をお皿に取ってるようでした。


「はいっ! お野菜もお肉も、いつも以上に良いものを使ってるから美味しいわよ~!」


「では、いただきます」


 盛り付けられたサラダを一口頬張ると、フローリア様がおっしゃった通り、これまで食べたことが無いほど瑞々しく甘みさえ感じられる味わいが広がりました。

 ドレッシングなどを使っていないのに、ここまでしっかりと味があるなんて……と驚いている私に、スピカさんが声を掛けてきます。


「どうだろうか魔女殿。最新の品種改良を施した自慢の野菜は」


「とっても瑞々しくて美味しいです。それに、ほんのりと甘みも感じられるので、何もかけずにこのまま食べれそうです」


「ふふ、そうだろうそうだろう。これは植妖族にも少し手を貸してもらった合同作品なんだ。我々が土壌と種の改良を行い、植妖族が魔女殿の幸福を祈りながら成長を促したものでな。ハイエルフには無い作物との向き合い方だったから感心させられたものだ」


 どうやら、ハイエルフにとっても植妖族との交流は良い方向へ作用しているようです。

 彼女達の合作をさらに一口楽しみながら、同じ森の恵みを大切にする者同士、今後も上手くやっていけるのでしょうと安心していると、スピカさんが言葉を続けてきました。


「……実を言うとだな。正直、魔女殿がこの森に来てくれなかったら我々は――いや、獣人族も含めた森の住人は去年の段階で絶滅していたのだ。魔女殿が来てくれなければ、あのまま物資の供給は途絶え、作物は荒らされて食い繋ぐことさえ叶わず、アイツに殺されていただろう」


 スピカさんはそこでいったん区切ると、困ったように笑いながら言いました。


「魔女殿からしたら、もう何度目かと聞き飽きた言葉かもしれないが、改めて礼を言わせてくれ。貴女がこの森に来てくれて、アイツを倒してくれて、我々は滅びの運命から救われたんだ。ありがとう魔女殿。これからもどうか、我々の良き隣人でいて欲しい」


 私はフォークを置き、スピカさんに向き直ります。

 そして、こちらこそと右手を差し出しながら、私も日々感じていた感謝の言葉を口にします。


「私こそ、いつもスピカさんや皆さん達から、美味しい食材を分けていただけてとても助かっています。私にできることであれば何でもやりますので、今後とも森の住民の一人として仲良くしていただければ嬉しいです」


「あぁ、もちろんだ。この先も魔女殿には沢山の迷惑をかけることになるとは思うが、よろしく頼む」


 固く握りあった手のひらから、私に対する信頼感がひしひしと伝わってきます。

 彼女達と知り合ってから約一年。獣人族とは違ってあまり怪我はしない彼女達ですが、毎日とは言わずともそれなりの頻度で診療所に足を運んでは、他愛のない話に花を咲かせて帰っていく大切なお友達です。

 スピカさん達が作ってくださる野菜のおかげで、エミリの野菜嫌いも若干は改善してきていますし、私達の食生活を支えるという面でも非常に助かっています。


 この先も彼女達が困っていることがあれば、森の住民として、そして友達として、必ず力になってあげましょう。


「そう言えば魔女殿。つかぬことを聞くのだが」


「はい?」


 私から手を離したスピカさんは、やや訝しむような表情で尋ねてきました。


「いや、暇を持て余した同胞の冗談であれば無視してくれて構わないのだが……。その、魔女殿とメイナード殿ができているという噂話が先ほどから良く聞こえてきていてな」


 その言葉に、私の全身がビシリと固まりました。

 まさか、あの街での出来事が誰かに伝わっていたのでしょうか!?


「えっ!? 何々どういうこと!? シルヴィちゃんってば、メイナードくんとあちちなの!?」


「はぁ!? ちょ、ちょっとシルヴィ、正気なの!? 相手は魔獣なのよ!?」


「お母様! わたくし、お母様がどのような殿方を夫に迎えられても、娘として受け入れて見せます!」


「お姉ちゃん、できてるって何?」


「え、えっと、待ってください! これにはその、事情がありまして……!」


 問い詰められて狼狽えながらも、スピカさんに視線でどこから話が出ているのかと伺ってみると、彼女は指先で一点を示しました。

 そこには――。


「えー!? 魔女様とメイナード様とエルマちゃんの三角関係ってこと!?」


「きゃあ~! イケメンを取り合う美女と美少女! 誰かパン持ってきてー!!」


「でもでも、やっぱりエルマちゃんのようなお子ちゃま体型よりは、魔女様のような凹凸のメリハリがある方がメイナード様も好みだったりして!?」


「ありそ~! ほら、肉食獣ってやっぱり彼女にするにも肉感的な方が好きそうじゃない!?」


「だーかーらー! ボクはまだ負けてないんだってばぁ!!」


「いい加減諦めろ。お前では主に敵わん」


「嫌だー!!」


 まだ人型から戻っていないメイナードとエルマさんを囲むように、ハイエルフの皆さんがきゃあきゃあと騒いでいました。

 そう言えばそうでした。彼女達は恋愛話になると、それが嘘であろうと真実であろうと関係なく、夢中になってしまう欠点があるのです。


「ちょ、ちょっと行ってきます!!」


「あぁ、魔女殿!?」


 その後、私達の誤解を解くのにかなりの時間を有してしまいましたが、私がからかわれていただけという事実になおさら盛り上がりを見せてしまい、メイナードは森の皆さんから“プレイボーイ”であるという不名誉な称号をいただくことになるのでした。

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