350話 魔女様は持て囃される
初めに私達に興味を示してくださっていたその男性は、苦笑しながら先ほどの言葉の意味を説明してくださいました。
「なんとなく分かってましたよ魔女様。だいたい、兎人族はもっと小っちゃくて子どもみたいな体形が多いんです。それなのに、魔女様みたいな発育の良すぎる兎人族が現れたら、そりゃあ誰だって違和感は覚えますって」
「そうですよ。でもなんか訳ありっぽかったんで、誰も気にせず“兎人族の店の宣伝なんだ”って楽しむようにしてたんです」
相槌を打つように前に出てきた男性に、周囲の皆さんが頷いたり同意を示しています。
皆さんを騙すような形を取っていたことを謝ろうと口を開きかけましたが、それを遮るようにもう一人の方が前へ出ながら優しい声色で言いました。
「植妖族も、根っからの悪人じゃないってことくらい俺達分かってますよ。ただまぁ、奴隷商に逆らうと後が怖いんで、俺達も親身になってやれなかったって言うか」
「お前さん達はこれから、魔女様の下に帰るんだろ? でもよ、たまにはあの花園の手入れに顔出しに来てくれよ。俺達だけじゃ、花の良し悪しは分らねぇからさ」
「そうだぞ。あの花園はお前達が丹精込めて育ててた場所だってみんな分かってるんだ。あそこはそのまま残しておくからさ、また遊びに来いよ」
「……今まで皆には、本当に迷惑をかけた。すまなかった」
「絶対、絶対また遊びに来るから! それまで、私達だと思って大切に育ててね!」
「あぁ! それに、魔女様が兎人族の酒場からこっちの方にルートを作ってくださるのは本当なんだろう? それが出来上がったら俺達も行くから、お前さん達も帰ってこい! 皆待ってるからさ!」
なんとも人情溢れる方々です。
私まで少し涙ぐみそうになってしまいましたが、シリア様に小声で『お主まで泣きそうになってどうする、このたわけ』と叱られてしまったので、ぐっと堪えます。
「なるべく早く、私達の森まで安全に来られるルートは用意します。その際には、ぜひ遊びにいらしてください。きっと兎人族の皆さんも喜びますので」
「もちろんだ! 魔女様にも会いに行くぜ!」
「そういえば、魔女様は森で何かやってるのかしら?」
「私は森の皆さんのために、小さな診療所を営んでいます。狩りで生計を立てていらっしゃることから、怪我が絶えない方々ですので」
私の返答に、一気にざわめきが発生しました。
やはり魔女である身の私が、診療所を営むことはあまり良くないのでしょうか。
「ま、魔女様。その診療所では、どの程度までの怪我を治していただけるのですか?」
「え? そうですね……死んでしまっていない限りは、大半は治せると思います。魔獣の毒なども対応はできます」
「それ、おいくらくらいなの?」
「森の皆さんが相手なので、基本は狩りの獲物を一部分けていただくくらいですが……。街で降ろしているポーションが銀貨五枚なので、それくらいで十分かと」
「やっす!! 待ってくれ、いや待ってください魔女様! 例えば、コイツの怪我とか治せますか!?」
「いてて! おい、そんな押すなよ!」
そう言いながら前に押し出されたのは、腹部を血で染まっている包帯で覆っている一人の男性でした。
ぱっと見た感じですが、鋭利な角か何かで貫かれてしまっているようにも見えます。
アイコンタクトでシリア様に許可をいただき、彼に近づいて触診をしながら魔力を流し込み、状態異常に陥っていないかも併せて確認します。すると、微弱ですが毒素が体を蝕んでしまっているのが分かりました。
「これくらいならすぐ治せます。ポーションでも問題は無いと思いますが、どちらにしますか?」
「で、では、せっかくなので魔女様に治していただければと」
「分かりました。少し傷口が熱くなるかもしれませんが、我慢してくださいね」
膝立ちになり、包帯を外して傷口に治癒魔法を掛けます。
町の皆さんが見守る中、傷はどんどん塞がっていき、一分も経たずに完治することができました。
続けて浄化魔法で毒素を取り除くと、やや血色の悪かった肌は元通りの肌色へと戻っていき、治療を受けていた当の本人から歓喜の声が上がりました。
「すげぇ……。本当に治っちまった!!」
「これで大丈夫だと思いますが、まだ痛む場所とかはありますか?」
「無いです! あ、いけねぇお金お金……。本当に銀貨五枚でいいんですか?」
「えぇ。別にお金が欲しくてやっている訳ではありませんので」
「ありがとうございます!」
彼からお代を受け取ると、見守っていた方々から盛大な拍手が送られました。
気恥ずかしさから意味も無く皆さんに頭を下げ、転移の準備に戻る私に次々と歓声が送られてきます。
「すげぇよ魔女様! こんなの、大神官様クラスの治癒魔法だよ!!」
「流石は魔女様ね! こんな凄腕の治癒魔法の使い手なんて知られちゃったら、ぼったくりの聖職者達から仕事が無くなりそう!」
すみません、もう既に一部では仕事が減ってしまっているようなのです……。
とは言えないので、あまり騒ぎにならないようにと釘を刺させていただきましょう。
「あの、私がここに来たことと、森で診療所を営んでいることはどうか内密にお願いします。魔女はあまり目立ってはいけませんので」
「当然です! ですけど魔女様、俺達も怪我した時は診ていただいてもいいですか……?」
「はい。少し遠いかもしれませんが、診療所までお越しいただければ傷を診ますよ」
「ありがてぇ……! ぜひ寄らせていただきます!」
『くふふ! ほれ、いつまでも騒いでおると本当に目を付けられかねん。さっさと帰るぞ』
話しの切り上げ時が分からなくなりそうになっていたところをシリア様に助けていただき、改めて転移魔法を実行することにします。
「それでは、私達はこれで失礼します。――転移!」
シリア様の魔力干渉を感じながら転移魔法を起動します。
一瞬の浮遊感の後、私達は無事に、見慣れた私達の家の前に帰ってくることができました。




