316話 魔女様とサキュバスのエステ
続いて私達が向かった先は、コーレリア様が息抜きに愛用しているというマッサージ店だったのですが。
「帰るわよシルヴィ」
「えぇ。帰りましょうか」
『帰るぞ』
「あれ、帰っちゃうのお姉ちゃん?」
「ちょちょちょちょ、ちょい待ち~!! まだ入ってすらないじゃん!!」
「いやだって、こんなの見ればわかるじゃない!!」
レナさんが吠える理由も、私達は深く頷いてしまいます。
そこは、所謂ちょっとえっちなマッサージ店だったからです。
こんなお店に、子どもであるエミリを連れて行こうとしたコーレリア様の思考も疑いたくなりますが、様式美とも思えた街並みの中に、しれっと溶け込んでいるこの街にも疑問を感じざるを得ません。
「待って待って! 別にアレな店じゃないって!」
「嘘よ! こんなキッツイピンクでサキュバスが書いてある店とか、どう考えてもそっちの店じゃない!!」
「ガワだけだから! マジマジ!!」
コーレリア様は必死に否定していらっしゃいますが、これはどうやっても否定できないと思います。
やはり、こういった部分も姉であるフローリア様譲りなのですねと、小さく溜息を吐きながらエミリの手を引いて移動しようとすると。
「はぁ~、スッキリスッキリ!」
「余剰な魔力を吸ってもらうって、やっぱ大事よね~」
「ね~!」
お店の中から、二人の女性客がそう話しながら出てきたのです。
彼女達の言葉に、私達は意味が分からず呆けてしまい、快調そうに歩いていくその後ろ姿を見送ります。
「ほら言ったでしょ!? ここはサキュバスが体内の余剰エネルギーを吸い取ってくれる店! やばたんな店じゃないの!」
「だとしても、サキュバスが運営しているとなると……」
「やっぱり、そうよねぇ……」
私とレナさんで顔を見合わせてそう言うと。
『……じゃが、レオノーラもサキュバスには違いが無いぞ』
と、シリア様に言われてしまい、確かにと頷かざるを得ませんでした。
本当にサキュバスの中でも、その、えっちなことをしてこないお店が存在するのでしょうか。
些か信じられない気持ちではありますが、レオノーラやミナさんと言った前例がある以上、その可能性がゼロではないことを裏付けています。
「そのレオノーラって人は知らないけど、サキュバスだからってそういう偏見を持つのはアウトっしょ! ポリスメン来てお縄だし!」
「流石に偏見持ってるだけで警察は来ないと思うけど」
「とりま試してみてって! 魔女的には最高なはずだから!」
「わあああ!? ちょっと、押さないで!!」
コーレリア様に背中を押されながら、レナさんがお店の中へと入っていきました。
私はシリア様にどうするべきかと視線で指示を仰いでみましたが、『行くしかなかろう』と返されてしまい、渋々その後に続くことにします。
店内は少し薄暗く、ほんのりと甘い香りが充満していました。
受付と思われる場所には、露出の激しいサキュバスの女性が立っていて、私は咄嗟にエミリの視界を塞いでしまいます。
「はろはろ~。三人だけど、今行ける?」
「あら、コーレリア様! 今日はお友達も一緒?」
「そっそ。カイナお初ーって感じだから、ならここっしょ! ってね」
「ふふふ! カイナの名物として紹介してくれるなんてありがたいわ! 三人って言うと、そこの獣人のお嬢さんも?」
ちらりと視線を向けられたエミリを、私はそっと背後に隠します。
すると、コーレリア様はなははと笑いながら手を振りました。
「あの子はまだ早いっしょ。ウチと、そこの二人で三人」
「分かったわ。それなら、今は個室が二つしか空いてないから二人相部屋になっちゃうけど、それでも大丈夫?」
「あ、ならウチとレナちーで相部屋にして。んでんで、あの子はちょい特別だから、二人以上付けてあげて」
「あらあら、そんな特別なお客様なんて珍しい。じゃあ、獣人のお嬢さんは子ども部屋で預かっておくわね」
「あざまる~!」
「ふふ、それじゃあ可愛いお嬢さん。お姉さんとちょっと遊びましょうか」
「え? え? お姉ちゃん、わたしはこっちなの?」
「みたいです。サキュバスのお姉さんと、少し遊んでいてください」
「うん……」
やや不安そうにしながら、新しく出てきたサキュバスの方に手を引かれて、エミリは別室へと向かっていきました。
お店とは言え、本当に大丈夫なのでしょうかと不安になっていると、私の足下にいたシリア様がこっそりとその後を追って行きます。
『こっちは妾が見ておいてやる。安心するが良い』
『すみませんシリア様。ありがとうございます』
念話でシリア様にお礼を告げ、カーテンの奥から別のサキュバスの方に連れられて、私達も移動を始めました。




