12話 魔女様は特訓を重ねる
それから実践の日は、私はフローリア様の攻撃を捌きながらチャンスを窺い、拘束するという特訓に変更となりました。
もちろん、猛攻の中で拘束を成功させるというのは至難の業であり、そもそも結界を展開しながら拘束もとなると、考えることが多すぎて頭が足りません。
それに、塔の中で魔法の勉強をしていた際に知ったのですが、魔法の行使というものは、一回の発動に対し一種類の魔法しか使えないのです。
多重詠唱を行うことはできなくはないようですが、人間の脳の作りからして耐えられるようにはなっていないらしく、無理やり多重詠唱を行おうものなら、最悪廃人になるリスクもあるようです。
そのため、如何なる魔女であっても必ず一種類ずつ行使する。というのが魔法を使う者としての常識であり、大前提となっています。
そこでシリア様が提案してくださったのが、“魔法を杖にストック化させる”ことでした。
あらかじめ杖の中に仕込まれている魔導石に拘束用の魔法をストックさせ、攻撃を結界で防ぎながら機会を窺い、ここぞというタイミングで起動させるというやり方は、これまでの私の戦い方に変化をもたらしてくれました。
最初はかなり戸惑っていたのですが、何日か練習する内にタイミングが掴めるようになり、実践でも登用できるくらいには使いこなすことが出来るようになっていました。
ですがフローリア様もそれが分かっていて、今までのように簡単には隙を見せてくださいません。
「ふふふ~、そろそろ仕掛けようかなとか考えてるわね? いいのよ~、どこからでも掛けていらっしゃい?」
「でしたら、攻撃を緩めてくださってもいいのですよ!」
「だーめ。だって結構がっちがちなんだもん、割るのも大変なのよ~?」
たまに発動に成功して拘束できた時もあったのですが、威力を下げたものなので難なく割られてしまい、返しの雷撃に結界が間に合わず撃たれる。といった流れがこれまで何度もありました。
今日こそは何とか無力化に成功したいところですが……。
そう考えていると、フローリア様の姿が数多の雷撃に紛れて一瞬見えなくなってしまいました。
「考え事に夢中になりすぎよ、シルヴィちゃん!」
「ゎきゃああああああああ!?」
いつの間にか懐に潜り込まれていたらしく、地上から思いっきり空に投げ出されてしまいました。家の屋根など軽々飛び越え、森の木々すらも小さく見えます。
「お、おちっ! 高っ! いやああああああああ!!」
高いし落下が早いし、何より怖い!!
頭が回らず叫ぶしかできないでいると、目の前が急に真っ黒になり、私の体がぼふんと音を立てて何かにぶつかりました。
『まだ空が怖いのか主よ』
「め、メイナードぉぉ……!!」
『泣くな、羽が濡れるだろう。ったく、情けない主だ……』
「ふえぇぇん、ごめんなさいぃ~……!」
そのまましばらく空をのんびりと旋回し、私が落ち着いた頃合いでメイナードが家の前に戻ってくれました。家の前では正座でシリア様に怒られているフローリア様と、お腹を抱えた状態で顔と膝を地面にくっ付けながら力尽きているレナさんの姿があります。
『おぉ、シルヴィ! 無事であったか……。礼を言うぞメイナード、よくやってくれた』
『いえ、主を助けるのは我として当然のことです』
『すまぬシルヴィ。あの阿呆女神にはきつく言ってやったが故……』
「ごめんねシルヴィちゃん~。最近シルヴィちゃんがめきめき強くなってたから楽しくなっちゃって!」
『なっちゃって、で済むかたわけ! 拘束して上空から叩き落すぞ!?』
「反省してるわよぉ! もうやらないからぁ!」
「シリア様。私が気を散らしていたのが原因ですので、あまりフローリア様を責めないでください」
『……お主という奴は、ほんに優しすぎるぞ。もう少し怒ることを覚えたらどうじゃ』
何かに怒るということをあまりしたことが無かったので、そうは言われましても……。と思っていると、元気になったフローリア様に横から抱き付かれました。
「ありがとぉシルヴィちゃん! 私は優しいシルヴィちゃんが大好きよ~! シリアに似ないで良い子で育ってね!」
「ふ、フローリア様、苦しいです……」
『ほーれ、お主が甘やかすから調子に乗るではないか……』
「え、えっと。ではフローリア様、お詫びと言っては何ですが。もう一回私の拘束の特訓にお付き合いいただけますか?」
「まだやれるの? シルヴィちゃん元気ね~。いいわよ、シルヴィちゃんの魔力が空っぽになるまで付き合ってあげるわ!!」
頬擦りされながら苦笑いを浮かべていると、シリア様は呆れたような声を出しながらレナさんの方へと向かって行きます。
『日も落ちてくる故ほどほどにな。妾はアレを拾って先に風呂に入ってくる』
「分かりました。そう言えばメイナード、レナさんはどうしたのですか?」
『我の翼が腹に直撃して動かなくなった』
あ、あなたって人――いえ、鳥は相変わらず容赦がありませんね。
じとーっと半目で見ていると、大きなあくびを返されそのまま家の中へと入ってしまいました
「はぁ……。すみませんフローリア様、ではお願いします」
「いいわよ~! どんどん掛かってきなさい!」
結局、この日もフローリア様を拘束することはできませんでした。
招待状の日時まであと一週間。それまでには成功して物にしたいところですが。
「うっふふふ~、それじゃあシルヴィちゃん! 私が勝ったから今日は一緒にお風呂ね! 全身綺麗にしてあげるわ!」
「うぅ……。軽はずみに約束なんてするのではありませんでした……」
私は招待の日までに自分の身の安全を守れるのか、ある意味不安になってきました。




