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364話 元地上の覇者は暴露される

 結局、お昼直前となっても私とエルマさんのポイントは同点となってしまっていました。

 恋人ごっこにとっくに飽きていたメイナードはさておき、何としてでも私からメイナードを奪い返したいエルマさんは引き分けを認めてくださらず、森についていくと言い出す始末です。


「コイツはこういう奴だ。諦めろ」


「ですが、勝手に人を呼んでしまってはシリア様に叱られてしまうのでは……」


「ならお伺いを立てればいいだろう」


 それもそうですね。

 とりあえず、出かける旨を伝えておいたフローリア様経由でシリア様にお伺いしてみることにしましょう。


 メイナードに頷いてウィズナビを取り出し、ポチポチとメッセージを送る操作をしていると、丁度良くフローリア様からの着信が来ていると画面に表示されました。


「はい、シルヴィです」


『はぁ~い! そろそろお昼だけど忘れてないかな~って思って連絡しちゃった♪』


「ご心配をおかけしました。ですが、私達も今から帰ろうと思っていたので大丈夫です」


『うふふ! それは丁度良かったわ~』


 フローリア様はそう笑うと、ちょっと待ってねと言い残して誰かと小声で話し始めました。

 誰かがフローリア様の近くにいらっしゃるのでしょうか。シリア様が居合わせていただけるのであれば、フローリア様の手を煩わせないで済むのですが。


 しばらくして、再びフローリア様の声が聞こえてきました。


『あ、シルヴィちゃん。まだフェティルアから出てないわよね?』


「はい。まだ出ていません」


『おっけ~おっけ~。じゃあ、ちょっと頼まれてくれないかしら?』


「何か買っていくものでもあるのですか?」


『ううん! 買ってほしいものは特にないんだけど、シリアが作った簡易転移像の動作確認をお願いしたいのよ~』


「簡易転移像、とは何でしょうか」


『えっとね~、ほら! この森から街に出るのって、メイナードくんに乗っても二十分以上は掛かるじゃない? そこで、うちの近くと街の入り口を繋ぐ転移ルートをシリアが作ったの。それを使えば、シリアが問題ないと判断した人限定で森の中に転移できるって訳!』


「なるほど。ここ最近のシリア様が何やら忙しそうにされていたのは、フェティルアと森を繋ぐルートの開拓に勤しまれていたからだったのですね」


『そうそう! あ、ちなみにそれも一か所だけじゃなくて、結構あちこちに作ってくれたのよ~。ミーシアちゃんの家の庭にひとつでしょ? レオノーラちゃんのお城のある首都シングレイ城下町と、この前シルヴィちゃん達が行ったリンドって町でしょ? あとどこって言ってたかしら……忘れちゃった☆』


 音声越しでもフローリア様が可愛らしく舌を出しておどけている姿が目に浮かんでしまい、思わず笑ってしまいました。フローリア様も一緒になって笑うと、しばらくしてから連絡を続けます。


『それで、フェティルアの街を出てちょっとしたところに猫の像があるらしいから、それを探してみてもらえる? 到着したら起動方法を教えるから、また連絡してくれると嬉しいわ!』


「分かりました。あ、すみませんフローリア様。そこにシリア様はいらっしゃいますか?」


『シリア? いるけど――あ、いないって!』


 フローリア様。その噓のつき方は意味がないのではないのでしょうか。

 何故シリア様がいないと言えと仰ったのかは分かりませんが、一応事前に許可はいただいてしまいましょう。


「そうでしたか。では、あとでシリア様にお伝えいただけますか? メイナードのお友達がフェティルアにいらっしゃったので、その方も一緒に帰りますと」


『あら! メイナードくんにお友達がいたのね~! いいわよ、伝えておいてあげるから後で紹介してね!』


「ありがとうございます。では、また後でご連絡しますね」


『は~い!』


 通話を終え、話の内容を二人に伝えて街の外へ出ます。

 街から出た後もメイナードにべったりとくっ付いていたエルマさんが、周囲を見渡しながら歩く私に言いました。


「ふっふっふ。これはボク達の勝負の行方を、シルヴィの家族に判断してもらう流れかな~?」


「えぇ? 本当に続けるのですか?」


「当たり前だよ! 勝負はまだ終わってないんだから!」


『ケイゾク! ケイゾク!』


「はぁ……。ですが、我が家で勝負するとなると、そんなに競える内容が無いような……」


「いいの!」


 エルマさんはどうしても勝負を捨てたくないようです。

 私としては引き分けにしていただいた方が、後腐れがなくていいかとは思うのですが……。


 そんなことを考えながら歩を進めていると、右斜め前方に小さな石像を見つけました。

 近寄って形状を確認してみると、片手を腰に当て、もう片手をこちらに差し出すようにしている愛らしい猫の石像であることが分かります。

 この独特の造形美と猫へのこだわりの強さ。間違いなくシリア様が作られたものでしょう。


 ウィズナビを取り出してフローリア様へ到着の旨を伝えると、詳細な手順が記されたメッセージが返ってきました。


「お二人とも。この魔法陣の中に立ってください」


「ボク、実は転移魔法って初めてなんだよね~。大丈夫? 失敗してどっかに埋まったりしない?」


「まだ不慣れな私であれば可能性はありますが、これはシリア様がお作りになられたものですので大丈夫だと思います」


「えっ、シルヴィ失敗させたことあるの!?」


「埋めてしまったことはありませんが、服などの装備を転移させ忘れてしまったことならあります」


「うわ~! すっぽんぽんで登場とか恥ずかしくて死んじゃう! どうか、メイナードの前ではそんな失敗起きませんように……!!」


「我に夜這いを仕掛けてきた淫売の分際で、何を今さら」


「ねえええええええ!! だから何でそういう事言うかなぁ!?」


『フケツ! フケツ! エルマ、ゲンテン! マイナス十!』


「よ、夜這い……」


「待って! それはおかしいって! シルヴィも本気にしないで!? ねぇ! ねぇってばぁ!!」


「我は事実を述べたまでだ。貧相な雌の体で我を誘惑しようと考えたのは、呆れを通り越して賞賛に値したがな」


「もうやめてええええええ!!!」


 ……ちょうど、魔法陣の中央に立っているメイナードにエルマさんが泣きついていますし、このまま転移を起動してしまいましょうか。


 魔力を流し込むと、魔法陣が赤く輝きだしました。その光が徐々に強くなり始めたと思った次の瞬間、転移魔法特有の一瞬の浮遊感の後、私達は我が家から少し離れたところに作られていた広場に転移していました。

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