8話 異世界人も家族になる
死と隣り合わせの抱擁から解放され、魔力がごっそり持って行かれたような感覚に陥りながらも席に着き、レナさん達のお話に戻ります。
フローリア様はレナさんを膝の上に座らせ、ぬいぐるみを抱くかのようにレナさんを抱きしめています。レナさんもレナさんでもう慣れている様子で、達観した顔でなされるがままになっていました。
シリア様が不安になり『お主、嫌なら嫌と言わねば分からぬぞ……?』と気遣っていましたが、当の本人は――。
「いやー、重いんだけどさ? 不思議と幸せな気持ちになるんだよね。何でだろうね、あたしには今も昔も無かったものだからかな。ははは」
と、自虐めいた笑みでそう答えていました。失礼な話ですが、どうやら地球にいた頃も胸は育たなかった模様です。「こっちでは期待してるんだけどねー」と胸を擦りながら呟く彼女は、虚無の目をしています……。
別に胸の大きさがどうとは思いませんが、かなり気にされているようですので強引に話を変えることにします。
「え、ええっと。レナさん達はこの後はどうされるのですか? 家が遠ければ送っていくこともできますが」
「まぁ、シルヴィちゃんはホントに優しいわね~!」
「うんうん。でも、気持ちだけ受け取っておこうかな。あたし達どこに住んでるとか無いから、また街に戻って宿でも取ろうかって考えてたし」
『待て。お主、魔女を名乗るため魔法の特訓をしていたと言っておったが、それはどこでやっておったのじゃ?』
シリア様の質問に二人は顔を見合わせ、同時に指を上に立てました。
「「天界?」」
『……続けるが、魔女と認められ地上に降りてきたのはいつじゃ』
「ちょっと前よね?」
「うん」
お話を纏めると、彼女達は大神様からお墨付きを得た後、私がポーションを卸している街の付近にたまたま現界した。ということでしょうか。そしてそのまま、私達に会いに来たと。
それってつまり――。
「お二人とも、変な質問ですが。お金とかは持っているのですか?」
「「……あっ!」」
やはりそうでした。いくらなんでも人間に冷たくはありませんか、大神様……。
揃えて顔色を青ざめるお二人が不憫に思え、ちらりとシリア様に目でお伺いを立てます。シリア様もさすがにこればかりはといった表情で、深く、深ーく溜め息を吐きながらも私の意図を汲んでくださいました。
『……幸い、我が家は部屋が余っておる。食料も多量にある故、一人や二人増えたところで痛手にもならん』
「えぇ~!? いいのシリア!? やったぁ!」
『シルヴィに夜這いなぞしおったら叩き出すからな!!』
「し、しないわよ失礼ね。私にはレナちゃんがいるも~ん」
「あたし一人部屋がいい……」
「レナちゃんそんなこと言わないで~! いつもみたいに一緒に寝ようよ~? ね? ね~?」
『すまぬレナ、部屋はその色欲魔と相部屋で頼む。妾達以外にも住んでいる家族がおってな』
「ううん、泊めてくれるだけありがたいわ。ありがとう二人とも!」
レナさんには申し訳ないですが、シリア様からお許しも出ましたし、お二人は当面うちで生活していただきましょう。無一文で野宿とかは笑えない冗談ですし。
『じゃが、無論タダで済ませる訳にはいかぬ。ここで生活する以上、きっちりと働いてはもらうぞ?』
「もちろんよ! そこまでおこがましくは無いわ!」
「え、普通に泊めてくれるんじゃないの? ……うそうそ、冗談だってば。だからそんな怖い顔しないで? ね?」
『そこの阿保女神は妾の手伝いをせよ。して、レナはシルヴィの手伝いをせよ。魔女は魔女同士、共にいた方が何かと刺激になるじゃろ』
「シルヴィの手伝いって、何をすればいいの?」
レナさんに尋ねられ、詳しく説明しようとした時でした。食堂の扉が少しだけ開かれ、エミリがひょっこりと姿を出しました。
「お姉ちゃん、一階のお掃除終わったよ」
「え、エミリ!?」
私は咄嗟に立ち上がり、エミリを庇うように抱きます。なぜならフローリア様がエミリを目ざとく見つけて、また暴走されては困ります。いくらフローリア様でも、私の可愛い妹には手出しはさせません。
「やだ、そんな怖い顔しないでシルヴィちゃん。私だって誰彼構わず手を出してる訳じゃないのよ? ちゃ~んと見極めて、この子は食べられ――可愛がって良さそうかなって思ってから手を出してるんだから」
「今食べるって言いましたよねフローリア様? フローリア様の性的嗜好は特に言うことはありませんが、エミリには絶対に手を出さないでくださいね?」
「分かってるってばぁ! ……ねぇシリア、シルヴィちゃんの雰囲気がちょっと怖いんだけど……」
『エミリはシルヴィの愛しの妹じゃからな。姉として守ってやらねばと構えておるんじゃろ』
警戒を強めながらフローリア様の動きを見ていると、下からエミリが声を上げました。
「お姉ちゃん、あのお二人はお客様?」
「お客様と言うよりは何でしょうか……。今日からしばらく、うちに泊まるお友達ですね」
「そうなの!?」
ぱぁっと顔を輝かせ、私の手をすり抜けてレナさん達の方へと駆け寄っていってしまいました。何もされないといいのですが……。
エミリはレナさんの手を取り、満開の笑顔で自己紹介を始めました。
「わたし、エミリって言います! わたしもお友達に入れてもらえますか!?」
「えっ、う、うん……。あたしはレナ、よろしくねエミリ」
「レナちゃん! うん、よろしくね!」
見た目はエミリと同じくらいなので、同い年のお友達ができたと喜んでいるようです。尻尾がちぎれそうな勢いで左右に振られています。
それをクスクスと笑いながら、フローリア様がエミリに自己紹介を返しました。
「よろしくねエミリちゃん。私はフローリア。レナちゃんのお姉さんだと思ってね~」
「フローリアさん! よろしくお願いします!」
フローリア様には敬語を使うあたり、エミリの中では距離があるのでしょう。これなら近づきすぎてしまうことも無さそうですし、とりあえずは一安心です。
何かあれば私が絶対に守ってみせますが、と思っていると、私の肩にメイナードが止まりました。
『随分と今日は賑やかだな、主よ』
「あぁメイナード、ちょうどいいところに来ました。あなたのことも紹介しなくてはいけません」
『紹介だと?』
「レナさん、フローリア様。こちらが私の使い魔のメイナードです」
『……。我が名は天空の覇者、メイナード。カースド・イーグルである』
めんどくさそうにしながらもきちんと挨拶をするメイナードに、二人が異なる反応を示しました。
「まぁ! カースド・イーグルだなんてシルヴィちゃん、凄いのを使い魔にしたのね!」
「へぇ~、カラス? 鷹? よく分かんないけどカッコイイじゃない」
『小娘、我をカラスだの鷹だのと二度と呼ぶなよ? 主ですら治せないくらいに八つ裂きにしてやるぞ』
「ふぅん? 言うじゃない。あんたみたいなちんちくりんに、あたしは負けないっての」
「ちょっとレナちゃん! ダメよ挑発しちゃ! カースド・イーグルって言うのは、空の生き物の中で最高位の生き物なのよ? 今のレナちゃんじゃ秒殺よ?」
「うぇっ、そうなの!?」
顔を引きつらせて焦り始めるレナさんを、つまらなそうに見下しながらメイナードが言い捨てます。
『ふん。たかが小娘ごときの安い挑発を買うような我ではない。だが二度はない。せいぜい口を慎めよ』
「なっ、何なのよあいつ! えっらそうに……!!」
『偉そうではない。強くて偉いのだ。分かったかちんちくりん』
「はあああああ!? あったま来た、やってやるわよ!! 外に出なさいよあんた!!」
逆に挑発に乗ってしまったレナさんが席を立ち、ドタバタと外へ向かって行ってしまいました。まさか、本気でメイナードとやり合うつもりなのでしょうか……。
「メイナード、本気は出さないでください。あの子は私の友達です」
『我が本気を出せば、主の護りがあると言えどこの一帯が吹き飛ぶぞ? 軽く遊んでやる程度だ、気にすることはない』
物騒なことを言いながらもしっかりと手加減をしてくれることに安心しました。
メイナードは器用に窓を開けると、外へ飛び立ちながら元の姿に戻り、恐らく下で準備していたであろうレナさんをさらに挑発し始めます。
『来るがいい小娘。お前如き、我が力の一割を出す価値もない。だがお前は本気で来なければ死ぬぞ』
「どっこまでもムカつくわねあんた! 上等よおおおお!!」
そして外から激しい打撃音と、家に軽く響く振動が伝わり、二人がぶつかり始めたことを認識させます。
後で家の防護結界を強めておくとしましょう。うっかり壊されてはたまりません。
「レナちゃん、結構単純だからね~。ああやって挑発されちゃうとすぐ乗っちゃうのが痛いところよね。大神様にお稽古をつけてもらっていた時もね……」
『何、大神様が自ら稽古をつけておったのか? 何とも珍しいな、詳しく聞かせよ』
女神様同士の会話にも花が咲き始めましたし、私はポーションでも作りましょうか。
「エミリ、ポーションを作るのでお手伝いをお願いできますか?」
「うん!」
ますます賑やかになる我が家と、新しくできた初めての友達。
私はどんどん楽しくなる日々が嬉しくて仕方がありませんでした。
あ、そう言えばレナさんにお仕事の説明をするのを、すっかり忘れていました。
「ちょっとおおおおお!! 降りてきなさいよ! 卑怯だと思わない訳!?」
『くはははは!! 飛べないお前が悪いのだ。悔しいか? 悔しければ飛んで見せろ! お前には無理だろうがな!』
「絶対、叩き落す!!!」
……あっちはあっちでヒートアップしていますし、また今度にしましょう。




