336.5話 幸せな王女は夢を見る・9
今日は新章開幕ということで、1時間後に本編を投稿します!
よろしければそちらもお読みくださいー!
広い浴場に、私の鼻歌がこだまします。
明日に迫る私の誕生日を前にして、はしたないとは理解はしていますが、どうしても気分が浮ついてしまうのです。
昨年は、本当に多くの方々からお祝いの言葉もいただけて、とても幸せな誕生日を迎えることができました。
今思い返すだけでも楽しい気持ちになれますが、それに比較するように今年の誕生日のことを考えると、少しだけ申し訳なさがこみ上げてきます。
「魔王軍と魔女が攻め込んできているというのに、私が浮かれていてはいけませんね」
かつて、ご先祖様が勇者一行と共に討伐を果たした魔王軍。
魔女狩りが行われてから、表舞台から姿を隠していた魔女。
どういう理屈かは分かりませんが、その二大勢力が結託してこの王都に攻め込んで来ている現状では、国民の皆さんから見ても私の戴冠を心から祝福はしていただけないでしょう。
それに、○○○○様が王都に張ってくださっている結界も、いくら強力であるとはいえ、数多の魔女や魔王を前にして耐えきれるかどうかも分かりません。
湯船に口元まで浸かり、浮かれていた自分を落ち着かせます。
再び起こるとはだれも予想だにしていなかった世界大戦を前に、国民は不安でいっぱいのはずです。
こんな状況で、私が戴冠しても余計な不安を搔き立たせてしまうのではないでしょうか。
○○○○様、どうか我等をお守りください。
きゅっと瞳を閉じ、水面下で祈るように手を握ると、少しだけ心が軽くなるのを感じました。
大丈夫です。私達には○○○○様がついていらっしゃいます。きっと、この先もグランディアの民を護ってくださるでしょう。
気持ちを入れ替えるようにお湯で顔を洗い、天窓から見える夜空を眺めます。
ぼんやりと眺めていると、夢の中での私が十七歳の誕生日を迎えた日も、綺麗な夜空だったことを思い出しました。
「シリア様……」
その中でも一際煌めいている星々を眺めながら、ふと夢の中で出会った神様の名前が口をつきました。
私は何故、あの神様の名前を呟いたのでしょう?
分かりません。ですが、何故でしょうか。何だかとても、心が落ち着くような、親しみのある名前に感じられます。
それはまるで、私自身がその名前を口にしなかった日がなかったかのような安心感で――。
そう考えていると、突然頭の中がビキッと嫌な痛みを訴えました。
痛みに顔をしかめながら、首を正しい位置に戻します。すると、だいぶ痛みが和らいでいく気がしました。
もしかしたら、のぼせてしまっていたのかもしれません。
私はゆっくりと湯船から体を出し、給仕の方が待つ脱衣所へと歩を進めました。




