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357話 異世界人は確認する 【レナ視点】

 シルヴィの誕生日を目前にした三月二十三日の夕方。

 診療所の外まで患者の見送りを終え、いつも以上に物憂げな溜息と共にトボトボと家の中へ戻っていくシルヴィを見ながら、ティファニーがあたしに抗議の声を上げた。


「レナ様! わたくし、もう限界です! あのように落ち込んでいらっしゃるお母様を見たくありません!」


「レナちゃん! 本当にこれで大丈夫なの!? お姉ちゃん可哀そうだよ!」


「分かってるけど我慢して。あと一日の辛抱だから」


「ですが……!」


 泣きそうな顔で抗議を続けるティファニーに、あたしは少しだけ強めの口調で言う。


「これはあんた達のためでもあるの! シルヴィ大好きなあんた達は、シルヴィに聞かれたら絶対に喋っちゃうでしょ!?」


「そんなこと! うぅ……お母様ぁ!」


 泣き出してしまったティファニーを、フローリアが優しく抱いてあやしてくれるのを見ながら、あたしも大きな溜息を吐く。


 正直、泣きたいのはこっちの方よ。毎朝シルヴィに予定を聞かれて、手伝えないことや家を空けることを伝えるたびに、「そうですか……気を付けてくださいね」って悲しそうな顔をされるのは本当に辛いのよ。

 でも、こうでもしないとシルヴィにべったりなエミリ達はどこかで口を滑らせそうだし、二人だけ遠ざけるのは違和感があるからってことでシリア達にも手伝ってもらってるけど、これが正しいかどうかって聞かれるとあたしには即答はできない。


 他にやり方はあったのかもしれないけど、揃いも揃って噓をつくのが苦手過ぎるのよねあたし達。

 そんなことを想いながら、今集まっている面々に最終確認を取る。


「じゃ、明日の確認をするわよ。パフォーマンス担当のハイエルフ組と兎人族組、あと植妖族はもう完璧なのよね?」


「あぁ、念入りに打ち合わせも終えているから大丈夫だ」


「うん。ゆっくりとした曲は慣れてなかったけど、もう全然問題ないよ」


「こちらも問題は無い。レナから、花を使った演出は多数教わったからな」


「そう、じゃあ当日はよろしくね。次に食事担当の獣人族と別班のハイエルフ達、もう明日の仕込みは終わってる?」


「もちろんよ! 明日は魔女様への今までの恩をたっぷり込めて、腕に寄りをかけて作るからね!」


「魔女様好みの色とりどりのお野菜をいっぱい作ったから、絶対喜んでもらえると思うわ!」


 皆の反応に頷き、少し離れたところで木に背中を預けているエルフォニアに声を掛ける。


「エルフォニア。あんたの方は首尾よくできてるんでしょうね?」


「当然よ。あとはレオノーラさんとミーシアの手紙が届けば揃うわ」


「流石ね。あんたに任せて正解だったわ」


 この一年でお世話になった人で、直接来ることができない人から手紙を送ってもらえないかと思って顔が広いエルフォニアに相談したけど、こっちも問題なく準備ができてそう。

 あたしに褒められたのが不快だったのか、メイナードみたいに鼻を鳴らすと帽子で顔を隠すエルフォニア。ホント、力があるタイプの人ってどうしてこういう態度しか取れないのか不思議で仕方がない。


 まぁ今はそんなことで腹を立てても仕方が無いし、次の確認を進めないと。


「シリアの方は? もうすぐ調整は終わるって聞いてたけど」


『うむ。あとは当日に封を解けば、森への転送網が使えるようになる』


「オッケー。でもホントにそれ、やっちゃって大丈夫なの?」


『魔力と言うのは、人の善悪の感情に左右されやすい。それはお主が一番よく知っておるとは思うが、その微細な揺れで弾けばいいだけのことじゃ』


「ふーん……。まぁ、シリアに任せておけば間違いはないわよね。【魔の女神】な訳だし」


『妾としても初の試みではあるが、問題は無いじゃろう。有事の際は妾が責任を取ってやるが故に安心せよ』


「頼もしいわ。それじゃ、そっちはお願いね」


 さて、これで一通り確認は終わったわね。

 あとはあたしの舞と、フローリアが提案してた景品付きクイズ大会だけど……。


「ねぇフローリア。景品とクイズの内容はもう準備できてるのよね?」


「当然よ~! 大神様を説得するのはすっごく、す~っごく大変だったけど、何とかお許しを貰えたから準備もばっちり!」


「あんたそれ、変な物持ってきたんじゃないでしょうね……」


「そんなことないわよ! 至って普通のお土産よ!」


『貴様が日頃から、奇天烈な物ばかり持ち帰ってきているのが悪かろう』


「そんなぁ~! お願いレナちゃん、私を信じて~!!」


「あーもう、抱き着かないでってば! 分かったから、信じるから!」


 フローリアを引きはがそうと格闘し始めるあたし達に、シリアが溜息交じりに言った。


『しかし、こうも大掛かりな物になるとは言え、あ奴には寂しい思いをさせてしまったな。妾と会う前の心細さを感じさせぬようにとメイナードは傍にいるように言いつけたが、へそを曲げておらんと良いのじゃが……』


「お姉ちゃん、怒ってないかな……」


「うぅ、早くお母様に真実を伝えて、楽しく過ごしたいです」


「わたしも……」


 また泣きそうになっている二人の気を紛らわせるように、あたしは総まとめとして声を上げた。


「はいはい、明日になったら好きなだけくっついてていいから! それじゃみんな、明日はよろしくね! シルヴィを驚かせるわよー!!」


「「おー!!」」


 一致団結して、明日のシルヴィの誕生日をみんなで祝う。

 そのためにここ数日間、いろいろと前準備を進めてきていたあたし達だったけど、まさかあんなことになるなんてこの時は誰も思いもしていなかった。

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