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321話 ギャル女神様は理不尽

「……という事がありまして」


「なっはははは! シルシルってば対ガチムチ特攻のチャームあるんじゃね!?」


「言葉の意味はよく分かりませんが、私は好きで彼らのような方と縁がある訳ではありません……」


 無事に彼らから逃げ切り、逃げた先にあった“ミルミルク”というお店で朝食をいただくことが出来た私達は、祭典会場前で合流したレナさん達にさっきの出来事を話していました。

 レナさんはまたかというような顔を浮かべていましたが、初めて聞いたコーレリア様は変な笑いのツボに入ってしまったらしく、かれこれずっと笑い続けています。


『じゃが、ミルミルクとやらで出された食事は美味かったな。ネイヴァールで出された乳製品には及ばぬが、あれもなかなかじゃ』


「そうっしょ? バッチコイ屋もちょー美味いんだって、明日行ってみ? マジパないから!」


「遠慮しておきます……」


 獣人族の皆さん、魔術師のマリアンヌさん、そして魔導連合の豪快なあの方、極めつけにバッチコイ屋の店員の方々……。何故、私はこうも行く先々で筋肉を見せつけられなくてはならないのでしょうか。

 この先も同じように見せつけられるのなら、いっそ家に引きこもっていましょうかとも考え始めた時、整列していた音楽隊の方々が一斉にファンファーレを奏で始めました。


 それに続いて空間に大きな割れ目が入り、中から楽しそうに踊っている男女の集団が現れ、その後ろから見たことも無い乗り物の上で両手を振っているフローリア様が出現しました。


「何あれ……。エレク〇リカルパレードみたい」


「流石レナちー、ご明察!! あれはウチが考案した、カイナ流エレク〇リカルパレード! 名付けて……カイナマジカルパレードでーす!!」


 まるで小さな大聖堂かとも思える謎の乗り物に立っているフローリア様は、満面の笑顔を浮かべながら集まっていた皆さんに対して投げキッスを飛ばしています。

 それを受けて涙ながらに拝み始める方や、歓声を上げながら手を振り返す人、更にはゆっくりと移動していくフローリア様達を追いかけ、一緒になって踊り始める方まで出てきました。


 何でしょうか。宗教都市と聞いていたので、もっと厳かなイメージかと思っていたのですが、私のイメージ力は全く役に立たないようです。

 それはレナさんも同じ感想であったらしく、私の気持ちを代弁してくださいました。


「宗教とかのお祭りって、神を称えて聖歌を歌ったり祈りを捧げたりーって言うのがメインなイメージだったけど、こっちの世界ではテーマパークもびっくりなハイテンションっぷりなのね」


「んな訳! これは今年からで、今まではレナちーのイメージで合ってるよ」


「えぇ? なんでまた、こんな派手派手な感じにしちゃったの?」


「教皇的に言えば、“女神様を称える信徒を増やし、カイナをよりよくうんたらかんたら”って感じだけど、ウチ的に言えば今まで何も面白くなかったし、そろそろ世代交代じゃね? 的な?」


「世代交代にも程があるでしょうよ!! 温故知新って言葉は学ばなかったの!?」


「オンコ? 何それ? ってかレナちー、ウチに異世界言葉で説教とかマジナンセンスだわ。ウチこの世界の神様なんで、そこんとこよろしく」


「こ、この理不尽感、フローリアそっくりだわ……!!」


 わなわなと身を震わせるレナさんを見て、コーレリア様がケラケラと笑います。

 結局どうしてお祭りの雰囲気が変えられたのかはよく分かりませんでしたが、ここまで変えてしまうと街の人達からしてもついていけなくなってしまうのでは無いのでしょうか。

 そんな心配をしつつ周囲を見渡すも、私の心配など無駄だとでも言うかのように、あちこちで盛り上がってしまっているようでした。


『カイナは神を重んじた良き街であったはずなのじゃがなぁ……。これも時代か』


「分かってんじゃんシリア! さす猫!」


『分からん言葉で貶すのはやめよ!!』


「なはは! まっ、たまには派手にぶち上げた方が息抜きってもんっしょ? クロノス教徒は頭カッチーンだから、このお祭りに乗じて異教徒と絡んで欲しい訳よ」


『頭が固いと言いたいのか? まぁ言わんとすることは分かるが、やや荒療治過ぎぬか?』


「これでも、街の声的なサムシングを拾った上だし? なーんも心配しなくていいって言うか、むしろこれを望んでたのはあいつら的な?」


 そう言いながら、コーレリア様は一枚の書類を取り出しました。

 そこには、カイナに住む方に向けたアンケートが書かれているようです。


 コーレリア様が指で示す項目を、レナさんが読み上げます。


「何々? 祭典は例年通りに静かに行いたいですか? それとも、年に一度のお祭りを派手に楽しみたいですか?」


「これのうぇい派がまー多くてさ! 全体の九割を占めてた訳! んじゃあもう、思い切るしかないっしょって!」


『ほぅ、ほぼ全住民が賛同しておったのか』


「ここの人達、お祭り大好きなのかな?」


「どうでしょう……。信仰されている神様がフローリア様ですし、あながち間違いでも無いかもしれません」


「お姉もウチも、楽しいことはウェルカムエブリディな訳! そんなウチらを信仰してんなら、信徒もぶち上がりたいに決まってんじゃん!」


「理論無茶苦茶過ぎて、もうどこからツッコめばいいか分かんなくなってきたわ……」


「細かいことは気にするだけ無駄! ほら、ウチらも混ざってバイブス上げてくよー!!」


「えぇ!? お、押さないでくださいコーレリア様ぁ!!」


 無理やり参加させられ、街を一周しながら踊り歩いた私達は、お昼を迎える前に力尽きるのでした。

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