表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

372/994

354話 異世界人は特訓する 【レナ視点】

 シルヴィの娘になったティファニーが、あたし達の新しい家族になってから早一週間。

 普段からシルヴィの手伝いをすることが多かったエミリだけど、ティファニーと競い合うように率先して動いては褒めてもらうと言った流れを徹底するようになってきていて、二人がシルヴィをサポートしてくれるおかげであたしやフローリアは家でやることが無くなってきていた。


 二人から両手を引かれたり、挟むように抱き着かれるシルヴィを見る光景も多くなっているけど、シルヴィ自身も満更でもないように見えるし、これはこれで微笑ましくていいと思う。


「あたしも妹や親と仲が良かったら、あんなことできたのかな」


「ん~? 何々レナちゃん、ホームシック?」


「そう言うのじゃないけど」


 家から少し離れた場所に作ってもらったトレーニング用の広場で、木箱に腰掛けて休憩していたあたしの独り言に、隣に腰掛けたフローリアが反応してきた。

 フローリアは時々、こうやってあたしが家族からっていうか地球から離されて寂しくないか確認してくれてるけど、別にあたしは寂しさとかは感じてないから気にしないでって思っちゃう。

 それこそ、フローリアの宗派であるクロノス教の教えのように、過ぎ去った過去にいつまでも引きずられてるのもダメな話だしね。


「ふふ♪ てっきりシルヴィちゃんが羨ましいのかなって思っちゃった」


「羨ましいかどうかって言われたら、まぁ羨ましいのかも」


「あら、てっきりいつもみたいにそんなことないわよ! って言われると思ってたのに」


「ああやって可愛い子ども達に囲まれて、幸せを感じながらお母さんとして子育てしていくのに憧れるのは、別にあたしだけじゃないと思うわ」


 シルヴィだって本当だったら、子どもの頃に甘えられなかった分、誰かに甘えたい時だってあるはずだけど、あの子はそういった面を絶対に見せようとしないから尊敬する。

 それどころか、毎日を本当に楽しく幸せそうに過ごしているから、過去に縛られず今を楽しむを体現しているあの子とあたしを、つい比較しそうになる。


 って、いけないいけない。

 何で今日はこんなに感傷的になってるのか分からないけど、負の感情を抱くとまた“アイツ”が出てくるから切り替えないと。


 両の頬をパシンと叩き、箱から飛び降りてフローリアに向き直る。


「休憩終了! それじゃ、続きやりましょ」


「大丈夫レナちゃん? あまり元気が無いならやめといた方がいいんじゃない?」


「大丈夫大丈夫、気にし過ぎよ! あたしはいつも通りだから、早く始めるわよ」


 そう、今は先のことなんて考えなくていい。

 いつ、この幸せな生活に終わりが来るかなんて考えるよりも、シルヴィを狙ってる魔術師共からあの子を護れるようになる方が最優先だから。

 そのためには、ロジャー(アイツ)との戦いで残った後遺症とも言える()()を早く完璧に仕上げないといけない。


 心配そうにしながらも、トレーニング再開に向けて準備してくれるフローリアに感謝しつつ、あたしはフローリアから貰ったクロノス教のペンダントを握りしめながら、これまでの人生で感じ続けてきたどす黒い感情を想起する。

 嫉妬、劣等感、屈辱……それらを想起すると同時に、あたしの中の魔力が灼けるような熱を帯び始め、それを逃がすようにあたしを中心とした黒い桜の渦が舞い上がる。


『あは♪ あははははは! まだ性懲りもなく、あたしを制御しようと頑張ってるんだ』


 脳内に響く、毎日よく聞いている自分の声。

 その声は不快感を煽るように言葉を続ける。


『諦めなさいよ? あんたはどこに行ってもひとりぼっち。あんたが守ろうと思ってるその日常だって、あんたが望む望まないに関係なく終わるのは分かってるんでしょ?』


 うるさい。そんなことは分かってる。

 それでもあたしは今を大切にしたいし、今を守れるくらいの力が欲しい。


『カッコつけるのはいいけど……自分と無関係の人間にそんなに期待して、ダサいと思わない? シルヴィが望んだら、あたし達なんて住む場所を簡単に失うんだよ?』


 いつか、その日が来るのも分かってる。

 それを選択したのがシルヴィならあたしは何も言わないし、それに従うだけ。

 でも、それを強要してくるような奴からはあの子を守りたいの。


『あんたはいつもそう。誰かに必要とされたいのに自分の気持ちは絶対に言わない。だから友達も少なかったって、まだ分からないの?』


 それも分かってる。

 この先もずっと一緒にいたいってシルヴィに言えば、優しいあの子は大人になっても傍にいてくれると思う。シリアだって文句言わないだろうし、エミリやティファニーも歓迎してくれるはず。


『でも、断られるのが怖い。自分のせいで、この日常が終わるのが怖い。だからせめて、価値を見出してもらえるように力を付けたい。違う?』


 ……ぐうの音も出ないほどその通りよ。

 あたしは、初めて手に入れたこの優しい日常を手放したくないの。


「だから力を寄こしなさいよ! 魔力反転――憎悪に舞え、墨染(スミゾメ)(サクラ)!!」


『あっははは! いいわよ、望み通り使わせてあげる! ほら、今日も憎悪の奔流に飲まれなさい!!』


 あたしの詠唱完了と同時に、もう一人のあたしから莫大な力が押し付けられ、黒い桜の渦が弾け飛ぶ。それは暴風となって、周囲の木々の葉を舞い散らせた。


「うんうん♪ 魔力の反転で事故が起きることは無くなってきたわね、偉いぞレナちゃん! そしてその衣装も可愛いぞ☆」


「お世辞をどーも」


「お世辞じゃないもーん!」


 フローリアにはそう返したけど、あたし自身もこの衣装は結構気に入っている。

 フローリアの神衣をモチーフに、羽衣を始めひらひらとした装飾の多いこの黒の衣装は、アニメやゲームで言うところの踊り子に近いと思う。その分、肌面積も多くて露出しすぎな気もするけど、何故かこれはこれでいいと思えるのが不思議なのよね。ホント、シリア様々って感じ。


「それじゃあ、今日の目標は五分ね! それまでで危なくなったら、すぐに言うのよレナちゃん」


「分かったわ。それじゃ、行くわよ!!」


 フローリアの背後に大きな時計が表示され、それが制限時間だと確認したあたしは、一秒も無駄にしないようにと弾丸のように飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ