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7話 異世界人は苦労人

「シ~リアぁ……ごめんってばぁ。もう許してよぉ……」


『家に上げてやっただけありがたく思え。シルヴィに頼まれなければお主なぞ死んでも招かん』


「シルヴィちゃ~ん……。私もう反省してるからぁ……」


「すみません。シリア様がお決めになった以上、私からは何とも……」


 じゃれあいと言うには過激でしたが、気が済んだらしいシリア様をなんとか説得して、今は家の二階でお茶を飲みつつ自己紹介の時間になっています。

 今回の元凶となったフローリア様は、動くと何をするか分からないという理由から魔法で後ろ手に拘束された上で正座させられていて、首から『わたしがやりました。お花畑でごめんなさい』と書かれた札板を下げられています。


 騙された被害者であるレナさんも、悪ノリして膝の上に中くらいの酒樽を乗せて楽しんでいたので、フローリア様の味方は誰もいない状況です。


『して、レナと言ったか。お主はこの阿保に連れてこられてしまった、“異世界”の者というのは本当か?』


「そうよ。あたしは元々“地球”っていう星に住んでいた、何の変哲もないただの人間よ」


『異世界、地球、大神様からの勅令……。随分とおかしな運命を辿っておるのぅお主』


 シリア様は難しい顔で考えこみながらクッキーを頬張ります。

 レナさんは私達が生きている世界とは別の世界にある“地球”と呼ばれる場所で生活していたらしいのですが、ひょんなことからフローリア様と出会い、そのままこちらの世界に連れてこられてしまったそうです。


 そしてそれが神様達の中でも上位存在である大神様に見つかり、フローリア様はこっぴどく叱られた上に神としての力を封じられ、帰る手段の無いレナさんを魔女として不自由なく生活させるよう勅令を下されたのだとか。


 話の規模が大きすぎる上に飛躍しすぎていて、私は理解することが出来なかったのですが、シリア様はなんとなく理解はされたようです。


「でもあたしとしては、あっちの世界よりここの方が好きだけどね。ファンタジーだし魔女にしてもらえたし、何より若くなったし!」


「レナさんは地球ではおいくつだったのですか?」


「二十四よ」


 わ、私より全然年上です! こんなに幼い容姿をされているのに、八つも上だなんて!


「すみません、そうとは知らず失礼を……」


「あー、気にしないで! あたしそう言うの好きじゃないから。年上だから偉いとかそんなこと全くないし、何ならシルヴィの方があたしよりこの世界では先輩な訳だし」


 気持ち良く笑い飛ばしながらお菓子をつまむ姿はまさしく子どもなのですが、発言の内容が大人びているのでどうにも違和感が拭えません。


『じゃがレナよ。お主がこちらに来てしまったということは、お主の世界では歪みが出てしまうのではないか? 大神様は何か言っておったか?』


「それがね、世界の境界を越えちゃうと元いた世界では“存在しなかった”こと扱いにされるんだって。だから、地球上ではあたしは生まれてなかったって設定になっちゃったから帰れないんだって」


『それは、また何ともキツイものじゃな……。お主の帰りを待つ者もおったろうに』


 シリア様の言葉に、レナさんのお菓子を取る手がぴたりと止まりましたが、それは一瞬だけでした。


「あはは! それは大丈夫よ。あたしって長女だったんだけど、下の子達がすっごい優秀でね。家族からも嫌われて一人暮らししてたくらいだし、何年も連絡も取ってなかったから何も問題ないわ」


 レナさんはやや表情に影を落としていましたが、ぱっと切り替えて明るく振舞います。


「それにね。あたし、こうして若くしてもらえて人生をやり直せるチャンスまで貰えたのよ? 美人な女神様だけどちょっとアレで、どうしようもないとこがあるフローリアも一緒にいてくれるし」


「レナちゃん?」


「それに、魔法が使えるって凄くない!? こんな素敵な世界で自由に生きられるなら、なんてことないでしょ! むしろ大歓迎よ!」


「ねぇレナちゃん? 無視しないで? 私今、さらっと悪口言われたよね?」


「だからシルヴィ達に会えたことの方が嬉しい! ねぇシルヴィ、良かったらあたしと友達になってくれない? シリアもいい!?」


『お、おう……? また随分とポジティブじゃなお主は』


 がっしりと手を掴まれ、きらきらとした瞳で頼まれてしまいました。私とシリア様は顔を見合わせましたが、どちらからともなく応じます。


『良かろう。神祖と友達になれたなど、この世界のどこを探してもお主くらいじゃ』


「こちらこそ、お友達が出来て嬉しいです。よろしくお願いしますねレナさん」


「あ、あの~……私もお友達になりたいんだけどぉ~……」


 泣き出しそうな声を上げるフローリア様ですが、レナさんもシリア様も完全に無視しています。なんだか不憫に思えてきました……。


 私は席を立ってフローリア様の膝の上から酒樽を降ろし、拘束魔法を解除してあげることにしました。


「もちろん、フローリア様もですよ。今回の件はきちんと謝っていただけていますし、今後気を付けて頂ければ問題ありません」


「し、シルヴィちゃん……!! ふえぇぇぇぇぇん……!!」


 フローリア様は滝のような涙を流しながら、声を上げて泣き始めてしまいました。さすがに二人ともやりすぎだとは思っていたので、私くらいは優しく接しても問題ないはずです。

 ハンカチを差し出しながら慰めていると、呆れたような声をシリア様が上げ、隣でレナさんまで溜め息を吐いていました。


『やれやれ……。シルヴィの純真さには、呆れを通り越して最早言うこともない。そ奴のそれは演技じゃよ』


「シルヴィ、フローリアは噓泣き大好きだからさ……」


「え――」


 もしかして騙されたのでしょうか? と思った頃には手遅れでした。先ほどお二人にやっていたように激しく抱きしめられ、呼吸ができなくなります。こ、これは最早抱擁ではありません、暴力です!


「シルヴィちゃんありがとぉ~! シリアとレナちゃんのば~か!! シルヴィちゃんを見習いなさい! こんなに優しくて良い子なのよ! 【慈愛の魔女】は伊達じゃないわ~!」


「ふ、フローリアさん……! 苦しんぎゅっ」


「ふふふ! シルヴィちゃんは抱き心地抜群ね! 感触はシリアと似てるけど、やっぱりシルヴィちゃんの方が優しさが溢れてて柔らか~い!!」


『ほーれ、言わんこっちゃなかろう……』


「フローリア、綺麗な心の子につけ込むとかサイテー」


「そんなこと無いわよぉ! シルヴィちゃんは私の目を見て信じてくれたんだもの! これはもう愛だわ! シルヴィちゃんの愛!! 私も大好きよ~!!」


 し、死んでしまいます……! 本当に、息が! 息ができません!

 揺さぶられ、抱きしめられ、頬擦りをされ続けている内に、抵抗するのが無駄だと察してしまいました。思えば少し前もこんなことがあったような気がします。あれはなんでしたっけ……。

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