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355話 異世界人は使いこなせない 【レナ視点】

「ほらほらレナちゃん! これくらいの結界も破れないようなら、シルヴィちゃんを狙ってるソラリアちゃんに届かないわよ~!?」


「分かってるって……の!!」


 フローリアが雷魔法で編み上げたドーム型の結界を前に、今日もあたしは苦戦させられていた。

 とはいえ、この魔法を使うようになってから約半年でだいぶ成長はできてるとは思う。


 最初の頃なんて魔力を憎悪で反転させたタイミングで意識が無くなったり、ギリギリ耐えられたかと思ったらあたしの意思に関係なく暴れ出したりと、とてもじゃないけど使えたものじゃなかった。

 それでも毎日のようにこうやって付き合ってもらって、五秒が十秒、十秒が十五秒と、少しだけだけどあたしの支配下に置けるようになってきた。


 それでも、気持ちの焦りや体へのダメージで、抑えていたもうひとりのあたしが一瞬にして奪い返そうとしてくるから全く気が抜けない。


「だあああああああっ!!!」


 反転した黒い魔力を右手に集中させて、渾身の力で結界を殴りつける。

 それと同時に、殴りつけた場所からあたしの憎悪がじわじわとフローリアの魔力を蝕み始め、結界としての強度を大幅に低下させていく。


 もうちょっと! 今日は超えられるかもしれない!


 そう気合を入れなおしながら拳を前に押し込んでいると、雷魔法特有の刺激があたしを襲い始めた。


「くっ、うううううう!!」


『痛い、痛い痛い痛い! 何であたしがこんな痛いことしなきゃいけない訳!? あたしはこの世界の人間じゃないのに!!』


「うるさい、うるさいうるさいうるさい!!」


『それもこれも全部、フローリアがあたしを連れてきたからよ! フローリアさえいなければ、あたしは代わり映えもしない毎日を過ごせていたのに!!』


「違う!! あっちに比べれば、あたしはよっぽど人間らしい生活してる!!」


『こんなトレーニングに何の意味があるの!? イライラする、あたしに代わりなさいよ! 毎日押し付けてくるあの贅肉の塊、引きちぎってやる!!』


「あんたは黙ってなさいっての!!!」


 身体の痺れで膨らむ憎悪をねじ伏せながら、結界を割ることだけに注力していると、反転した魔力に蝕まれていた結界に小さなヒビが入り始めた。


 いける! もう少し力めば割れる!!


 そう油断したのが悪かった。

 一瞬だけ気が緩んだあたしの全身から、勢いよく黒い魔力が燃え上がり始め、さっきの雷魔法の刺激なんて比にならないほどの激痛が襲い掛かってきた。


「あっ、ぐ、ああああああああああっ!!!」


『あっはははははは!! だからあんたは甘いって言われてんのよ! 分かったらお子ちゃまは黙って寝てなさい!!』


「あああああああああ!! ア、ガアアアアアアアアアアッ!!!」


「レナちゃん!!」


 最後の抵抗を試みながら地面を転がりまわるあたしに、フローリアが駆け寄ってくるのが見える。

 そんなフローリアに向けて、あたしの右手が勝手に魔力を収束させ始めた。


 やめて、フローリアは何も悪くない!

 こっちに連れてこられた時は理不尽にも思ったけど、フローリアはあたしの運命を変えてくれた恩人なの!!


 あたしの叫びもアイツには聞こえず、いつか見たレオノーラの影魔法さながらのビームが放たれる。

 それがフローリアに直撃するかしないかのところで、あたしの意識は途切れた。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 あれからどれくらい寝ていたんだろう。

 気が付くとあたしは、部屋のベッドの上でフローリアに膝枕されていた。


「あ、レナちゃん起きた? どこか痛いところはない?」


 優しく声を掛けてきてくれるフローリアに返事をしようとしたけど、大きすぎる胸でフローリアの顔がほとんど見えなかった。

 アイツがフローリアの胸をかなり敵視してるのは分かってるけど、やっぱりあたしも心のどこかでそう思っちゃってるのかな。


 そんな思考を振り払いながら、まだ気怠さの残る体で返事をする。


「ちょっと怠いけど大丈夫……。今何時?」


「まだお昼過ぎよ。レナちゃんのご飯は取っておいてもらってるから、お腹が空いてるならいつでも食べれるわよ」


「そっか。ちょっとお腹空いてきてるから、もうちょっとしたら食べようかな」


「うんうん♪ じゃあシルヴィちゃんにメッセージだけ送っておくわね」


「シルヴィに?」


「うん。レナちゃんがこうやって倒れた時、いつもシルヴィちゃんが治癒魔法を使ってくれてるのよ? 流石に私でも、体のダメージまでは巻き戻せないもん」


「あぁ、そういうことだったのね……。今までシルヴィもフローリアも、何も言わなかったから分からなかったわ。あとでお礼言いに行かないと」


「うふふ! それなんだけどね? この件はレナちゃんが知ってもお礼はいらないって、シルヴィちゃんから言われてるの。何のトレーニングかまでは教えてないけど、相当ハードなことをやってるって認識はあるみたいだから気にしないでって言ってくれてたわ」


 はぁ……。シルヴィを魔術師から守りたいとか言いながら、こうやって守られてるんじゃ世話ないわね。

 あの子の優しさに甘えてないで、あたしもしっかりしないと。


 あたしの頭を優しく撫でてくれる、少しひんやりとしているフローリアの手に心地よさを感じていると、ふとあることが頭をよぎった。


「ねぇ、そう言えば来週がシルヴィの誕生日よね」


「ん? そうねー、シルヴィちゃんは三月二十四日だからもうすぐね」


「よね。そこで、いつも治癒魔法掛けてもらってるお返しって訳じゃないけど、シルヴィにサプライズしてあげたいわ」


 あたしの提案にフローリアはわぁっと声を上げると、あたしに覆いかぶさるように抱き着いてきた!


「レナちゃん天才! いいわねサプライズ誕生日! とっても楽しみだわ~!!」


「フローリア、苦し……!」


「何しようかしら!? やっぱりドッキリ? それとも王様にお願いして盛大にやっちゃう!? あ~ん、いろいろ思いついて眠れなくなっちゃいそう!」


 頬ずりしながらそう言うフローリアに呆れながらも、どうやってこの抱擁から抜け出そうかと身をよじらせていたところ。


「レナ様、失礼いたしま……あっ! も、申し訳ございません! その、お邪魔しましたっ!!」


「待ってティファニー! 絶対勘違いしてるから! お願い、帰ってきてー!!」


 恐らくあたしの様子を見に来たティファニーに勘違いされ、シリアに『真っ昼間から盛るとは何事じゃ!!』とこっぴどく叱られたけど、これはあたしに非は無いから納得ができなかった。

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