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336話 女神様はメイド好き

 カイナから帰った翌日。

 我が家の別棟である広いリビングでは、カイナでの生誕祭には遥かに劣るものの、ささやかなフローリア様のお誕生会が開かれていました。


「それじゃ、打ち合わせ通りにいくわよ!」


 レナさんの言葉に頷き、クラッカーを扉へと向けて構えます。

 扉のドアノブがガチャリと回ったのを確認したレナさんは、先陣を切って挨拶の口上を述べました。


「お帰りなさいませ、お嬢様!」


「「お帰りなさいませ、お嬢様!」」


「やぁ~ん! なんて可愛いメイドさん達なの!?」


 私達の笑顔に迎え入れられたフローリア様は、外出から帰ってきたという設定も忘れてそんな感想をこぼしました。

 そんな彼女に、シリア様が前足でテーブルを二度叩いて、「今日は私が主役!」と書かれたタスキをつけさせます。


「あら!? こんな可愛いのまで作ってくれちゃって! ホント素直じゃないんだから~!」


『妾とて、祝いの席くらいは余興に付き合うぞ? ほれ、さっさと座れ』


「えぇ~? もうちょっと、うちの可愛いメイドさん達を愛でさせて~?」


 彼女はそう言うや否や、手始めにレナさんをぎゅっと抱きしめ始めました。

 頬ずりされながらもがいているレナさんを見ながら、次は私達の番でしょうかと苦笑してしまいます。


「お姉ちゃん、メイドさんの服可愛いね!」


 無邪気にそう笑うエミリに、私は微笑み返します。

 今日はフローリア様のための誕生日会ということで、彼女の何かやりたいものは無いかと尋ねてみたところ。


「そうね~……。あ、一日だけお嬢様になってみたいわ!」


 という提案から、レナさんの世界にある“メイド喫茶”と呼ばれるお店のロールプレイを行うことになっています。

 そんな私達の衣装はというと、私はごく一般的なロングスカートタイプのもの、エミリはややゴシック色の強いミニスカートタイプ、レナさんは異世界の給仕服の一種である“和ロリ”と呼ばれるものをそれぞれ着用しています。

 ちなみに、シリア様はいつもの猫姿の頭の上にちょこんとカチューシャをつけています。これが何とも愛らしいのですが、それを口にしたレナさんが引っかかれていたので、シリア様からするとあまり好ましくはなかったのかもしれません。


「でもやっぱり、メイナードくんは様になるわね~。ほらほら、お嬢様のお帰りよメイナードくん?」


「……お帰りなさいませ、お嬢様」


「んん~! いい、いいわ! たまにはイケメンを愛でるのも悪くない!!」


 フローリア様から絶賛をいただいているメイナードは、久しぶりの人型を取っています。

 確かに、メイナードの長身とシャープな顔立ちに加え、スタイルの良さを際立たせる執事服は、彼の良さをより引き出しているようにも見えます。


 ひとしきりレナさんを愛で終えたフローリア様は、エミリを抱き上げながらテーブルに着くと、すっかり令嬢になり切った口調で私に言います。


「喉が渇いたわ。お茶をいただけるかしら?」


「かしこまりました、お嬢様」


「うふふ! 王女様のシルヴィちゃんをメイドさんとして扱うなんて、こんな背徳感中々ないわよシリア!」


『お帰り口はあちらになりますお嬢様』


「ちょっとぉ! お嬢様を帰らせるメイドとか失格じゃない!?」


 ぷりぷりと怒るフローリア様を微笑ましく見ながらお茶を差し出すと、彼女は香りを楽しんでから一口啜り、にぱっと笑顔を咲かせました。


「はぁ~美味しい! あ、でもやっぱりお茶にはお菓子が欲しいわね。レナちゃん、お菓子をいただけない?」


「はーい、少々お待ちくださいませ!」


 こちらもなり切っているレナさんが服の袖を揺らしながらキッチンへ向かい、予め用意しておいたケーキを手に戻ってきます。


「お待たせいたしました! こちら、“きゅんかわ☆雪解けフローズンアイスケーキ”になります♪」


「わぁ! ふわふわで美味しそう~! あ、レナちゃんあれやってあれ!」


 フローリア様は両手でハートを描くと、自身の胸のあたりでそれを左右に揺らします。

 それを見たレナさんは、一瞬ピシリと体を硬直させましたが、やや引きつった表情で聞き返しました。


「美味しくなるおまじない、でよろしいでしょうか?」


「そうそう! きゅ~んってやるやつ!」


 レナさんはちらりと私の方へ顔を向けました。その顔には、「助けてシルヴィ」と書かれています。

 私は小さく首を横に振り、「私には分らない文化なので」と意思表示をすると、レナさんはさらに泣き出しそうな表情を浮かべます。

 フローリア様が所望しているおまじないは、そんなにやりたくないものなのでしょうか?


 逆に気になってきた好奇心を抑えながらレナさんを見守っていると、レナさんは小声で「大丈夫、今のあたしは十二歳、今のあたしは十二歳」と呟き、自分を納得させようとしていました。

 そして大きく深呼吸をしたかと思うと、努めて明るい笑顔を浮かべながらフローリア様に言いました。


「では、お嬢様が美味しくいただけるように、精一杯おまじないを掛けさせていただきますね! お嬢様もぜひ、ご一緒にどうぞ! せ~のっ」


 レナさんはフローリア様がやっていたように両手でハートを作り。


「美味しくな~れ、萌え萌えきゅん♪ 幸せいっぱい、萌えきゅんきゅ~ん♪」


 腰と手を左右にフリフリしながら、謎の呪文を唱え始めました!

 二回目のその呪文の詠唱には、フローリア様まで一緒に唱え始めています。

 これが異世界で料理を美味しくするための魔法なのでしょうか……と見守っていると、レナさんが仕上げと言わんばかりにケーキに向けてハートマークを作りながら言いました。


「萌え萌え……きゅ~ん! さぁ、召し上がれ!」


「いっただっきま~す!」


 幸せそうにケーキを頬張るフローリア様とは対照的に、これ以上ない屈辱を受けたと言わんばかりにこちらを涙目で睨みつけてくるレナさん。

 私はきっと、この時のレナさんの表情は忘れることは無いと思います。


 レナさんには申し訳ないですが、あの魔法を知らなくてよかったと安堵していると、突然フローリア様が誰もいない空間に向かって声をかけ始めました。


「あら? どうしたのコーちゃん、お仕事は?」


 それに応えるように空間が歪み、その歪みを通して元気いっぱいなコーレリア様が姿を見せました。


「うぇ~い! バリ暇ヴィーナス、コーレリア様だゼット! とりまシルシル宅にお邪魔してみたかった次第ー……って、何やってんのこれ? メイド喫茶的な?」


「そう! 今日は私の誕生日会ってことで、みんながメイドさんとしてお祝いしてくれてるの~!」


「マージの助!? お姉が祝ってもらえんならウチも呼ばれてないとおかしくね!? つー訳で、ウチもメイド喫茶ジョインしまぁす! よろた~ん!」


「うぇ~い! お嬢様お帰りなさいませ~!」


『帰れお嬢様! またエミリが阿保になる!』


 またコーレリア様に感化され始めたエミリを前にシリア様が吠えるも、コーレリア様は言っている意味が分からないと体で表現しながら言い返します。


「ちょいちょいシリア、メイドちゃんがご主人様にそんな言葉遣いして許されると思ってる系? ね~エミリん? せっかくの誕生日会なんだからアゲてかないとねぇ?」


「うん! バイブスアゲめでご奉仕する!」


「なっはははは! 期待値高まるくん~!! あ、とりまそこの絶きゃわメイドのシルシル、ウチにもお茶クレメンス!」


「わ、分かりました」


「うふふ! 今日は賑やかになりそうね~!」


「今夜はパーリナイっしょ! アゲてけアゲてけ~?」


「うぇ~い!!」


 楽しければ何でもいいフローリア様と、何故か息があっているコーレリア様とエミリに、私達は疲れた顔で笑いあうしかできませんでした。

【作者からのお願い】

今章も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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