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313話 ギャル女神様は遊びたい

「なっはははは! だーかーらー、ごめんって言ってんじゃん! ほら、詫び飯食べて食べて?」


「普通にご飯って言いなさいよ……。ソシャゲじゃないんだから」


「あ、分かる系!? さーっすがレナちー! よっ、異世界じーん!」


「それ褒めてんの!?」


 結局、彼女は本当にフローリア様の妹であり、【空間の女神】であることに間違いは無かったらしく、「てか、いつまでも立ち話とかあり得なくね? ウチお腹ペコ丸だから、とりま付いてきて」とのことで連れていかれた先は、路地裏にある小さな食堂でした。

 こんなに小さなお店であのテンションで話し続けられると、お店の方に迷惑が掛かってしまうのでは? とも思いましたが。


「今日はご友人の皆様がご一緒なのですね、コーレリア様」


「そっ! この子がレナちーで、そっちがシルシル、隣のモフ耳がエミリん! んで、この猫奴がウチと同じ女神のシリアって感じ」


「いや説明雑でしょ! シルヴィに至っては名前分かんないし!」


「なっはははは! レナちーツッコミ上手くね!? GJ!」


「あんた、フローリア以上に異世界に染まり過ぎよ……」


 レナさんに向けて親指をぐっと立てている仕草は、確か“ぐっじょぶ”だったと思いますが、いつの間にか“じーじぇい”に名前が変わっていたようです。

 もう彼女が何を言っているのかほとんど分からないので、通訳はレナさんにお任せすることにして、店主さんに騒がしくしてしまっていることを謝りがてら、色々と聞いてみようと思います。


「すみません、騒がしくしてしまいまして……。私達は今日、初めてカイナに来た者です。私の名前はシルヴィと言います」


「そうでしたか。ご丁寧にどうも、可愛らしいお嬢さん。私は店主のバーモンと言います。お店で賑やかにしていることは気にしないでください、いつものことですので」


「いつものことという事は、コーレリア様はよく通われているのですか?」


「えぇ。下手したら毎日――いえ、日に二度以上はいらっしゃっていますよ。何でも、教会の料理がお口に合わないのだとかで」


 並べられた料理を改めて見直しても、至ってありきたりな家庭料理と遜色ないような気がしますが、カイナにあるというクロノス大聖堂に住んでいらっしゃる彼女としては、こちらの方が好みなのでしょうか。


「……んぐっ。だってさー、聞いてよシルシル。あそこの料理、ちょー質素なんだよ? ロールパン二個と薄い野菜スープ、あとほんのお気持ち程度の肉とかあり得ないっしょ! 無理無理」


「私はシルシルで定着していらっしゃるのですね……。ですが、確かにそれだけでは物足りなさを感じてしまいそうな気はします」


「そうっしょ!? だからウチはこっちで食べてるってこと! アンダスタン?」


「アン……? よく分かりませんが、ここのお店に通われている理由は分かりました」


 コーレリア様は私に親指をぐっと立ててウィンクを飛ばすと、再びトマトソースパスタとの格闘に戻っていきました。

 その様子を冷めた目で眺めていたシリア様は、バーモンさんへ代理で尋ねるようにと私に質問を預けてきました。


「しかし、コーレリア様は本当の女神様なのですよね? それなのに、こちらのお店に頻繁に通われていたり、教会を抜け出していたりと自由にされていらっしゃるようですが、問題にはならないのでしょうか?」


「そちらにつきましては心配ございません。コーレリア様はその点、非常に聡明であられますから」


 揃って首を傾げる私達に、当の本人がお水を飲み干してから説明します。


「ぷはっ! 教会にはウチの疑似神体を置いてんの。だから用があれば意識をそっちに移して対応するし、無いならこうやって遊んでるって訳。それにほら、ウチってばこんな見た目じゃん? だから誰もウチがコーレリアって分かんないの」


「まぁ、代理で祀られているとは言え、女神がこんなギャルになってたら泡拭いて倒れる人いそうよね」


「それなー。だから、そんな感じでお姉の国の人に迷惑掛かんない形を取ってるってこと」


『あのぼんくら以上のド阿呆かと思ったが、あ奴よりは頭が回るようじゃな』


「え、何々どゆこと? お姉ってばそんな酷いの?」


『エミリよ、あ奴が日々どんなことをしておるか言ってやれ』


「え? えっと、フローリアさんは毎日楽しそうにしてるよ? お酒飲んで、レナちゃんとわたしと遊んで、たまーにどこかに出かけて、帰ってきたらお土産いっぱいくれるの!」


「なっはははは! 何それ! お姉、大神様に怒られてこっち来たはずなのに全然じゃん! ウケるー!!」


「ははは。フローリア様らしいと言えば、フローリア様らしいのではありませんか?」


「でも自由過ぎっしょ! やっば!」


フローリア様の現状にひとしきり笑い終えたコーレリア様は、頬杖を突いてフォークを弄びながら、レナさんに向けて言いました。


「レナちー、お姉に疲れたらウチのとこ来ていいからね。言うてもウチも教会暮らしだから暇させちゃうかもだけど! なはは!」


「はいはい、考えとくわ」


「塩ー! めっちゃ塩! レナちー冷たぁい! ギブミー、ラァブ!!」


「わー! キスしようとしないで! せめてトマトソース拭いてからにして!!」


 ……やはりコーレリア様はフローリア様の妹様に間違いありません。何かにかこつけてスキンシップを図ろうとするあたり、間違いなくフローリア様の血縁者だということを分からせられます。

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ続けるお二人を見ながら食事を進めていると、ふと気になったのか、エミリがコーレリア様に質問をしました。


「あれ、コーレリアさん。今日はフローリアさんが帰ってきたから遊んでて大丈夫ってことなの?」


「そ! お姉が祭典で引っ張りだこだから、なんなら三日くらいは暇って感じ?」


「そうなんだ! じゃあ、わたし達と一緒にいてくれるの!?」


 遊んでもらえそうな相手を見つけ、瞳を輝かせるエミリ。

 そのキラキラとした視線を受けたコーレリア様は、わざわざ小さな声で「きゅん……」と言うほどときめいてしまったらしく。


「もっちろん! ウチといーっぱい遊んで、バイブス上げていこうねエミリん! カイナのいいとこ悪いとこ、ぜーんぶ教えたげる!」


「やったぁ!」


「うぇーい!!」


「うぇーい!」


 あぁ、私のエミリが異世界の文化に毒されていきます……。

 子どもの悪い成長を見守るしかない母親の気持ちは、こういうものなのでしょうか。


『……何故お主は、今にも泣きそうな顔をしておるんじゃ』


「聞かないでください、シリア様。私には見守ることしかできないのです……」


『はぁ?』


 せめて、コーレリア様のようにはならないで欲しいと強く願いながら、私はゼリーを口に運ぶのでした。

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