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359話 魔女様は嫉妬する

 シリア様に外出の許可をいただこうと思い、フローリア様のウィズナビへメッセージを送ってみたところ。


『おっけーよ☆ でも、お昼くらいには帰ってきてね!』


 とのメッセージが帰ってきました。

 メイナードもそんなには掛からないと言っていましたし、昼食の準備ができる時間には戻ってこれると思い、『分かりました』と返信をして出かける準備を始めます。


 亜空間収納の中から目的の服を取り出し、それを広げて見ると、何だか懐かしさを感じてしまいました。

 この白と金で彩られた、修道女が着るにしてはやや華美なドレスに袖を通して身分を偽り、街に潜入に行ったのがもう半年以上も前になるのです。


 あの頃は私に街を消滅させた罪が被せられていたこともあり、フェティルアという冒険者の街を満足に見て回ることもできませんでしたが、今回は時間に制限があるとは言えども、落ち着いた気持ちで楽しむことができそうです。


 そんなことを考えている内に、気持ちが顔に出てしまっていたらしく、止まり木の上から私をじっと見ていたメイナードが小さく言葉を漏らしました。


『楽しみなのは構わんが、目立ったことはしてくれるなよ』


「大丈夫です。あの頃は私も魔力や魔法の扱いが未熟でしたが、今はずっと良くなっているはずですから!」


『……主のその自信はだいたいずれているから不安だが、まぁ数時間程度ならどうとでもなるか』


 露骨に心配されてしまっています。

 そんなに私が騒ぎを起こすような人物に見えるのでしょうか。


 やや不信な目を向けて来る彼をとりあえず部屋から出し、手早く着替えを済ませて家を出ます。

 メイナードの背に乗って、森の上空を飛ぶこと数十分。視界にフェティルアの街が見えてきました。


 その街から視線を少し奥へと向けると、事件の傷跡がまだまだ拭えていない元ハルディビッツがありました。エルフォニアさんやディアナさんから聞いた限りでは、復興は進めているけど人手が足りないということで難航しているとの話だったような気がしますが、仮設のテントや作りかけの家などを見ると、あの話は本当だということを痛感させられてしまいます。


 魔術師の方々は結局、何を目的としてあの大蛇――バジリスクを召喚したのでしょう。

 あの騒動や王家での歴史抹消などでうやむやになってしまっていましたが、魔導連合へ連行されていった魔術師の一人からも、彼らの目的や事件の真相などを話してもらえていないらしく、魔術師に関する情報が途絶えてしまっているのが現状です。


 あれ以降、私の知る限りでは魔女や人間、魔族などには干渉していないようにも見えますが、魔女に対して強い敵意を抱いている彼らや、何故か生まれたばかりの私を狙って王家を滅ぼそうとしていた【夢幻の女神】ソラリア様などの謎も多いことですし、何が起きても対応できるように日々鍛練しておくべきでしょう。


 改めて魔女としての決意を固めなおしていると、気が付けばフェティルアに入るための市壁が目前まで迫ってきていました。


『主よ、少し離れたところで降ろすぞ。また騒がれては敵わん』


「ふふ。メイナードもあの件で、人間達がカースド・イーグルに感じている脅威を学んだのですね」


『それはどうでもいいが、シリア様にも騒ぎを起こすなと口酸っぱく言われているからな』


 時々テーブルの上でシリア様から何かお小言を言われている姿を思い出し、小さく笑ってしまいました。そんな私を鼻で笑うと、メイナードは嫌がらせのようにほぼ垂直で急降下を始めました!


「きゃああああああああああああ!?」


『クックック。我を笑ったことを悔いるがいい』


 突然すぎて悲鳴を上げるしかできない私にそう言うと、メイナードは地面スレスレでしばらく滑空し、ばさばさと翼をはためかせて停止しました。

 そのまま彼は翼を地面に広げ、しがみついていた私を振り払うようにその上を転がします。


「……もう、そんなに怒らなくてもいいではありませんか」


『別に怒ってなどいない。主のくせに生意気だなと思っただけだ』


「一応、あなたは私の使い魔なのですが」


『形だけだ。なんなら、どちらが上か試してやってもいいぞ?』


 挑発するような物言いに、私は小さく嘆息して服の土埃を払います。

 本気のメイナードはフェティルア防衛の時くらいしか見たことがありませんが、縦横無尽な動きと家が軽く吹き飛んでいた竜巻を起こせる彼の攻撃に、とてもではありませんが対応しきれる自信がありません。

 仮に防げたとしても、拘束の隙など与えないほどの連撃を繰り出し続けてくるでしょうし、メイナードが飽きるまで結界の中で籠城戦に持ち込むしか無さそうです。


 メイナードはそんな私をクククと笑い、彼が纏っている燐光を強く立ち昇らせ始めました。その燐光に包まれている彼の体がどんどん小さく細くなっていき、やがて長身の男性の姿へと変わっていきます。

 変身を終えたメイナードが右手で燐光を横薙ぎに払い、やや長めの前髪をかき上げながら、私におかしいところが無いかと視線で感想を求めてきました。


「大丈夫だと思います」


「そうか。なら行くぞ」


 メイナードが先行して進み始める背中を追い、私も後に続きます。

 歩幅の大きい彼の隣に並んでみると、私の身長はメイナードの肩元ほどまでしかありませんでした。

 私自身もそこまで背が低いとは思っていませんでしたが、こうして見上げないと彼の顔を見ることができないくらいには差があり、彼もまた男性なのですねと意識してしまいそうになります。


「主は小さいな」


「私は別に、人の平均から見ても小さいつもりはありません。メイナードが元々大きいのです」


 そう言葉を返してから、ふと気になったことを尋ねてみることにします。


「メイナードのその姿は、誰かに似せたものなのですか?」


「我が矮小な人間ごときに姿を似せると思うか?」


「そうは思いませんが。人になるにせよ兎人族になるにせよ、参考にしなくては魔法も発動できないのではと思いまして」


「あぁ、そういう事か」


 メイナードは私に視線を合わせず、市壁を見据えながら続けます。


「我らのこの人化魔法は、姿を作るのではなく“己の存在を人に合わせる”という物だ。故に、この姿は誰かを模したものではなく、人として生まれていたらこうなっているという錬成魔法の効果だ」


 その言葉に、私は言葉を失ってしまいました。

 普段の鷹姿のメイナードもとても格好がいいとは思っていましたが、彼が人として生まれていたら、ここまで美形な男性になっていたということなのですか……。

 つまり、逆を返せばカースド・イーグルの中でも非常に整った容姿であるという事でもあるのでしょう。


「……なんだ、その顔は」


「何でもありません」


 天は二物を与えずという言葉の例外を歩く彼に、少しだけ嫉妬してしまった私は、足早に市壁へと向かうことにしました。

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